第1,184話 「戦女神の遺産⑯」
ルウから『愚か者』と蔑まれた英雄の影は誇りを大きく傷つけられ激高した。
怒りのあまり大広間へ響き渡る声で言い放つ。
「偉大なる我を侮辱する愚かなる人間よ!」
「…………」
「小僧! お前の言う通り! 我は常人ではない! 人にして人に非ず。神に限りなく近い偉大なる者なのだ!」
「…………」
「見よ! わが父大神から血肉を分け与えられた不滅の肉体を!」
「…………」
「肉体だけではないぞ! 最強の剣技を究め、いくつもの神器の加護を受けし、偉大なる我に勝てると思っているのか! 常勝不敗のこの我に!」
「……勝てるさ」
「小僧! 嘘をほざくな!」
「ふっ、では試しにやってみるか?」
「舐めるなあ!!!」
英雄は凄まじい雄叫びをあげると気合を入れる。
「はああっ!!!」
瞬間!
「ぶん!」と風を切る音を立て、英雄から槍が投げられた。
槍は一直線にルウへ向かっている。
しかし!
ルウは何故か避けない。
腕組みをして立ったまま、不敵な笑みを浮かべている。
寸前まで迫った槍がルウの胸を刺し貫こうとしたその時!
がいん!
重く鈍い音がして、槍は呆気なく弾かれた。
くるくると回転し、大広間の床へ転がる。
英雄は転がった槍を一瞥して「ふん」と鼻から息を出した。
少しだけ……驚きの表情が見える。
「ふん、小賢しい! 小僧め! どのような小細工を使った?」
そう言いながら、英雄は腰から提げていた剣を抜き放った。
「今のはほんの小手調べ! 果たして! ……我が剣が受け切れるかなぁ?」
問いかけと同時に英雄の巨体が跳ねた。
軽々とした身のこなしで、あっという間にルウの至近距離へ迫る。
大きな円を描いて剣が振るわれる!
風を切ってルウの頭蓋へ真上から!
無礼な奴め!
頭から断ち切られよと!
様々な敵をそうやって屠って来たのだろう。
英雄が繰り出したのはいわゆる唐竹割りである。
しかしルウは、
「遅い!」
短く言葉を発すると剣撃をあっさり避けた。
しかし英雄も返す剣でルウの胴体を薙ぎ払おうとした。
「ルウ様!」
悲痛な叫んだのはテオドラだ。
モーラルから何度も心配するなと言われても、短気さをたしなめられても、
彼女は根本的には変わらない。
ルウに対する想いは救って貰った恩だと、頑なに否定はするが……
テオドラの想いの根底にはルウへの献身的な愛がある。
やはりテオドラは自分に近しい者……
テオドラを安否を気遣う叫びを聞き、ルウの戦いを無言で見守りながら……
モーラルはそう思った。
人間の両親から魔族の夢魔モーラとして生まれたモーラルは、
命を助けられた事をきっかけにルウへの愛が生まれた。
しかし、それは単なるきっかけに過ぎなかった。
モーラルは日々ルウと暮らして行く中で……
母親から慈しんで貰った以外の愛を初めて知った。
ルウはまるで実の妹のようにモーラルを愛してくれたから。
兄に対するようなモーラルの『敬愛』は、やがて『想い人の愛』へと変わって行った。
ルウへの純粋でひたむきな愛は幸いにも叶った……
今やモーラルは妻として尽くすと共に、忠実な従士としても一心不乱に仕えている。
いずれテオドラは変わるだろう。
否、間違いなく変わって行く。
自分のように……
と、モーラルは確信するのだ。
ルウ様の強さをもっと知りなさい。
そして愛を信じなさい。
と、モーラルは心の中からテオドラへ呼びかける。
そう、ルウはとてつもなく強く、愛も深海のように深いのだ。
実際、モーラルとテオドラの目の前で、ルウは英雄の繰り出す剣撃をことごとく避けていた。
いくら攻撃してもルウを仕留められず、さすがに英雄は焦れて来ていた。
「小癪な!」
「ははっ、いくら攻撃しても無駄さ。お前の剣筋など簡単に見切れる」
「何!」
「そもそも、このように感情むき出しの剣で俺は倒せない」
「ふ、ふざけるな!」
罵声を浴びせた英雄の腹へ、ルウは黙って右拳を叩き込んだ。
「がは!」
肉を打つ重い音がし、英雄は大きく息を吐き出し、呻いた。
さすがに倒れはしなかったが、
拳を打ち込まれた衝撃から、「ぐらり」と身体も揺れる。
「くっ! き、貴様! わ、我が不滅の肉体を!」
悔し気に睨みつける英雄の顔面へ、ルウは容赦せず今度は左拳をぶち込んだ。
「ぎゃう!」
悲鳴をあげた英雄は今度こそ、大広間の床へ転がり伏した。
だがダメージは致命的なものではないようだ。
顔を上げ、殺意のこもった眼差しでルウをにらみつける。
しかしルウも鋭い視線を英雄へ返す。
「痛みと恥を知れ! そして刻め! 心と身体に!」
「な、何!?」
「神罰などと言うのもおこがましい。長き時に亘り、執拗な嫌がらせを受けた者達の痛みを思い知れ!」
「ぬうう……」
「罪深き英雄よ、戦女神を信奉するお前でさえ、巡り巡って実の祖父を殺した」
「く!」
「直接手を下さなかったとはいえ、まさに因果応報! わがままな戦女神の走狗となり果てた報いなのだ!」
たかが小虫と侮っていた者から、いとも簡単に叩き伏せられ、 歯がみする英雄へ……ルウは、止めを刺すように、はっきりと言い放っていたのだった。
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