第1,147話 「小説版第7巻発売記念特別閑話 騎士道と云ふは甘い事と見つけたり:後編」
『魔法女子学園の助っ人教師』第7巻発売記念の特別閑話をお送り致します。
ぜひぜひお楽しみ下さい。
※本日は後編をお送り致します。
「やあ……ジゼルにナディア君。出来るだけ目立たないようにしていたのに、とうとう見つかってしまったな」
……ここは金糸雀併設のイートインカフェである。
ふたりの前に座ったジゼルの兄ジェロームは、苦笑して罰が悪そうに頭を掻いた。
厨房に通じるガラス窓から、女性パティシエと共に立ち働く真剣な表情のジェロームを認め、ジゼルとナディアは慌てて店へ問い合わせをしたのである。
「勤務中なので、少しの間ならOK」という条件で、ジェロームは厨房を抜けて来たのだ。
「ジェローム様、で、でも、ど、どうして?」
「…………」
想定外の状況に驚き、テーブルから身を乗り出し、尋ねるナディア。
片やジゼルは、カフェの椅子に座ったまま無言で微笑んでいた。
どうやら兄の『隠密行動』を既に知っていたようである。
先ほどから、ナディアの質問に一切答えない彼女の不可解な反応に関係があるに違いない。
そんなふたりを見て……
ジェロームは小さく頷くと、話し始める。
「ジゼルは知っているが、実は俺、甘いものが本当に好きでね。食べるだけじゃなく作る方にも興味がわいた」
「作る方に?」
ナディアの印象からすれば、ジェロームは生粋の騎士である。
日々鍛えているせいで、肩幅が広く筋骨隆々のがっちりとした身体が益々そのイメージを強くしていた。
だから、小さく可憐な菓子を作る繊細なパティシエのイメージが全く「合わない」のである。
「うん、最初はカルパンティエ家の料理人に父には内密で手解きを受けていた。だが、ウチの料理人達は本職のパティシエではない。なので、すぐ物足りなくなってな。それからは王都のいろいろな店に頼み込んで、修業させて貰っている。今はこの金糸雀だ」
「い、いろいろな店でぇ? しゅ、修業って!? 王都騎士隊所属の生粋の騎士である貴方が? パティシエの修業ぅ?」
「し~っ、ナディア君、声が大きい」
「す、すみません。でもどうして?」
「ははは、実はな……もう修業を始めてから長いんだ。自宅で菓子を作り始めてから計算すると10年以上になる」
「じゅ、10年以上! す、凄いっ!」
「し、し~っ」
「うわ、すみません」
「ナディア君。そうなんだ。それと先に言っておく。申し訳ないが父には内緒にしておいてくれ。万が一発覚したら大揉めになるのは必至だからな」
「わ、分かりました」
ジェロームは立てた人差し指を口に当て、ナディアにウインクしたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ジゼルとナディアを前にして……
ジェロームは周囲の様子を再び見てから、声のトーンを落とし、改めて語り始めた。
目が少し遠くなっている。
どうやらジェロームの心は幼き日へ経ち返ってるらしい。
菓子が大好きになったのは……
幼い少年の頃、両親に連れられ、カフェでケーキを食べたのがきっかけだという。
そして「好き」に拍車をかけたのが、日々の生活の中で出される菓子の数々。
ヴァレンタイン王国では伝統的に神事や祭事の際も、菓子を出す事が多い。
教会で創世神へ奉げたり、孤児院のめぐまれない子供達へ慰問でプレゼントする場合もある。
また男女が結ばれる際に、菓子を絡める事も良く見られる。
恋人同士が初めてのキスをする際、ワッフルを縁起物に使ったり、結婚式では硬い菓子を使って新郎が叩き割るパフォーマンスを行う。
果ては葬儀の時でさえ、甘い菓子を使っていた。
幼いジェローム少年が菓子を大好きになって行った事は必然であった……
「俺は菓子を食べる時に見せる人々の笑顔が大好きなんだ」
嬉しそうに語るジェロームの顔はまるで少年のように純朴だ。
「あくまで私見だが……騎士隊が魔物を倒した時よりも……とびきり美味い菓子を食べた時の方が、人々は心から素敵な表情を見せると思う」
「うん! 凄く良く分かります、ボクもそう思います。美味しいお菓子は何者よりも最強です」
「うん! 絶対にそうだよ、ナディア君」
「人々を幸せにし、笑顔にするのが騎士の役目なら、凄腕のパティシエは真の騎士道を知る最大の強敵だと思うよ」
「うふふ、ジェローム様、素敵なお考えですね」
「ああ、それと実感している事がある」
「実感?」
「うむ、俺は王都騎士隊ではそれなりの評価を得ている。しかしそれはカルパンティエ家の嫡男……つまり偉いさんの御曹司だからなのさ」
「いえ、そんな事はないでしょう」
「いや、絶対にそうさ! でもね、ナディア君、聞いてくれ」
「な、何でしょう?」
「身分を秘して俺の作った菓子を、老若男女身分を問わず誰もが笑顔で食べてくれる。それを見て、本当に嬉しかった。生まれて初めて己の実力のみで人々を幸せに出来たと感動したんだ」
ナディアは意外だった。
武骨そうなジェロームがそこまで繊細で、優しい心を持っていたなんて。
「ジェローム様、貴方は本当に素敵な方ですね」
ナディアは、つい気持ちが高ぶり、素直にジェロームを称えた。
と、その時。
「うむ、ナディア、どうだ? 私の兄上は最高だろう?」
「え? ジゼル?」
そう……ずっと黙って無表情。
兄ジェロームと親友ナディアの話を無言で聞いていたジゼルであったが、いつの間にか、満面の笑顔となっていた。
しかしすぐにハッと気づき、ジゼルは慌てて言い直す。
「いや、もとい、今の発言は撤回。兄上すまぬ。貴方は旦那様の次に素敵だな」
「な? ルウの次?」
「あははははははは」
ジゼルの熱い『ノロケ』を聞き、唖然とするジェロームを見て……
ナディアは大声で楽しそうに笑っていたのであった。
いつもお読み頂きありがとうございます。
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