第1,185話 「戦女神の遺産⑰」
ルウと神殿の守護者たる英雄は対峙し、真っ向からにらみ合っていた。
『ははははは! 小僧! お前はもう勝ったつもりでおるのかぁ』
『ふっ……じゃあ、さっさと本気を出してみろ、相手をしてやる』
『生意気な奴めっ! 出さいでか! はあっ!』
英雄は気合一閃、空中高く跳びあがった。
『はは、凄いな、英雄。お前は空を飛ぶのか?』
『まだまだまだぁ! 我の力はこんなものではないぞ! ぬおおっ!』
更に気合を入れた英雄は、手に一本の鎌を出現させた。
ルウが見やれば、金剛製らしき鎌は不気味に輝いている。
『どうだ! あの女同様、小僧! 貴様の首も切り落とし、我が盾へ飾るよう納めてくれよう!』
『ふっ、そんな、なまくら鎌で俺の首が切れればな』
『はっ! 抜かせ! その余裕、どこまで持つかな? はああっ!』
英雄はまたまた気合を入れた。
すると!
どうした事か、英雄の身体が消え始めた。
『はははははははっ』
やがて……
英雄の姿は完全に消え、ルウへの嘲笑だけが大広間に響き渡った。
『見よ! と言っても小僧! お前には我の姿が全く見えまい!』
勝ち誇る英雄だが、ルウは動じず、鼻で笑う。
『ふっ』
『行くぞ! 大神の子たる偉大な我を散々愚弄した報いを受けるが良いっ!』
英雄が言い放った瞬間!
風を切る凄まじい音がした。
そして、全く予想外の方向から見えない鎌の刃がルウの首筋を襲ったのだ。
しかし!
ルウはまるでその攻撃が見えるかのように、僅かに身体をねじった。
それだけで、攻撃を避けた。
但し、英雄の攻撃はたった一度では終わらなかった。
二度、三度、四度、執拗に続く。
八度、九度、そして十度!
だが英雄の繰り出す攻撃はことごとく、ルウに躱されてしまった。
『ば、馬鹿な! あ、ありえんっ!』
『ははっ、ありえるだろ? 論より証拠だぞ!』
ルウの言葉に、嘲りを感じたのだろうか、
英雄は怒りの感情を叫びに込める。
『くおらっ!』
しかしルウは見えない空間へ、気合と共に右拳を打ち込む
『はっ!』
どぐわしゃ!
確かな手応えがあった。
重く肉を打つ音と同時に悲鳴が上がる。
『ぎゃっ!』
ひと呼吸置いて英雄が逃げる気配がする。
再び空中へ、飛んだらしい。
『な、何故だ!?』
たかが小僧と侮ったルウには、自分の攻撃が一切通じない。
そして自身がルウの攻撃をこうして一方的に受けている。
だが!
身体が受けた痛みと、起こっている事実をけして認めたくない!
英雄の心からは、現実逃避と拒否の感情が強く放たれていた。
ルウは軽く息を吐き、高らかに言い放つ
『古の英雄よ、リアルな現実を受け入れよ』
『リアルな現実!?』
『そうだ! この世界は凄まじい速度で進んでいる。お前は旧き時代に生き、取り残された者なのだ』
『な、何! 取り残された?』
『ああ、時代遅れの神器を頼りに戦うお前の力など、もはや俺には通用しない』
ルウは見越していた。
そして相手を見切っていた。
確かに半神たる英雄は剛胆さと凄まじい膂力を誇っている。
数々の逸話も残した。
だが所詮、殆どが神器に助けられた功績に過ぎない。
そして、今やそれらの神器はルウには一切通じなかった。
『くう! じ、時代遅れの神器だとぉ!!』
『ああ、空飛ぶ靴、姿を消す兜、そして金剛の鎌……そんな子供だましの神器で俺は倒せぬ』
言い切ったルウへ、英雄は反論出来ない。
悔しそうに唸るだけである。
『ぬうう……』
『悔しいか? だが! 罪なき少女が受けた屈辱といわれのない仕打ちに比べれば、お前の心の痛みなど大した事はない!』
『う、ううう……』
『そして今! お前が犯して来た大罪を潔く償う時が来た』
『ぬおおおっ! 貴様を殺す! なぶり殺してやるっ!』
怒りに燃えた英雄は一気に殺意の塊と化した。
金剛の鎌を振りかざし、ルウへ向かって、一直線に降下して来る。
しかしルウは全く動じない。
冥界神の兜で身を隠した英雄の姿をルウは心で捉えていたからだ。
英雄の心から放たれる憤怒の感情が魔力波となり、
彼が次にとる行動を容易に告げてくれるから。
ルウは右拳を高々と挙げた。
瞬時に右拳は眩く輝き、放出された魔力波が長大な光の剣となる。
天空に広がる宇宙そのものたる創世神が、己の使徒へ授けたふたつの御業。
謳われる大技のうち、現天使長が行使する最強の破邪剣、抜き身の剣である。
『英雄……否、かつて英雄と呼ばれし、愚かなる魂の残滓よ! 失われし南の神々と共に、地の底へ堕ちよ!』
ルウの言葉と共に、
一見、何もない空間へ抜き身の剣は一直線に伸びた。
冥界神の兜で身を隠した英雄をあっさりと刺し貫く。
『うぎゃああああああああっ!!!』
かつて英雄が倒して来た怪物どもと、全く変わらない断末魔の叫び。
ぼしゅっ!!!
同時に、何かが破裂するような音がして、
英雄――魂の残滓は呆気なく消滅していたのである。
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