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第118話 「忠義」

「ここは!? 本当に私の屋敷なのか?」


「ああ、親爺さんの書斎さ。さあ行こう」


 ルウはジェラールを促すとドアを開けて書斎から出た。

 するとたまたま廊下に居た雑役女中メイド・オブ・オールワークスが悲鳴をあげた。


「だ、旦那様がっ!」


 口をぱくぱくする女中、何故ここにという言葉が出てこないのであろう

 女中の悲鳴を聞いて駆けつけたのは従者ヴァレットの男である。


「どうした!? ジーナ」


「ああ、アンジェロ! だ、旦那様がいつの間にかお戻りに!」


「え? まさか!? あああっ! ほ、本当だ!」


 明らかに動揺している2人。

 ダニエル・アルドワン侯爵の言う通り、買収されているのであろう。

 踵を返して必死に逃げようとする。


束縛リスツリクシェンズ!」


 またもやルウの「束縛」の魔法が2人の自由を奪う。


「正直に言え、お前達は買収されているな?」


 アンジェロとジーナは四肢が強張り動かない自分の身体に呆然としている。


「沈黙は肯定とみなすぞ、どうなんだ?」


「俺はし、知らない!」「知らないわぁ、濡れ衣よぉ」


 必死で否定する2人にジェラールが物憂げな表情で問い質した。


「で、では何故私の顔を見て逃げようとした?」


「そ、それは……」


 ジーナが口篭るのを見てアンジェロが口を開いた。


「ええ、確かにジーナは買収されていました。ふてぇ奴ですよ」


「なっ!? ず、ずるいっ」


「俺は知らねぇ、知らねぇからな」


 どうやらアンジェロは自分だけでも助かろうと思ったらしい。

 言い争う2人をうんざりしたような目で見詰めるジェラール。

 その彼の肩をポンとルウが軽く叩く。


「親爺さん、早く家令アルノルトさんを見つけよう。幸い彼の魔力波オーラの反応はあるから生きているぞ。おいアンジェロと言ったな、アルノルトさんはどこだ?」


「何だ、てめぇは! ご主人様ならともかくお前に答える筋合いはない!」


 アンジェロは口汚く罵るとそっぽを向いた。

 彼を叱りつけようとするジェラール。

 しかしルウはをそんなジェラールを手で制した上でアンジェロに向かって言い放つ。


「ははっ、怖い物知らずで元気だけは良い。だけどあまりにも愚かだな」


 それを聞いても相変わらずルウの言葉を無視するアンジェロである。


「まあ良いさ、お前の口からいろいろ話して貰うよ。白状コンフェッション!」


 ルウの魔法が発動するとアンジェロの口が不自然に動き始めた。


「アルノルト様は納屋に……縛り上げてあります。侯爵様に逆らえば殺されるとあれほど言ったのに! ええっ? 何故こんな事をぺらぺらと? あうううう!」


 喋ってから、驚きの余り目を見開き思わず口を押さえるアンジェロ。

 何と彼の意思とは全く関係なくルウ達にアルノルトの監禁の事実を白状したのである。


 そこにジェラールの警護役の騎士2人が抜刀してやって来た。


「そこの反逆者に、不審者め! 貴様等、大人しくしろ。使用人達を放すんだ」


束縛リスツリクシェンズ白状コンフェッション!」


 すかさずルウの言霊が響く。

 魔法の効果でいきなり四肢が重くなり、床に座り込んでしまう2人。


「むう……そうか、お前達も侯爵に買収されたのか?」


 返って来る答えが分っていながらもジェラールが悲しそうに問い質す。


「は、はい。協力すればアルドワン侯爵家の若い家令から侯爵家の従士に取り立てて、ゆくゆくは最低でも男爵にしてやると……」


「わ、私も美しい女を妻としてあてがってやると」


 2人は苦しそうに言うと下を向いてしまう。


 今度はルウが2人に問う。


「騎士隊隊長のライアン伯爵は知らないのだな?」 


「我々だけが美味しい目を見ようと思ってこの話を受けました。ライアン隊長や他の騎士に告げるなど、とんでもない」


「私は美しい妻を娶れそうだと自慢をしておりました」


 ルウはそれを聞いて肩を竦めると最後の質問だと切り出した。


「お前達はギャロワ伯爵がこの屋敷で亡くなった後の処理も頼まれていたのか?」


「は、はい。ギャロワ伯爵が自ら死を選ばれたとライアン隊長に報告して、その時にこの遺書を渡す手筈になっておりました」


 騎士の1人が懐から1通の書状を取り出した。

 それがダニエルが言っていた偽の遺書であろう。


「我が手に……得よオプティン!」


 ルウの言霊が発せられると書状はその瞬間にはもう彼の手の中にあった。

 術者の望む物を得られる、いわゆる『引き寄せ』の魔法である。


「よし、お前達は隣の部屋に入っていろ」


 ルウはそう言ってその場に居た4人を部屋に押し込め、『物理的魔法障壁』に加えてドアに『施錠』の魔法を掛けて彼等を軟禁したのである。


 それからルウとジェラールの2人は屋敷に居た残り数名の使用人からも侯爵に買収された話を吐かせ、逃げられないように束縛の魔法を掛けた上で納屋に駆けつけた。

 そこにはアンジェロが白状した通り、家令のアルノルトが猿轡を噛まされ緊縛されて床に転がされていたのである。

 老人であるアルノルトは気を失って衰弱していたので、ルウは急いで縛を解き体力回復の魔法を掛けた。

 それをジェラールは呆然と見守っている。

 彼の心の中には、もう驚愕の文字しかなかったのだ。


 治癒の魔法までも使いこなすのか……

 彼は……どこまで底が知れないのだ。


 そんなジェラールをルウは促してアルノルトの傍らに行かせる。

 ジェラールが屈み込んで思わずこの忠実な家令の名を数回呼ぶと、やがてアルノルトが目を覚ました。

 アルノルトは彼に気付くと弱々しく微笑みかける。


「よ、よかった……ご、ご主人様、ご無事で……」


「ア、アルノルト! お、お前は、お前という奴は……」


 こんな状態でも自分より主人の事を気遣うアルノルトにジェラールは再び彼の名を呼んで抱き起こすと思わず男泣きしたのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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