表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1186/1391

第1,186話 「戦女神の遺産⑱」

『英雄……否、かつて英雄と呼ばれし、愚かなる魂の残滓ざんしよ! 失われし南の神々と共に、地の底へ堕ちよ!』


 裁きとも思える、ルウの言葉と共に、

 一見、何もない空間へ抜き身の剣(ヘレヴシェルファ)は一直線に伸びた。


 魔道具『冥界神の兜』で身を隠した英雄を、まるで見えるが如く、あっさりと刺し貫く。


『うぎゃああああああああっ!!!』


 かつて英雄が倒して来た怪物どもと、全く変わらない断末魔の叫びが大広間中に響き渡った。


 ぼしゅっ!!!


 同時に、何かが破裂するような異音がした。

 

 古の英雄、否――神殿のいしずえとされた魂の残滓は、

 呆気なく消滅していたのである。


 そして……

 神殿全体の守護者たる英雄の魂が消滅した瞬間。


 がっこ~~ん!!!


 凄まじい異音がした。


 ルウ達が異音のした方向を見やれば……

 今迄壁であった大広間の一面がぽっかりと開き、大きく大きく開いて行く。


 今迄の仕掛けと同じく……

 大広間を護る守護者『英雄』を倒した事で、

 『最後の通路』が開いたのである。


 しかも目の前に開いたのは今までの通路とは全く違う意味合いがあった。

 ベタな言い方をすれば、『大詰め』という感がある。

 

 この通路をクリアし、行き着く先はこの神殿の最も聖なる場所である。

 いよいよ3人は、戦女神が神体としてまつられた『至聖所しせいじょ』へと乗り込むのだ。


 ちなみに至聖所とは……

 宗教的建築物、すなわち神殿などの要を為す最も神聖な場所の呼称である。


 その至聖所には……

 アラクネ同様、哀しき運命に陥った少女メドゥーサの首がはめ込まれた、

 呪われし神具『伝説の盾』が納められているはずである。


 メドゥーサの魂の解放は、この神殿へ赴く当初の目的であった……

 しかし、アラクネの昇天を目の当たりにしたルウ達3人にとっては、必ずやり遂げねばならなくなった至上命題である。


 軽く息を吐き、気合を入れ直したルウは、モーラルとテオドラを促す。

 

『さあ、モーラル、テオドラ、行こう』


『はい! 私はルウ様にどこまでもお供致します』

『テオドラも! ずっとおふたりに付き従わせて頂きます』


 気持ちはひとつ!

 頷き合ったルウ達3人は、力強く最後の一歩を踏み出したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 最後の通路も今迄と様相は全く変わらない。

 

 真っすぐで真っ白……

 まるで「これが私よ!」とわんばかりの『純白』な直線が長く長く延びていた。


 苦笑したルウ達は、慎重に進んで行くが……

 大神の妻たる女神の時とは違い、罠や仕掛けらしきものは、

 やはりというか全く無い。


 テオドラは歩きながら、モーラルへ問いかける。


『モーラル奥様』


『なぁに、テオドラ』


『これから神殿のかなめである至聖所へ、私達3人が入り込むというのに……何故、排除するような罠や仕掛けがないのでしょう?』


 テオドラの疑問は尤もである。

 モーラルは微笑み、頷いた。 


『うふふ、質問に質問で返すのは、宜しくないと思うけど……逆に、その疑問に対する貴女の考えを聞きたいわ』


 予想していなかったモーラルの切り返しに、テオドラは戸惑う。


『わ、私の考えですか?』


『ええ、たまには貴女の意見を聞きたいの』


 曖昧あいまいに笑うモーラルを見て、テオドラは正直底が知れないと、

 畏怖いふの念を覚える。

 

 そもそも、テオドラが接する事の多い、師と仰ぐ女子達の殆どが直情型でもある。


 マルガリータこと天狼マルコシアスも、炎の飛燕ことアールヴのミンミも、そして元暗殺者ダンピールのウッラも……

 良く言えば分かりやすい性格、悪く言えばすぐ感情的になる傾向のある性格である。


 一方、モーラルはといえば、常に冷静沈着で、滅多に感情を表に出さない。

 しかしテオドラは今日話していて、それは結構な思い違いだと思い知った。

 モーラルが持つ水の属性に関係なく、彼女にも自分と同じ熱き炎のような心があるのだと。


 しかしその炎は真っ赤に燃える猛炎とは違う。

 地の底深き冥界の最奥で、青白く静かに燃える高温の炎である。

 

 暫し考えてからテオドラは質問に答える。


『私は……戦女神には、己の実力に関し、絶対の自信があったからだと思います』


『己の実力に絶対の自信……成る程ね』


『はい! いろいろな方からの受け売りですが……くだんの戦女神は、存在自体がプライドそのものだという誇り高い女神でしたから』


『ふふ、確かにそうね』


『戦女神は父・大神とその兄弟達、海神、冥界神にも、仲の良かった大神の妻たる女神でさえも問題にしていなかったと聞きました』


『私も同じ認識よ。……話を続けてくれる?』


 モーラルが同じ認識……

 パーフェクトに答えを戻せるかもしれない。

 

 テオドラは大いに意気込む。

 話す口調も熱を帯びる。


『はい! 神に対してでさえそうなのだから、魔族や人間如きがこの神殿を脅かす事など可能性さえも全くない、そう決め込んでいたのでしょう』


『うんうん、そして?』


『はいっ! そして! 数々の守護者を配置し、最後にはあの猛き英雄に守らせた……自分の立てた作戦は完璧で絶対に抜かりなどない、そう信じていたに違いありません、以上です!』


 大きな自信を言い切ったテオドラ。

 しかし!


『……惜しい、90点』


 満点ではなかった?

 何故?


『え? 90点?』


『ええ、そうよ。満点にはもう少し……惜しかったわ』


 惜しかったでは、満足出来ない。

 テオドラは完全主義に近い考え方を持つ女子なのだ。


『え? モーラル奥様! マイナスの10点は? ど、どこがいけなかったのでしょうか!』


『マイナス10点はあの英雄の出自の説明……それが不足していたわ』


『あ、ああ!』


 モーラルの指摘を聞き、テオドラの表情が悔しそうに歪んだ。

 不足の部分に気が付いたらしい。


『……さすがに気が付いたみたいね。あの半神の英雄の父は大神。という事は戦乙女とは腹違いの姉弟ということになる』 


『…………』


『全弟ではなくとも、血の繋がった身内さえ駒として使い切る。神として、そこまでの非情さを見せれば、人々に畏れられ、逆らう者など居ない、自分の神殿に侵入する者など皆無、そう考えていたに違いないわ』


 モーラルの説明はけして嫌味ではなかった。

 テオドラは完全に兜を脱いだ。


『ま、参りました! 今後ともご指導のほど宜しくお願い致します!』


『了解!』


 低いが、爽やかな声で返事を戻しながら……

 モーラルは、テオドラへ優しく微笑んだのである。

東導号の各作品を宜しくお願い致します。


⛤『魔法女子学園の助っ人教師』

◎小説版第1巻~7巻

(ホビージャパン様HJノベルス)

大好評発売中!

◎コミカライズ版コミックス

(スクウェア・エニックス様Gファンタジーコミックス)

第1巻~2巻も大好評発売中!

※月刊Gファンタジー大好評連載中《作画;藤本桜先生》

☆4月17日発売のGファンタジー5月号には最新話が掲載されております。

また「Gファンタジー」公式HP内には特設サイトもあります。

コミカライズ版第1話の試し読みも出来ます。

WEB版、小説書籍版と共に、存分に『魔法女子』の世界をお楽しみくださいませ。


マンガアプリ「マンガUP!」様でもコミカライズ版が好評連載中です。

毎週月曜日更新予定です。

お持ちのスマホでお気軽に読めますのでいかがでしょう。


最後に、連載中である

「帰る故郷はスローライフな異世界!レベル99のふるさと勇者」

も宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ