第1,165話 「教育実習⑪」
『相談希望者』ステファニー・ブレヴァルは、憧れの先輩フランソワーズから励まされ、
適切なアドバイスもして貰い……
満ち足りた表情で、生徒会会議室を出て行った。
この日、最初のカウンセリングが無事に終了し、フランソワーズは、軽く息を吐く。
そして間を置かず、次の相談者を呼ぶ。
「では次の方!」
「はいっ!」
会議室内のフランソワーズから呼ばれ、大きな声で即座に返事をした生徒が扉を勢いよく開けた。
「失礼します」
綺麗な栗色の長い髪を持つ、長身の少女は優雅に一礼した。
対して、フランソワーズは先ほどのステファニーと同じセリフを繰り返す。
「ようこそ! 悩める子羊よ」
「悩める子羊? ええ、確かにその通りですわね」
フランソワーズの呼び掛けに対して、大きく頷き、肯定した栗毛の少女は……
意外にも……
生徒会副会長のマノン・カルリエであった。
かつてのジゼル同様、我が道のみを行くという主義のマノンは、
他人に相談など、滅多にしない。
しかし、今回だけは方針を変えたのである。
フランソワーズのカウンセリングについても、最初は半信半疑のマノンであったが……
相談者の誰もが満ち足りた表情をして、会議室を出て来るのを目撃し、
自らも『恋する乙女』として、アドバイスを貰うべく、しっかりと『予約』を入れていたのだ。
ジゼルに関しては例外の感もあったが……
フランソワーズは基本的に、相手が誰であれ、ほぼ同じ対応をする。
「宜しい! 悩める子羊よ、この特別カウンセリングは完全予約制です。念の為、お名前をお聞かせ願います」
「は?」
マノンは首を傾げ、怪訝な表情となる。
何と!
『本人確認』を求められたからである。
「……って、何を仰っているのです? 先輩! 私は生徒会の副会長ですよっ! 先輩は先々代の生徒会長、いわば生徒会つながり、直系の後輩ですわ!」
だが、マノンの指摘に対し、フランソワーズは当然という顔つきで小さく頷くのみである。
「ふむふむ」
「何がふむふむですかっ!」
ついかっとなり、怒りの感情に火が点いたマノン。
フランソワーズへ詰め寄ると、まるで速射式の魔法の如く、言い放つ。
「私をご覧になって分かりませんか、フランソワーズ先輩! その上、貴女とはこのところ毎日この生徒会室でお会いしていますわっ!」
しかし、フランソワーズは全く動じない。
いつもの通り、冷静沈着、且つ泰然自若である。
「貴女こそ何を仰いますか? たとえ何者であろうと、何事も確認が必要なのですよ」
「は? 何事も確認が必要?」
何故?
という文字が顔にはっきり書いてある。
マノンはそんな表情をした。
しかしフランソワーズは、構わずに言い放つ。
「はい、絶対に本人である確認が必要なのです」
「むむ……」
「何故ならば、貴女がマノンさん本人になりすました別人ではないという保証は全くありません、私の目の前に居る生徒が邪な魔法を使い、変身した可能性はゼロではないのです」
「え? わ、私が別人?」
「はい! 万が一不測の事態となり、本物のマノンさんに多大な迷惑がかかったら、一体誰が責任を取ると仰るのですか?」
「え? 責任?」
「うふふ、それとも! 貴女にはちゃんと名乗れない特別な理由があるとでも?」
高を括っていた。
いくら天才と謳われる先輩とはいえ、同じ貴族のお嬢様だと思い込んでいた。
速射砲で攻め込み、フランソワーズから主導権を取ろうとしたマノンであったが……
逆に輪をかけた反撃を喰らってしまった。。
マノンは到底、フランソワーズには歯が立たないと感じたらしい。
「ううっ、さすがの私も口だけは先輩に敵いません。ここは一時退いておきましょう」
「ふふ、さすがの私? 口だけは敵わない? 一時退く? 私もけして人の事を言えませんが……マノンさん、貴女もまともには素直になれない、相当プライドの高い自信家のようですね」
「ほ、放っておいてください!」
「放っておけ? では私のカウンセリングなど一切不要ですか?」
最後には言葉尻を捉えられ、カウンセリングなし?
と、衝撃の通告が。
それだけは困る!
マノンは慌てて、食い下がる。
ここはもう、なりふり構わず謝るしかない。
「い、いえ! 先輩! 全て私が悪うございました。改めて名乗ります。2年A組所属マノン・カルリエです。何卒宜しくお願い致します」
マノンが丁寧に謝罪すると、フランソワーズはにっこり笑う。
どうやら……怖い先輩の機嫌は直ったようだ。
「最初からそう言えば宜しい! ではマノンさん、貴女のカウンセリングを開始致します。もしも悩みがあれば遠慮せず仰って頂けます?」
フランソワーズの問いかけに対し、
「じ、実は……う、ううう」
「どうしました、マノンさん」
「ううううう……」
「時間が限られています。悩みをはっきり仰ってください。まるで犬のように唸っていますけど? 貴女はワンちゃんなのですか?」
「い、いいえ! 全く違います! 断固として否定します! 私はけして犬などではありません」
「あら? ではどうして、唸ったりするのですか?」
「わ、分かりませんかっ!? いくらカウンセリングとはいえ、赤の他人へ自分の心の中身を全てさらけ出すのですよ。告白する準備が必要なのですわっ!」
「うふふふ、ほほほほ、準備って可笑しい~」
「な、何が可笑しいのですか! 先輩っ!」
「とても可笑しいわ、マノンさん。私が知る限り、貴女はそんな繊細なタマじゃないんだもの」
「私が!? そんな繊細なタマじゃないって! 言うに事を欠いて何ですかっ! 先ほどから凄く失礼ですよ、先輩!」
と、さすがにマノンの怒りが頂点に達した瞬間。
ひんやりと冷たい空気が部屋に流れ、凛とした声が響き渡る。
「黙りなさい、マノン・カルリエ!」
「ひ!」
マノンはフランソワーズの一喝に凄まじい迫力を感じた。
身体が、四肢が、心までが恐怖で固まるのを感じる。
「私のカウンセリングを受けたいのなら、素直に指示には従いなさい」
「は、はい……」
仕方なく……
マノンは素直に返事をした。
もしも逆らったりしたら?
想像さえもしたくなかった。
「分かりましたね?」
「は、はい……わ、分かりました」
というわけで、なんやかんやあったが……
マノンはようやく、フランソワーズのカウンセリングを受ける事となったのである。
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