第115話 「罠」
「……!」
「沈黙」の魔法を掛けられ軽くパニックに陥るゴーチェ・アルドワン。
「束縛!」
そしてゴーチェが抵抗する素振りを見せたので「沈黙」の魔法に続いてルウは神速で「束縛」の魔法を発動させる。
四肢を硬直させたゴーチェが崩れ落ちそうになる。
追いかけて来た騎士はやり取りを全て見ていたので初めて見るルウの魔法に息を呑む。
「奴が学園に不法侵入して何と言ったか? 貴方は聞いていたな? こいつは名乗ったけれども、念の為に奴の名前とそれに貴方の名前も教えて貰えないか?」
「彼の名はゴーチェ・アルドワン、私はライアン伯爵麾下の王都騎士隊警護担当ジャン・ブルジェです」
分った、『次期侯爵』は嘘じゃあないなとルウは呟き、ジャンに会話の一部始終を再度確認する。
ジャンは確かにそう聞いていたと頷いた。
ルウはゴーチェがジョゼフィーヌを連れ去る為に彼女の父の安否を盾に脅していたとジャンに証人として確認を取ったのだ。
「よし、ジャンさん。貴方も尋問に立ち会ってもらえるか? 仕事上、このまま不法侵入を許したままだと不味いと思うが」
「分りました。普通ならいかに高貴な身分の方とは言え、ここまで学園内に侵入されてしまった私のミスです。尋問も本来なら騎士隊が行うものですが、貴方は特別扱いだとライアン伯爵も仰っています。警護の詰め所で一緒に彼を尋問しましょう」
ジャンはルウからゴーチェを受け取るとしっかりと押さえ込み、詰め所に連行して行く。
ルウはオルガに事情を話し、内密にして生徒達を連れて教室で自習をするように頼むと、顔色が蒼白の ジョゼフィーヌの手を引いてジャン達の後を追って行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
魔法女子学園正門前詰め所室内……
ジャンは門に立つ警護の任務を同僚に代わって貰うように頼むと早速、ゴーチェを椅子に座らせて尋問を始めた。
拘束しましょうかと申し出たジャンであったが、ルウの「束縛」の魔法の威力にその言葉を呑み込んだ。
ルウはゴーチェに騒いだら容赦しないと脅した上で「解除」の魔法を発動し、「沈黙」の魔法を解く。
「お前達、こんな事をして只で済むと思うのか?」
ずっと殺気の篭った視線でルウ達を睨んでいたゴーチェであったが低い声で呟く。
「只で済むかどうかはお前の返事次第だ」
しかしルウが感情の篭らない目をしながら、全く抑揚の無い声で言い放つとゴーチェは動揺した。
「俺は理由も無く身内を害する奴には容赦しないと言っておこう。仮にお前がここで突然死したら、警護の騎士がお前の死体を処理するだけだ」
ルウの容赦ない物言いにゴーチェの身体には微かに震えが走る。
本当は大きく身震いする筈が「束縛」の魔法のせいで身体が動かないのだ。
「う、嘘だ! わ、私にそんな事が出来る筈が!?」
「良いか? 俺は同じ事を何度も言わせる奴も嫌いだ。さっさとジョゼの父上の事を話せ。分ったな?」
「……わ、分った。我々アルドワン一族は勇者バートクリードの円卓騎士の血を引く名門だ。そこの娘が私の弟を見合いの席で侮辱した罪として不敬罪を適用して伯爵を留置する事になっている」
「えええっ!? そ、そんな! お父様が!?」
「鎮静!」
それを聞いたジョゼフィーヌががっくりと項垂れるのをルウが気つけの魔法を掛けて抱き起こした。
しかし彼女はそのまま気を失ってしまい、ルウの胸にもたれかかる。
「わ、私はその娘を証人として連れに来たのだ。さ、さあこの縛めの魔法を解いてその娘を渡せ」
その言葉を聞いたルウはジョゼフィーヌを抱きながら首を横に振った。
「そんな嘘の証言や猿芝居が俺に通用すると思っているのか?」
「ほ、本当だ! 嘘はつかん! 俺の言う通りにしないと、こいつの父親の伯爵は……ぎゃぶっ!」
心臓に軽い痛みを感じたゴーチェは唸り声をあげる。
「お前の発する醜い魔力波が俺に嘘だと告げている……お前の言葉全てがな、真っ赤な嘘だと告げているのさ」
後ろでは騎士のジャンが張り詰めたように息を呑んで2人のやりとりを見守っていた。
「お前の父親である侯爵がギャロワ伯爵をお前達の屋敷に呼び出したな。どうするつもりだ?」
いきなり真実を言われたゴーチェの顔が真っ青になる。
「な、何故だ!? 何故分る?」
「そうか……伯爵がお前とジョゼとの婚約の申しれを受けない場合は今の職を解いて更迭し、毒を盛って彼がショックの余りに自殺した事に見せかけて殺すつもりか? そして悲しんだ彼女に優しくして取り入り、跡継ぎが絶えて取り潰しになる筈の伯爵家を一緒に再興しようと持ちかけるのだな?」
「うおおおっ!?」
秘密の計画を指摘されうろたえるゴーチェ。
ルウが彼の発する魔力波に同調させ魂の中を見抜いたのだ。
「ジャンさん、最早猶予はならん。ここを頼めるか?」
「ま、任せてください! ル、ルウ様は?」
「俺は奴等の屋敷に行くが……悪いな?」
「え!?」
ルウの指がパチッと鳴り、ジャンとゴーチェの意識が一瞬飛ばされた。
しかし、2人共何が起こったのか分らず目を瞬いていた。
ルウが魔法で彼等の記憶を1部消したのだ。
まだまだルウがどんな魔法を使うか全てが分ってしまう事は不味いのである。
「では行ってくる!」
「は、はい。ジョゼフィーヌ様は学園の救護室に、犯人の方はきちんと確保しておきます!」
ルウが詰め所のドアを開けると、門の所に大柄な法衣姿の老人が立っていて警護の騎士と何やら話していた。
ルウは彼等の脇をすり抜けようとした。
「おい、お前がブランデルか?」
老人がルウに声を掛けて来たが、今のルウにそれに応える余裕は無い。
声を掛けて来た老人はルウの法衣を掴もうとでもしたのか、反射的にルウに手を伸ばして来た。
しかしルウは易々と老人の手をすり抜けて門の外に走っていったのだ。
老人の顔に驚愕の表情が浮かぶ。
そして納得したように頷いたのである。
「むう……成る程、あいつがか……」
ルウは暫く走り続けると人気の無い場所で地の精霊を呼び出した。
今日は呼び出された可憐な少女も笑顔は無く真剣な表情である。
「頼むぞ! 地の精霊!」
ルウの姿はその声を残して一瞬のうちに消え失せていたのであった。
ここまでお読みいただきありがとうございます!




