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第1,178話 「戦女神の遺産⑩」

 戦女神が仕掛けた罠……

 『キマイラ無間召喚地獄』を見事に噛み破ったルウ達は、

 施錠の魔法が解け、解放された出入り口から、更に神殿の奥へと進んで行く。


 この神殿の最奥に、最強且つ最凶ともいえる魔法の盾が納められているはずなのだ。

 盾に縛られた怪物メドゥーサの首、そして人としての魂を解放、

 最終的には安寧たる永遠の眠りについて貰う。

 それがルウ達3人の、そしてブランデル邸で待つニンフふたりを始めとした家族の切なる願いである。


 相変わらず、ルウ達が歩く通路は一本道であった。

 魔法、もしくは視認で確認しても仕掛けや罠らしきものは見当たらない。


 しばし歩くと……

 また「ぽっかり」と入り口が開いていた。

 多分第2の『玄室』なのであろう。


 部屋の中には、先へ進む出入り口はないようだ。

 先ほどの部屋と同じく、仕掛けが隠されているに違いない。


 今度は……『玄室』の内部に何者かが居る。

 確信出来る。

 はっきりとした気配が伝わって来るからだ。

 そして部屋中に何か細い糸状のものがびっしりと張り巡らされていた。


 気配を通じ、モーラルとテオドラにはピンと来た。

 先ほどルウから『哀れな女性』の話を聞いたからだ。

 そう……

 自死しても許されず、無理やりに転生させられ、姿をおぞましい蜘蛛に変えられたアラクネである。


 モーラルが目で合図し、テオドラが同意して頷いた。


『ルウ様』

『今回は奥様と私にお任せください』


 ふたりのうち、特にテオドラには気迫が漲っている。

 今度はルウに先駆け、『従士として務め』を果たすつもりなのだ。


 どうやらモーラルの助言など、どこか遠くへ飛んで行ってしまったらしい。

 そんなテオドラの様子を見て、「入れ込み過ぎ」とでもいうように、

 モーラルが「ふっ」と笑う。


 ルウだって、ふたりのやる気に水を差すつもりは全くない。


『ああ、お前達に任せよう。俺はやや後方に位置し、回復役ヒーラー後方支援役バファーに徹する。何かあれば言ってくれ、すぐにフォローする』


『ありがとうございます、難儀したらお願い致します』

『了解です、私達に任せてください』


『良いか、モーラル、テオドラ。念の為に言っておく』


『はい!』

『ルウ様! アドバイスをお願い致します!』


『よし! まずはお前達の命と身体は第一優先、これはどんな事があろうと絶対に変わらない、それをまず肝に命じてくれ』


『了解です、旦那様』

『ルウ様、かしこまりました』


『その上でだ、待ちうける相手がたとえ守護者であっても、またこちらの呼びかけを無視し、攻撃をしかけて来たとしても、……すぐに倒すな』


 まずモーラルとテオドラの安否を。

 更に敵となる相手を思いやるルウの言葉には重みがある。

 

 水霊ナーイアスのリゼッタは守護者の任を命じられ、

 おぞましい怪物スフィンクスに姿を変えられていた。


 もし何の考えもなしにスフィンクスを倒していたとしたら……

 ブランデル邸で見せる幸せいっぱいなリゼッタの笑顔は、

 永遠に失われていたはずだ。


 モーラルもテオドラもルウの言う通りだと納得している。


 出来るものなら……何とか、アラクネを救いたい。

 結果がどのような事に、どのような形になるにしろ、

 アラクネに人間としての、晴れやかな笑顔をとり戻させたい。


 モーラルとテオドラは再び頷き合うと、

 「ずいっ」と入り口へ一歩を踏み出したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 玄室……部屋の中は、思った通り蜘蛛の糸でいっぱいであった。

 糸は複雑に絡み合い、視界が遮られ、向こう側の壁は殆ど見えない。


 小さな蜘蛛が吐く糸だが、その性質性能は驚異的でさえある。

 まず鋼鉄の数倍の強度を誇る事がモノ凄い。

 重量も同じ強度の鋼鉄の約五分の一以下。

 燃え盛る炎にも滅法強いという。


 この部屋の守護者がもしもアラクネであるならば、通常の蜘蛛の糸の、

 数倍以上の強化をしていると考えたようが良さそうだ。


 それにモーラルは最初からアラクネと戦うつもりはなかった。

 哀れなアラクネへ 精一杯の呼びかけ、誠意を示し、投降させた上で……

 ルウ、テオドラと3人で何とか救われる方法がないか模索したいと考えていた。


 もしもアラクネを説得する為に必要ならば、己の悲惨な出自などさらけだしても構わないとも、モーラルは思っていたのだ。


 相変わらず、血気にはやるテオドラを抑えながら、モーラルは『巣』と思われる辺りへ呼びかける。

 肉声と念話、両方を使って……


『アラクネ様、アラクネ様、私達は貴女を害するつもりはありません、戦いたくないのです』

「アラクネ様、アラクネ様、私達は貴女を害するつもりはありません、戦いたくないのです」


 肉声と念話を同時に伝えた上で、今度は告げる内容を変え、交互に呼びかける。


『いきなり信じてと頼んでも難しい事は分かっています。私達は囚われたニンフ達、そして蛇身と化したラミアを救い、解放した者なのです』


「いきなり信じて、と頼んでも難しい事は分かっています。私達は囚われたニンフ達、そしてラミアを救い、解放した者なのです」


 モーラルが数回よびかけたが、反応は……ない。

 

 しかしこの部屋にアラクネは確かに居る。

 息を殺し、潜んでいる……そのような気配が伝わって来る。


 この停滞状況に、短気なテオドラは早くも痺れを切らしたらしい。


『モーラル奥様、このままではらちが明きません……』


 先ほど『従士の心得』を伝えてから、敢えて注意をしなかったモーラルではあったが……さすがに指導せざるを得ない。


『焦らないで、テオドラ。性急さは事を仕損じる。少し落ち着いて……ね』


 モーラルは説得を試みたが、テオドラは納得しないようだ。


『しかし!』


『聞こえないの、テオドラ。落ち着きなさいと言ったわよね?』

 

 淡々としながらも突き刺さるモーラルの言葉。

 テオドラは思わず口ごもる。


『う!』


『ニンフ達やラミアの話をもう忘れたの? そしてルウ様の今為されたご注意も』


『うう……』


『テオドラ、今回は良い機会です』


『今回が? 良い機会……なのですか?』


『ええ、戦士として従士として、待つ事、退く事、ふたつの大いなる勇気を学びなさい』


『戦士として従士として待つ事? 退く事? 大いなる勇気? モーラル奥様……それってもしや戦う際の忍耐とは同意なのですか?』


『うふふ、同じか、それ以上、心の強さを持つって事よ』


『?? は、はい……』


 口ごもって返事をしたテオドラはいまいち理解出来ていない。

 そんなテオドラへ、モーラルは黙って優しく微笑んだのである。

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