第1,139話 「ジゼルとナディアのサプライズ⑦」
愛読者の皆様!
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ジェロームの書斎の応接に4人は座っている。
料理人姿のジェロームとシモーヌ、ジゼルとナディアがそれぞれ並んで座り、向き合う形である。
口を開いたのはジェロームである。
「ジゼル、ナディア君。先日、あの英雄亭で男子会があったのは知っているな?」
※第1,055話~1,078話参照
「はい、兄上。旦那様から話だけは聞きました」
「ジェローム様、ボクもです。本当に申し訳ないが女子は参加不可と言われたので残念でした」
少し前に行われた男子会は……
ルウとフランの弟ジョルジュ、そしてライアン伯爵の息子ジョナサンが幹事となり、兄ジェロームを始めとし、いろいろな人物が交流した楽しい会だったとジゼルもナディアも聞いていた。
そういえば、とジゼルは思い出した。
ルウが土産にジェロームが作ったという焼き菓子を持ち帰って来た。
相変わらずとても美味であり、兄の腕は素晴らしいと誇らしく思った。
男子会でも好評であったらしい。
「ジゼル、ナディア君……俺はな、その男子会で自分の決意を、ルウを始め皆へ告げた」
「兄上の決意?」
ジゼルが聞き直すと、ジェロームは大きく頷いた。
「そうだ、俺の決意……それはな、ジゼル。遠き日にまだ幼いお前に告げた夢でもある」
「私が幼い時に? ……あ、ああっ!」
ジゼルの脳裏に旧い記憶が鮮やかに甦った。
それは以前、幻想で謎めいた魔導書『追憶』により呼び覚まされたものと一緒であった。
5歳の頃、祖父オリヴィエールに剣の手解きを受け、素質を見込んで貰った事……
8歳になって剣を捨てろと父レオナールに迫られた際、兄ジェロームに庇って貰った事……
そしてジゼルが10歳になった時、ジェロームから剣の指導を受けた後の事……
庭先にテーブルと椅子を置いたジェロームとジゼルの2人は紅茶を楽しんでいる。
大きな器に水を入れ氷を浮かべた中に更に陶器製の大型ピッチャーが入れられている。
その中には香り豊かな紅茶が入れられていた。
汗を掻いた後に冷やした紅茶を飲むのは身体に染み渡って美味しいものだ。
これはジェロームとジゼルが鍛錬の後に好んで飲む紅茶の淹れ方である。
そしてテーブルの上には数種類の焼き菓子も置かれている。
ジゼルはいくつか焼き菓子を頬張り、それをジェロームはじっと見守っていた。
「美味いか? ジゼル」
「兄上、凄く美味しいぞ! これだけのものは中々無い。この店は要チェックだな」
「ははは、ジゼル。良く味わっておけよ。その菓子はもう2度と食べられないのだから」
「?」
「どうした?」
「兄上! この菓子を作った店へ定期的に発注すればいつでも手に入るではないですか。もしくはその菓子職人をカルパンティエ公爵家のお抱えにしてしまえばよい」
しかし……
ジェロームは苦笑いしながらゆっくりと首を横に振った。
「兄上?」
「ジゼル、俺が甘い菓子がとても好きなのはお前も知っているだろう。それは俺が焼いた菓子なんだ」
ジゼルが慌ててジェロームの顔を見直すと、兄の顔は辛そうに歪んでいた。
「俺はな、ジゼル。本当は菓子職人になりたかったのさ。今迄、時間を作っては頼み込んで街のとある店で内緒で作っていたんだよ。絶対に父上には言えないよな、ははは」
「…………」
苦笑しながら頭を掻くジェロームにジゼルは言葉が出なかった。
そんなジゼルにジェロームは言葉を続ける。
「俺はカルパンティエ公爵家の嫡男だ。いずれ父の跡を継ぐ。それは義務だからな」
「兄上……」
「俺はお前を応援する。お前は自分の夢を追うんだ。女だからなんて考えるな! お前は美しいし強い! 俺の自慢の妹なんだからな! 絶対に幸せになるんだぞ!」
兄が語った密かな夢、そして自分を励ます力強い言葉がはっきりと甦る……
いつも妹の幸せを第一に願う兄……
……懐かしい記憶を手繰るジゼルへ、ジェロームが呼びかける。
「ジゼル」
「は、はい!」
「俺はあの時、お前にああは言ったが……やはり菓子職人になる夢を捨てられなかった」
「兄上……」
「だから父上に隠れ、引き続き、王都のいろいろな店の厨房で修業し腕を磨いていた」
「…………」
「無論、騎士隊の休暇の日のみの話だがな」
「…………」
「そう、俺はカルパンティエ家の嫡男……厳しい訓練をし、武技を磨いて、王都騎士隊に入隊し、それなりの評価を貰っている。父上の期待には背いていないつもりだ」
「…………」
「まあ俺への評価の半分以上が親の七光りからだろうが……」
苦笑したジェロームは更に話を続ける。
「騎士の職務の重要な意義も俺には分かっている。それに世間には騎士になりたくてもなれない者も居るのにな……」
「…………」
「名門カルパンティエ家に生まれた俺はそこそこの才に恵まれたとも思っている。難儀する人々を助け、王国に大きな貢献が出来る王国騎士の役割を簡単に放棄していいのかとも悩んだ」
「…………」
「だが俺は先日参加した男子会で刺激を受けた。改めて菓子職人になる決意を強くしたのだ」
「…………」
「男子会に参加した者達の生き様、決意、そして今後の人生への目標をルウから聞いたからな」
「…………」
「思い悩んでいた俺は、ルウから貴重なアドバイスも貰った。良き後進をたくさん育てよとな……それは我が子なのか、後輩なのかは分からないが」
「…………」
「目から鱗が取れた思いだった……自分の事だけで精一杯だった俺は人を育てるなど考えた事もなかった」
「…………」
「思いを新たにした俺は信頼に足る後進を育て上げる事を決めた。彼等に後を託したら……騎士を引退し、完全に菓子職人に専念する。いずれは父上と母上にも認めて貰うつもりだ」
「あ、兄上……」
「うむ、俺はな、ジゼル。お前には直接俺の決意を聞いて欲しかった。そして改めて俺の作った焼き菓子を食べて貰い、あの日のように忘れ得ぬ思い出にもしたいのだよ」
兄の告白、そして宣言を聞き……
ジゼルはかつてのあの日のようにじんと胸が熱くなったのである。




