第1,163話 「教育実習⑨」
ここは魔法女子学園本校舎、生徒会室奥にある専用の会議室……
フランソワーズが行う特別カウンセリングの為、一時的に貸し出されていた。
既に夕方である。
特別カウンセリングは、本日の予約人数5人の分が終了していた。
受付け等の事務作業をしていたオレリー、マノン達生徒会のメンバーもとっくに引き上げている。
会議室の使用時間外ではあるが、今ふたりの人間が向かい合い、話している。
ひとりはカウンセリングを行っていたフランソワーズ・グリモール、もうひとりは先ほど押しかけて来た前生徒会長ジゼル・カルパンティエである。
ふたりはかつて、『最強コンビ』と学園内で称された事もあった。
毎年行われる魔法男子学園との対抗戦では、お互い対戦相手を全く寄せ付けず、文句なしに圧勝したものだった。
公私共々、仲だって当然良い。
というか、ジゼルはフランソワーズに憧れて尊敬、否、
主任教師のシンディ・ライアンと同様に、理想の女子として崇拝さえしていた。
「良かったぁ! 通常のカウンセリング終了後に、特別に予約なしでお話し出来ると聞き、安堵しました、フランソワーズ先輩」
「ふふ、これくらいはお安い御用。前生徒会長を慰労する特別サービスよ。但し他の生徒の手前もあるから、二度はないわ。今回限りよ」
「あ、ありがとうございます」
「でも……」
「でも?」
「ジゼルったら相変わらず分かり易いわ。すぐに気持ちが前面に出るわね」
「そ、そうですか?」
「ええ、まるでドラゴンみたいに大きな貴女の声が、この部屋まで聞こえたわ」
「ド、ドラゴン!? し、失礼しましたぁ! でも先輩が母校へ就職希望を表明したのは勿論……特別なカウンセリングまで行うとは驚きました、な、何故ですか?」
「ふふ、教師という仕事はとっても面白いのよ」
「わ、分かります」
「それに、教師になって普通に授業を行うだけではつまらないでしょ?」
「はい! 同意です。参考になります、とっても!」
「分かるとか、参考になるって? ジゼル、貴女やっぱり……」
「やっぱり?」
「噂は聞いたわ。貴女が王都騎士へ進む道を考え直し、教師志望にがらりと変えたって」
「はい! 先輩が仰る通り……その噂は事実です」
「成る程ねぇ……」
「先輩! この際だからお話します。ちゃんと報告していませんでしたど……実は……私、結婚致しました」
「うん! 知ってる! お相手はルウ先生でしょ?」
「えええっ? その通りですが……知ってるって? 一応内密にしているのに、先輩がどうして?」
「だって! 貴女のお父上、カルパンティエ公爵閣下が方々でルウ先生の事を自慢しているのよ」
「え?」
「ウチの父も公爵閣下からお聞きしたって。あちこちで結構な噂になっているわ」
「まさか! ち、父上がっ!? 本当ですかっ!」
思わず、ジゼルの顔が父への怒りで歪む。
……夫ルウの事を吹聴するなとあれだけ釘を刺しておいたのに……
「父上め、仕方のない人だ」
呟いたジゼルであったが……
すぐに思い直した。
忌々しくは思うが……
父の気持ちが分からなくもないから。
娘婿であるルウの持つ輝くばかりの天賦の才、冴えわたる深謀遠慮、栄誉と褒賞を求めない控えめな性格が誇らしく、つい熱く語ってしまうのだろう。
本当は……
妻の自分だって、声を大にして夫を自慢したい。
夫であるルウが、素晴らしき大器である事を世に広めたい
ルウを見ていると、優しく抱かれていると、そんな気持ちになる。
やはりあの父と自分は親子なのだと実感する。
「ふふふ、まるで貴女の方が、世話のやける子供のお守りをする親御さんみたいね」
「いえ先輩……父上は私から見ればやんちゃな弟のようです。時たま面倒を見る姉の気分になります」
「成る程、姉さんねぇ」
「はい、ひとつの道を究めた一流の武人なのに、とても熱く子供っぽい。昔からそういう人なのです」
そういえば……
と、ジゼルは思い出し苦笑した。
以前、父は自分の目の前で、昔求婚したアデライドを口説いた事もあった。
一方、ジゼルの言葉を聞いたフランソワーズは何か意味ありげに笑う。
……実はジゼル同様、ふたりを似た者親子と思っていたのだが……
敢えて余計な事は言わない。
「ふ、成る程……まあ良いわ。それよりジゼル、今日、貴女は私に用事があって来たんじゃないの?」
「あ、はい! そうです」
「ふふ、じゃあ本日の特別カウンセリングは、時間延長決定ね」
「よ、宜しくお願い致します」
笑顔のフランソワーズへ、ジゼルは丁重に頭を下げたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そんなこんなで……
特別カウンセリングは延長された。
「それで……ジゼルは私に何を相談したいの?」
「はい、実は先ほど先輩が仰った将来の件です」
「将来の件?」
「はい! 私は先輩が仰った通り、教師になりたいのですが……」
「教師ねぇ……」
「はい!」
ジゼルの元気な返事を聞き、フランソワーズは記憶を手繰った。
すこしだけ目が遠くなる。
「私の知る限り、ジゼル、貴女はガチで騎士志望だった。先ほど話に出たお父上、将来を嘱望されているお兄様と同じく王都を守る勇ましい騎士になろうとず~っと努力していた」
「はい、先輩の仰る通りです」
「それに私は知っていたのよ」
「な、何をですか?」
フランソワーズが一体、何を知っていたのか?
ジゼルには気になった。
すると、ズバリ!
「貴女がシンディ先生の人生に自分をだぶらせ、憧れていたって事を」
「え?」
「そして己の強さを信じる事に迷いが生じていた事もね」
「…………」
ルウが指摘した事を、フランソワーズも見抜いていたのだ。
吃驚して無言となったジゼルへ、フランソワーズは更に言う。
「そんな貴女の悩みを見抜き、扉を開けてくれたのがルウ先生なんでしょ?」
「は、はい! その通りなんです」
またまたズバリ!
ジゼルは大いに同意するしかない。
なおも……
フランソワーズの話は続いて行く。
「ルウ先生は、貴女の持つ考え方の行き詰まりを解消し、人生を変えるきっかけを与えてくれた」
「凄いっ! 先輩には全て分かってしまうのですね」
「ふふふ、何となく……ね。それで話は戻るけど……」
「は、はい!」
「貴女が教師になりたい理由はふたつあるわ」
「ふ、ふたつ?」
「ええ、最大の理由は好きな人の傍に居たいから」
うわ!
という表情をジゼルはする。
「うっ! 大当たりですっ! で、でも、それって! ふ、不謹慎な動機でしょうか?」
「全然平気よ。好きこそものの上手なれって言うでしょ?」
フランソワーズから出た諺に対し、ジゼルは少し違和感を覚える。
「そ、それは……少し意味が違うのでは?」
そんなジゼルの返しに、フランソワーズは首を横に振った。
「いいえ、私の解釈では違わないわ」
「……先輩の解釈では、違わないのですか?」
「ええ、好きこそものの上手なれって、好きな事は一生懸命取り組み、工夫したり勉強したりする事でおのずと上達するという例えでしょ?」
「はい、その通りです」
「好きである事が、上手になる為の良い条件になるとしたら……大好きなルウ先生と一緒に、教師として働く事がモチベーションのアップには勿論、教師のスキルにも影響して、上がって行く事になるんじゃない?」
そう言いつつ、フランソワーズは、
「私もだから」という言葉をこっそりと飲み込んだ。
一方、ジゼルはふたつ目の理由も気になっている。
「ありがとうございます。先輩、納得です。それでもうひとつの理由とは?」
「それはね、ジゼル、貴女自身よ」
「私自身?」
「そうよ! 貴女はルウ先生と邂逅し、人生を変えて貰っただけではない。日々自分が成長する事も実感している」
「そ、その通りです」
「貴女は面倒見の良い先輩として、魔法武道部で後輩をしっかり育成していた。元々、人を育てるのが大好きなのよ」
「元々、人を育てるのが大好き……」
「ええ、もしも貴女が教師になり、自分と同じような生徒の手助けが出来たのなら、貴女は教師という仕事に一層やりがいを感じるはずなの」
「な、成る程!」
フランソワーズの指摘、アドバイスは的確だ。
と、ここでフランソワーズの言葉には更に力が入る。
「覚えておいて! 教師の仕事の醍醐味というのはね、人が変わる瞬間に立ち会い、成長して行く過程を見守るのが出来る事よ」
「あ、あああ……」
「うふふ、その様子だと、完全に納得したみたいね」
「は、はいっ!!!」
と、その時
キーン、コーン!!!
終礼の魔導鐘が鳴った。
そろそろ、下校の時間である。
「さあ、本日の特別カウンセリングも本当にお終い。ジゼル、気を付けて帰宅してね」
「は、はい!」
「ルウ先生に宜しく」
フランソワーズはそう言うと、可愛らしくウインクした。
「先輩! あ、ありがとうございましたっ!!!」
心が歓びに満ちて来る。
全身に力がみなぎって来る。
ジゼルは知る由もないが……
これが悪魔グレモリー、否!
『乙女の守護者』月の女神レヴェナの真骨頂たる力だ。
「どういたしまして!」
元気良く、ジゼルの礼に答えたフランソワーズも満ち足りた気分を味わっていたのである。
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