第1,166話 「教育実習⑫」
いよいよ……
フランソワーズ・グリモールによる、
『恋する乙女』マノン・カルリエの特別カウンセリングが始まった。
普段は相手を見下ろしながら、凛とした声で高圧的に話すマノンであったが……
今の彼女は、まるで『蛇に睨まれた蛙』である。
おどおどして落ち着かないマノンは……
いつもの冷静さを完全に失っていた。
秘めたる心の内を明かすのに、散々迷っていたマノンであったが……
カウンセラーたるフランソワーズへ本音を告げないと、話は絶対に始まらない。
この状態が続く事が、さすがに時間の無駄だと悟り、ようやくマノンは覚悟を決めた。
まるでタイミングを計るかのように、大きく息を吸い込む。
重大な事を告白しようとする、彼女特有の大切な『予備動作』だ。
しかしフランソワーズは意外にも……
まるで、マノンの追い詰められた心情を読んだかの如く、
素早く手を挙げ、ストップをかけた。
「マノンさん、待ちなさい」
「へ?」
思わずマノンは、ずっこけそうになった。
しかしフランソワーズは、全く想定外な言葉を告げる。
「気が変わりました。とりあえず私からお話ししましょう」
「は、はい?」
マノンは一応返事はしたが……
とても怪訝な表情をしていた。
気が変わった?
あれだけ、煽ったのに?
私の心を悪戯に弄んだのに何故?
そして……
ここまで追い詰めたのに?
不可思議だという想いと、疑念が……
マノンの顔に、はっきりと表れていた。
そんなマノンの気持ちを知ってか知らずか、
フランソワーズは飄々と話し始める。
それもズバリ単刀直入に。
「宜しくて、マノンさん」
「は、はい!」
「恋する貴方の好みを、私は良~く分かっています。念の為、好みといっても趣味嗜好ではなく、当然男性の好みね」
「わ、わわわ! 私の好み!? だ、だ、男性のっ!?」
いきなりの、ど直球に慌てふためくマノン。
しかし、フランソワーズは容赦なく話を続行する。
「はっきり言います、マノンさん。貴女は天才肌の女性です。けして努力型ではありません」
学園史上最高の天才と謳われたフランソワーズの前では……
さすがのマノンも、その表現は否定せざるを得ない。
「ち、ち、違いますよっ! わ、私は! せ、先輩とは違いますっ! けして天才などではありませんっ!」
しかし、
マノンの必死な猛抗議も、「柳に風」である。
先輩の貫禄なのか、フランソワーズはどっしりと構えている。
「まあまあ、マノンさん、落ち着いて。私の話はまだ始まったばかりですよ」
「…………」
言葉が出ず、無言となったマノンへ、フランソワーズはきっぱりと言い放つ。
「貴女はね、マノンさん。天才ゆえにありとあらゆる事が無理なく自然と出来てしまう。だから殆どの難事も努力など不要のように当たり前の如くクリアする」
「…………」
「それ故、自分と同じ事が出来ない他人が馬鹿に、そして愚かにも見えるのよ」
フランソワーズの言い方は極端だ。
そしてマノンに対して、とても失礼である。
しかし今のマノンに、反撃する余裕は全くなかった。
「い、いいえ、そ、そんな事は……あ、ありません……け、けして……」
「否定しても無駄よ。その証拠に貴女は今迄恋した事がなかった」
「…………」
フランソワーズの指摘で、衝撃の事実が発覚した。
学園内では恋多き女と見られていたマノンが!?
恋をした事のない、純情な乙女だったとは!
「マノンさんはこれまでに出会った全ての男性を見下していた。だから相性ぴったり、ジャストな相手と巡り逢えなかった」
「…………」
「当然ね。貴女が認め、愛し愛される事を欲する想い人は、天才の貴女を遥かに超えたスケールを持つ、器の滅茶苦茶大きい男性だもの」
「…………」
「でもね……そんな男性は殆ど居ない。ヴァレンタイン王国、否、世界広しといえど、万に、ひとりたりとも居ないわ」
「…………」
「しかし、けして妥協はしたくない。自分の本音を偽りたくない。真摯な想いを貫きたい。すなわち貴女が心の底から尊敬出来る男性でなくては合格とはいかない」
「…………」
「だけど、思い描く理想は所詮まぼろし。女子の誰もが夢見る白馬の王子様は現実には存在しない」
「…………」
「もしも居るとすれば、せいぜい架空の小説の中だけ……それを理解していた貴女はず~っと悩みに悩んでいた」
「…………」
「どう? 当たってる?」
ダンマリを決め込むマノンに、フランソワーズは微笑みながら確認した。
当たっているのだ。
全く反論の余地もなく……
マノンはもう素直に肯定するしかない。
「……あ、当たっています……先輩、お見事です」
「うふふ、良かった。じゃあ話を続けます……そして貴女にはある日、奇跡が起こった」
「き、奇跡が……起こった……」
「ええ、暗く長き厳しい冬に閉ざされていた貴女の恋にも、ようやく温かい陽の光が射した。素敵な春が訪れたわ。遂に、理想以上ともいえる素晴らしい男性が現れたのよ」
「う、うう……そ、それは」
話が核心へ近付いたのを察知し、マノンは激しく動揺する。
「では! ズバリ言いましょう。その男性の……マノンさんの想い人の名は、ルウ……」
「ま、待ってくださいっ!!」
話の途中ではあったが……
ハッとしたマノンが突然大声を出し、フランソワーズの声を遮った。
「せ、先輩っ! お願いですっ!」
「なあに?」
「私が己の人生を懸ける恋の相手の名は、この相談の一番最後に仰ってくださいっ」
「……良いでしょう。ではそこだけは最後に告げるとして、改めて話の続きを進めますね」
「あ、ありがとうございますっ! 先輩に感謝致しますっ!」
気持ちが大きく高揚したマノンが見やれば……
フランソワーズは、何事もなかったかのように、優しく笑っていた。
安堵したマノンは思わず脱力し、大きく息を吐いたのである。
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