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第110話 「衝動」

 翌週明け月曜日午前9時、魔法女子学園2年C組教室…… 


 今週も1時限目の授業が始まっている。

 先週まるまる1週間、基礎の訓練を続けた生徒達であったが、いよいよ『使い魔』を呼び出すための魔法習得の訓練が本格的に始まるのだ。

 

 生徒達が行う初めての召喚魔法の発動は危険防止の為、この魔法に長けた教師立会いの下において魔法女子学園の『祭儀教室』に移動して行われる。

 学園の祭儀教室というのはいにしえの魔法王ルイ・サロモンの神殿を模した召喚魔法専用の教室だ。

 

 聖なる力の下、全てにおいて特別製のこの部屋は物理的に信じられないくらいの頑丈さを誇り、更に様々な属性の魔法障壁が常に展開する事で召喚の突発事故の危険リスクも大いに軽減されている。

 

 基本的に彼女達の召喚できる『使い魔』はたかが知れているが、かつてのナディアのように万が一高位の存在を呼び出してしまった場合、一般の教室では対処が出来ない怖れがあるからなのだ。


 生徒達の私語でざわめく教室の中フランの手を叩く音が大きく響く。

 これはケルトゥリの専売特許ではあるが、フランも最近は使わせて貰っている。

 まあ別に許可がいるわけではないが……


 最初は『魔法学Ⅱ』の教科書を使って召喚魔法の『手順』をフランが生徒達皆に説明して行く。

 彼女の熱心に授業に臨むその姿は生き生きとして生命感に溢れていた。

 事情を知らない生徒達からフランに対する感想が聞こえて来る。


 最近、『鉄仮面』変わったよね?

 て、言うか……彼女あんなに綺麗だったっけ。

 ねぇっ? 気のせいかな?


 そんな事を聞きながら、オレリーは変わって当たり前よと微かに呟いた。


 旦那様と1番一緒に居るのがフラン姉だもの。

 ああ、私も卒業したら旦那様と一緒に暮らしたいな。


 オレリーはほうと溜息をついたが思い直して授業に集中する。

 月額金貨10枚と言う破格の給付型奨学金は学年首席が前提だからである。


「皆さん、ペンタグラムは持っていますね。この素晴らしい護符は貴女方を護るのは勿論、呼び出した使い魔を縛って命令する為に必要なのです」


 生徒全員が自分のペンタグラムを見たり、触ったりする。

 オレリーも首から提げているルウから貰ったペンタグラムにそっと手を当てた。

 銀で出来たその護符は冷たい金属の反応を返して来る。

 そこにまたフランの言葉が……


「では呼吸法などによる基礎訓練で魔力の質と量を高めるのは問題無くなって来たと思います。集中力も一緒に向上していると考えれますが、如何いかが?」


 これも殆どの生徒が納得して頷いた。

 悔しそうに唇を噛み締めている生徒が数人居るが、やはり召喚に必要な基礎訓練の課題をこなせていないのであろう。


「ではここで基礎訓練をこなせた人と今の時点でこなせていない人に分かれて進行します。とりあえず、全員に魔法式だけは教えておきます。『魔法学Ⅱ』の召喚の『儀式』の頁を開いてくれるかしら」


 魔法と言うのは本当に酷な物だ。

 学問の場合、努力した者は天才に勝る事可能性が生じるが、魔法では絶対に無理なのである。

 魔法とは全てにおいて元々ある才能を如何に掘り起こし、伸ばす事にあるからだ。


 そもそも多くの生徒は自分がどのような魔法使いになりたいか思い描いて入学する。

 その限界の壁に突き当たった時、多くの生徒達は涙するのだ。

 第一歩とも言えるのが召喚の魔法の授業なのである。


 フランの朗々とした声が響く。


「創世神の御使いであらせられる大天使の加護により、我に忠実なる下僕を賜れたし!」


 魔法を行使する自分の目的が召喚である事を、まずその力の源である大天使に宣言し助力を請うのである。

 そしていよいよ魔法式の詠唱だ。


「御使いの加護により御国に力と栄光あれ! マルクト・ゲブラー・ホド! 永遠とわに滅ぶ事のない……来たれ、我が下僕よ」


 生徒達は教科書には載っていながらも初めて詠唱される魔法式を興味深そうに聞いている。

 しかしやはり辛そうな表情の者達も数名居た。

 次の段階ステップに進めない事へのジレンマであろう。


 ここで副担任のルウの出番である。

 訓練のやり方がまずくて彼女達が才能を引き出せていないのか? 

 それとも酷なようではあるが、才能自体が無いのか……

 次の段階に進めない生徒達のフォローをするのだ。


「ではこの魔法式をしっかりと唱えられるようにして下さい。基礎訓練をクリアした人はこれから『祭儀教室』に移動して少しずつ魔力を込めて唱える練習をします」


 フランはルウにお願いねと合図を送ると基礎訓練をクリアした生徒を連れて祭儀教室に移動していった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 2年C組の教室には8名程の生徒が残っている。

 いずれも基礎訓練の課題がクリア出来ずにいる生徒達だ。

 その中にはジョゼフィーヌ、オルガ、そして商家の娘であるルイーズ・ベルチェの顔もあった。


「さあ、ルウ先生。それで私達にどんなケアをしてくださるの?」


 ジョゼフィーヌが情愛の篭った眼差しで見詰めて来る。

 ルウはいつもの通り、それを穏やかな笑顔で返した。

 実は彼女は基礎訓練を軽々クリアしていたが、ルウの授業が受けたくて申告を偽ってここに残っていたのである。


「今日は天気も良いし、また屋外で基礎訓練をやろうと思う。少しやり方を変えてな」


 ちょっと良いですか? とルイーズが挙手をしてルウに質問を求めて来た。


「私達、本当は才能が無いんじゃないですか? 先生」


 ルイーズが不安そうに聞いて来るが、ルウはゆっくりと首を横に振った。


「焦るなよ、ルイーズ。あと、これは皆に対して事前に言っておくが、魔法使いは1人として全く同じタイプの者は居ない。確かに個々で得意、不得意の分野はあるが皆、才能の塊なんだ。そうでなければ今、ここには居ないさ」


 例えばとルウは恥ずかしそうに言う。

 俺の場合、占術は不得意だからなと頭を掻く。

 そんなルウの姿に生徒達の表情には徐々に笑顔が戻っていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 魔法女子学園校庭……


 天気は今日も春らしく暖かな日差しに溢れていた。

 そんな中、ルウは8名の生徒達とまた青々とした芝生の上に座っている。


「魔力を高めるというのは元々ある自分の内なる魔力を高めるというのがひとつの考え方だ」


「ねえ先生、違うやり方がありますの?」


 ジョゼフィーヌの食いつき方が凄い。

 『恋する乙女』そのものである。

 今迄高慢そのものだった彼女の変貌振りはクラスの皆が知っており、最近は優しくなった彼女を微笑ましく見守っていた。


「ああ、講習に出てくれた何人かの生徒は分っているが精霊の力を借りて気の中の魔力マナを取り込みやすくして魔力をあげる試みを行おう」


「気の中の魔力……ですか?」


「ああ、俺達はこの気の中の魔力マナを取り入れた上で自らの魔力オドに切り替えて使っている。この取り入れる力にも個人差はあるんだ」


 ルウとジョゼフィーヌの話を生徒達は皆、興味深そうに聞いていた。


「とりあえず最初のやり方は同じなんだ。いつも通り横になってリラックスしながら呼吸法から始めてくれるか」 


 生徒達は今日は気持ち良いわねと話しながらどんどん横になり、目を閉じて呼吸法を始めた。

 そんな中、ジョゼフィーヌがルウをじっと見詰めている。


「先生、ちょっと離れた所でお話して良いですか?」


「ああ、良いぞ。ちょうど俺からも話がある」


「先生から!? 何かしら?」


 浮き浮きするジョゼフィーヌであったが、少し離れた所で2人で目を閉じて横になるとルウは早速、ここに残ったのは何故かと問い質したのである。

 さすがにジョゼフィーヌが偽ってここに残ったのがルウにはお見通しだったのだ。


「どうして残ったかって……私に言わせるつもりですか?」


「ああ、学園で勉強する時間は限られているからな。フランについて次の段階に進んだ方がお前の為になるぞ。お前が最近、妙に懐いているのは分かるけど」


「な、懐いているんじゃありません! 本当に好きなんです!」


 その瞬間、ルウの唇はいきなりジョゼフィーヌの唇によって塞がれていたのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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