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第1,182話 「戦女神の遺産⑭」

 長き呪縛じゅばくから解き放たれ……

 幸せに満ち、天へ還ったアラクネの安寧あんねいを願いルウとモーラルは祈った。

 テオドラも、ふたりにならい、俯き祈っている。


 だが、テオドラにふと疑問が浮かび上がった。

 モーラルからたしなめられた事もあり、暫し我慢していたが……やはり知りたくなる。


 せっかち過ぎる短所はすぐには治らない。

 性格を変える事は尚更難しい。


 浮かんだ疑問とは……

 実は、ルウに関してであった。

 テオドラは、ルウとアラクネの交歓を見ながら、いくつもの不可解さを感じたのだ。


 しかしさすがに、ルウへ直接は聞けない。

 テオドラにとって、ルウは親しみやすく敬愛する存在であるが、

 『雲の上の人』と感じる事がたまにある。


 今のルウにはまさにそうであり、聞く事が畏れ多い。

 または、はばかられる……そのような気がした。


 それ故に、デオドラはモーラルへ尋ねる。


『ちょっと宜しいですか、モーラル奥様』


『なぁに……』


『けしてお手間はとらせません。たったふたつだけお聞きして宜しいでしょうか?』


 テオドラの要望に対し、モーラルは全く躊躇ちゅうちょせず、即座にOKする。


『構わないわ、言ってみなさい』


 呆気なく了解が取れた。

 時間もなさそうだしと、テオドラは単刀直入に質問する。


『ルウ様は何故……ラミアのように、アラクネを精霊にしなかったのでしょうか? 例えば、世に数多あまた存在する不遇ふぐうな職人をそっと励ます心優しき精霊にするとか……』


『成る程、最初の質問は分かったわ、それでふたつめは?』


『はい、ルウ様に関してアラクネが告げていた意味不明というか謎めいた内容に関してです』


 しかし……

 最初の質問への反応とは全く違い、モーラルのコメントは曖昧である。


『ふふ、それについては微妙な話ね』


『微妙? どういう事でしょう? そもそも私には、アラクネが言ったルウ様の翼など全く見えません』


『…………』


『モーラル奥様! アラクネの語った内容には、一体どのような意味があるのでしょうか?』


 思わずモーラルが突っ込むと……

 言葉を選びながらという感じで、モーラルは了解する。


『意味……まあ良いわ、ふたつ目の質問も理解したから』


『あ、ありがとうございます』


 テオドラが礼を述べる、モーラルの様子が微妙に変わって来ている。


『……テオドラ』


『は、はい!』


『貴女の質問に対して、私は自分なりの言葉と解釈で返させて貰います』


『モーラル奥様なりの言葉と解釈……』


『はっきりと言明出来ない事もあるわ。詳しい事情説明は不可能なの』


『…………』


 やはりモーラルは慎重になっている。

 何故……だろうか?

 テオドラは考え込み、無言となった。


 更にモーラルは条件を付けて来る。

 質問に回答する必須条件らしい。


『私の話す内容に対し、貴女は必ず納得する、そして反論などは一切しない、このふたつを守るのならば答えましょう。ちゃんと約束出来るかしら?』


『わ、分かりました。お約束致します……どうぞ宜しくお願い致します』


『了解! では最初の質問に答えるわ。アラクネを精霊とせず天へかえらせたのは、彼女が望んだからよ』


『アラクネが望んだ?』


『ええ、そう。アラクネには添い遂げんとする、愛し愛し合う想い人が居なかったわ』


『想い人が居ない……』


『この世界に未練となる愛を残す必要がないって事』


『未練……愛を残す……』


『そうよ。戦女神による心と身体の緊縛且つ長き幽閉に疲れ果て、完全なる解放をアラクネは望んだ。敬愛する両親が居るであろう天へ還る事を望んだのよ』


『…………』


 モーラルが説明したが、テオドラは反応せず、無言となった。

 表情は……あまりかんばしくない。


『テオドラ、貴女のその様子、納得していないみたいね』


 モーラルの推察通り、テオドラは納得していなかった。

 理由を告げようとする。


『はい、何故ならば……』


 とテオドラが理由を述べようとしたが、モーラルが制止する。


『スタップ!』


『え?』


『テオドラ……また貴女の悪い癖が出たわ。忘れたの? や・く・そ・く……』


『は、はい、も、申しわけありませんっ!』


 テオドラはすぐに謝罪した。

 確かにモーラルと固く約束したのだ。

 彼女の説明に納得する、反論は一切しないと。


 そんなテオドラの心情をモーラルは見通しているようだ。


『テオドラが何を聞きたいか、私には大体分かる。だけど、一方的な己の価値観で他人を計らない事』


 モーラルは見抜いていた。

 テオドラは不満だったのだ。

 類稀な天賦の才を持ちながら、アラクネが使命を果たすことなく天へ還った事が。


『う、うう……』


『……では次の質問に答えるわ。憶えてる? 私は貴女にルウ様の存在や行いに関して、また従士の心について学べと告げた』


『モーラル奥様が私に学べ……と。は、はい、確かに仰いました!』


『ならば! 私の言葉とアラクネが発した言葉、……双方を思い出し刷り合わせれば自ずと答えは見えてくるはず……』


『う~』


 テオドラは唸った。

 いくら考えても、答えは見えて来ないからだ。


『ここで答えを導き出さずとも、構わない。屋敷へ帰ってからじっくり考えれば良いわ』


『…………』


『但し、ひとつだけ厳守して』


『げ、厳守?』


 テオドラは驚いた。

 そもそも厳守とは、約束や規則を厳しく守る事だ。

 しかしモーラルがそこまで厳しく言うのは珍しいのである。


 更にモーラルの『念押し』は続く。


『貴女の口から、アラクネが告げた言葉を軽はずみに発してはいけない。何故ならば貴女はアラクネのように消滅するから』


 消滅!?

 モーラルの口から決定的な言葉が出た。

 テオドラは改めてモーラルの表情を見たが、冗談を言っている雰囲気ではなかった。

 ここは当然、モーラルに対してもっと詳しい説明を求めるしかない。


『え? しょ、消滅!? アラクネのようにって!? い、意味がわ、分かりません!』


『ルウ様の秘密を口にするものは、死を以て償う。それが……この世界のことわりのひとつ……』


 と、モーラルは遠回しな言い方ではなく、シンプル且つストレートに言い切った。

 片や、戸惑うテオドラは再度聞いてみるしかない。


『ルウ様の秘密を口にしたら、死を!? そ、それが、こ、理……』


『先に貴女が守ると誓った約束を一度だけ、復唱します。私の告げた事実のみを受け止め、厳守しなさい。……死にたくなければね』


 死にたくなければ!?

 やはり!

 間違いや聞き違いではなかった。


 テオドラは思わず絶句し、上手く言葉が出て来ない。


『う、ううう……』


『理解と認識は後でゆっくりすれば良いと思う』


『…………』


『話は以上! さあ、行くわよ、ルウ様と共に哀れなメドゥーサを救わなくては……』


『…………』


 呆然としているテオドラを尻目に、モーラルはさっさと歩きだした。

 既にその先をルウは歩いていた。


『お、お待ちくださいっ!』


 慌てたテオドラは必死に追う。

 ルウの後を、そしてモーラルの後を。


 未だに理解不能な事だらけだが、テオドラにはひとつだけ分かった。

 

 それは……今回の件だけではなく、

 これからルウ、モーラルと共に3人で歩く道が、

 とても険しい命を懸けた隘路あいろという事であった。

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