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第1,180話 「戦女神の遺産⑫」

 モーラルの熱き言葉は、ついにアラクネの魂を揺り動かした。

 

 ここから先はあるじルウの仕事である……

 万事心得たモーラルは手をゆっくりと動かし、傍らのテオドラへ左後方に移るように指示、自らも右後方へ退いた。


 まるで道が開通したように……

 真ん中がぽっかりと空いた。


 未だ姿を見せぬアラクネとルウは蜘蛛の糸をはさみ、直線で対峙する形となる。

 改めて状況を確かめたモーラルは背後のルウへ振り返り、深々とお辞儀をした。


『ルウ様、アラクネへは私達の意志と気持ちを確かに伝えました。後は彼女へ進む行く末の選択肢を示されるよう、宜しくお願い致します』


『分かった。モーラル、そしてテオドラ、ふたりとも本当によくやった』


 ルウはそう言うと、一歩二歩と大きく前に踏み出した。

 

『アラクネ、俺の名はルウ、ルウ・ブランデル。かつて創世神へ仕えた第一使徒ルシフェル唯一の契約者であり、彼のこころざしを継ぐ者だ』


『ル、ルシフェル!?』


 アラクネは目の前の男から、突如堕天使ルシフェルの名が出て、ひどく驚いたようだ。

 しかし、ルウはそのまま話を続ける。


『ルシフェルの事は、お前も知っているだろう……』


『…………』


『お前を蜘蛛の姿に変えた戦女神は、創世神に反逆したルシフェルを傲慢で愚かな者だと常にさげすんでいたに違いない。しかし……真に愚かなのは戦女神の方だ』


『…………』


 アラクネは黙っていた。

 戦女神を愚弄した罪を悔い自死したのに、無理やり生き返させられ……

 更におぞましい蜘蛛に姿を変えられた彼女にとっては、ひどく苦い記憶に違いない。


『お前の尊厳をおとしめた戦女神も、彼女の父である大神も、もうこの世界には存在しない』


『…………』


『いわば因果応報。創世神により日頃の行いを厳しく罰せられ、魂と肉体は既に砕け散った』


『…………』


『俺と契約したルシフェルはお前と同じ、創世神に逆らい傲慢のレッテルを貼られた』


『…………』


『しかし! ルシフェルは先ほどモーラルがお前に贈った言葉通り、何があろうと己を全く変えず、意志だけは見事に貫いた』


『…………』


『だが、志は理解されず、不届きな反逆者として地の底へつながれてしまった』


『…………』


『今一度言おう、アラクネ。ルシフェルとお前は同じだ。崇高な志を、己を貫こうとする強固な意思を持つ者なのだ!』


 アラクネは相変わらず黙っていた。

 だが心には、先ほどモーラルが告げた言葉が甦って来る。


 《人であれ、妖精であれ、忌まわしい悪魔でさえ……たとえ何者であっても……理不尽な仕打ちを受ければ、創世神にでも真っ向から意見し、精一杯抗う》


 そう……

 アラクネは人間の女性を弄ぶ大神に対し、自分が出来うる精一杯の抗議をした。


 非道な行いを諫める為、持てる神の力を正しく使って欲しいが為、

 大神の愚かな行為を機織り作品の題材としたのである。


 《圧倒的な力に蹂躙されようとも、正しき己を貫き通す事は……まさに真理だと》


 そう、確かに自分は……

 神をも超える類稀たぐいまれな才能を持つ事におごり高ぶっていた。

 人の子として敬うべき神を冒涜もした。

 

 己の未熟さは振り返り、正し……

 人の子としてしっかり省みなければならないと今更ながら思う。


 だが……戦女神へ正々堂々と挑み、腕を競い、

 大神の『愚かな所業』を公にさらした行為に全く後悔はしていない。


 旧い記憶を手繰たぐり、「つらつら」考えるアラクネへルウは告げる。


『今や真理を悟ったお前にならルシフェルのこころざしが理解可能であり、共感も出来るはずだ』


『…………』


『アラクネ、お前は神をも超える人の子の可能性を垣間見せた。しかし限界を超える人の子の力を怖れた戦女神により、このような姿におとしめられ、優れた才能は葬り去られた』


『…………』


『思い切り、そして存分に……己が持つ志を語るが良い。アラクネ、お前が語り終えた時に、俺はお前の志も継ぎ、人の子として限界を超えた姿を見せよう』


 己が持つ志を語れ?

 いや、黙っていてもルウが今、語った内容で、

 または過去の記憶を手繰った心の波動で、

 アラクネは自分の志がしっかり伝わっているはずだと確信する。


 それよりも……すぐに確かめたい事が、アラクネにはある。


『私には感じるし、分かる! ルウ!? い、いえ、ルウ様! あ、貴方も! 貴方も人の子であって、そうではない者だ』


『…………』


『何故ならば! 人の子とは私のように未熟で不完全な者!』


『…………』


『私は貴方様が仰る通り、人の子の限界を超え、神をもしの機織はたおりの力を持っていた。無限の可能性の片鱗を見せていた』


『…………』


『故におとしめられ、その力と可能性を封じられた。人はけして神を超えてはならないと魂に刻まれ、姿を変えられ、身体へ教えられたのだ』


『…………』


『ああ、ルウ様! 貴方様がこれから私へ、お見せしようとする真のお姿が見える』


『…………』


『貴方様はその手に全てのよこしまなる悪意を懲らしめ、正し、時にはくだす破邪の光剣を、その背には嘆き加護を求めし者を優しく守護する神々しい純白の翼をお持ちだ』


『…………』


『いずれも! 間違いなく創世神様のふるわれる偉大な神の御業みわざである! その御業を併せ持つ者、天の使徒をも超える存在の貴方はまさしく! 創世神様が原初に土くれからお創りになった、始まりの子だ! 創世神様に限りなく近い完全なる人の子、私達数多ある人の子のかなめとして、最初に生まれた者なのだ!』


『…………』


『ルウ様! あ、貴方様は唯一無二の存在! 3人の選ばれし使徒のひとりでもある!』


『…………』


『そ、そのような偉大な御方が! はるばるこの忘れ去られた異界の果てへ!? わ、私のようなみにく下賤げせんな者を救う為に! わ、わざわざ! い、いらして頂いたと仰るのですか!』


 瞬間!

 「ばりばり!」と何かが千切れる音がした。


 突然、ルウ達の目の前にある絡み合った強力な蜘蛛の糸が破れ、

 ぽっかりと穴が開いた奥から……醜悪で巨大な蜘蛛の姿が現れる。


 驚く事に何と!

 巨大な蜘蛛の顔だけは……可憐な少女であった。


 今やおぞましい蜘蛛と化した少女の目は真っ赤で、

 美しい顔はたくさんの涙にまみれていた……

 そう、彼女がいにしえの時代に生きた薄幸の少女アラクネである。


 アラクネをじっと見つめたルウは哀しく微笑む。


 そして無防備に躊躇ちゅちょなく近付き、

 泣きじゃくるアラクネを優しく抱き締めたのであった。

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