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第108話 「凄い贈り物」

 ルウとフランは朝食を摂った後、ホテルでゆっくりと寛いでからドゥメール家の屋敷に戻って来た。

 昨夜、2人が一緒だった事はアデライドから事前に知らされて、当然ジーモンも知っている。

 そのせいか2人を出迎えた時もそ知らぬ顔で一礼をしたのであった。


「お帰りなさいませ、ルウ様、フランシスカ様」


「お母様は?」


 フランがジーモンに聞くと幸いアデライドは在宅していたので2人は改めて屋敷の中で一緒の部屋に住みたいと申し入れに行ったのである。


「ふふふ、この屋敷で一緒の部屋ねぇ……」


 アデライドは相変わらず魔法の研究の為に書斎に居たが、2人が尋ねてくるのを待っていたとばかりに悪戯っぽく笑う。

 そんな母の様子にフランは心配そうだ。


「駄目かしら? お母様」


 アデライドは娘の質問には答えず、質問で返して来る。


「フラン、隣のホワイエ子爵のお屋敷が売りに出ているのは知っているわよね」


「ええ、子爵が亡くなられて奥様が売りに出してらっしゃるわね。確かうちと同じくらいの結構広いお屋敷でしょう。でもそれが何か?」


 それを聞いたアデライドはもう鈍いわねと顔をしかめる。

 しかしその目は相変わらず笑っていた。


「に、鈍いって? ま、まさか?」


「そのまさかよ。『結婚祝い』として私が購入しといたから。あなた達、そしてこれから来る私の『新たな娘達』全員の新居にしなさい」


 思ってもみないアデライドの話である。

 彼女としてもいずれ戻って来て伯爵家の家督を継ぐジョルジュの事も考えての『贈物』であろう。

 国王が完全に権力を掌握した絶対王政のヴァレンタインでは貴族は単なる役人や軍人に過ぎず、彼等は領地を持たされず、収入は王家からの俸禄制となっている。

 屋敷も例外では無く土地の所有権は無い。

 売る場合と言ってもそれは土地と屋敷のあくまでも『使用権』なのである。

 ただフランが驚くのも無理はない。

 使用権とはいえ、この貴族街区の屋敷はこのセントヘレナでも最高に高いものだから。


「ええええっ! お母様、簡単に買ったって言うけど……最低でも金貨3万枚※はする筈よね」

 ※3億円ですね。


 フランが驚きの余り大声をあげると、騒がないの! とアデライドはまた笑う。


「その代わり私は普段、無駄使いをしないからね。使うのは魔法の本や素材くらいだもの。それより調度品なんかはホワイエ子爵の奥様が修道院にお入りになる為に売り払ってしまったから、あの屋敷の中はからっぽの筈よ」


 まあ今、2人が使っている家具は使って良いわとアデライドは片目を瞑った。


「アデライドさん、ありがとう」


「お母様、ありがとうございます」


 ルウが深く頭を下げるのを見て、慌てたフランも一緒に頭を下げる。


「ルウ……良いかしら」


 アデライドは改まった雰囲気でルウに話し掛けた。


「貴方はこれから家族ファミリーの長としてフランを始めとした大勢の妻達を守るだけじゃなく、生活を支えて幸せにする責任がある」


 アデライドは次にフランに向き直る。


「フラン、お前は妻達の中のかなめとして家をしっかり守り、他の妻達の人間関係を調整する役目がある。また時にはルウだけに頼らずにお前達、妻が共に生活を支える必要も出て来るだろう」


 ルウとフランは黙ってアデライドの話を聞いている。


「でも私は全然心配はしていない。ルウは勿論だけど、特にフラン……お前はルウを愛してから朗らかに、そしてとても強くなった。自覚もしていただろうけど、それは昨夜、彼に愛されて確信に変わったと私は思うよ」


 母の言葉にフランは黙って頷く。

 しかし彼女からの話はまだあるらしい。


「もうひとつ伝えたい事があるのよ」


 アデライドの表情は笑顔のままなので悪い話ではなさそうである。


「エドモン伯父様が今度の週末、王都にいらっしゃるのよ」


「大伯父様が!?」


 エドモン・ドゥメール公爵、バートランド公と呼ばれる貴族で彼女達ドゥメール一族の長であり、かつて舞姫と呼ばれたアデライドを実の娘のように可愛がっている人物だ。

 当然、アデライドの娘であるフランに対しても同様である。


「ええっ!? 私達に会いに?」


「そんな訳無いでしょう。公務よ、公務」


 そう言いながらアデライドは表向きはねと笑う。


「やっぱりお前とその婚約者が気になるみたいよ。後、1週間しかないからお前達の新しい屋敷にはお迎え出来ないでしょうけど」


 日にちと時間を設定するから必ず会って欲しいとルウとフランはアデライドから釘を刺されたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「じゃあお母様、今度はこちらからの話よ」


 フランが不安そうな表情で切り出したのでアデライドも気になるようである。

 一体どうしたのと、問い掛ける。


「今日ホテルで朝食を摂っている時にザハール・ヴァロフ氏に会ったのよ」


「ふ~ん、ヴァロフ氏にね」


 普通ならヴァロフさんと呼ぶところをよそよそしく呼ぶ所に彼には関わりたくないといった2人の気持ちが良く出ていた。


「態度や物言いは普段と変わらなかったんだけど、その旦那様が……」


「ルウが?」


 どうしたのと訝しげに彼を見るアデライドであったが、彼の口から語られた話を聞くとぞくりと身体を震わせたのである。


「か、彼が……ヴァロフ氏が……あ、悪魔と?」


「ああ、この前ナディアに取り憑いた悪魔ヴィネと同じか、それ以上の悪魔だと思う」


 あの魔族の残り香は確かに悪魔の物だとルウは断言した。


「取り憑かれたか、契約したか……多分、後者だろうが危険な事は確かだ」


 ルウを不安そうに見詰めるフランとアデライドであったが、彼の表情はいつもと同様に穏やかであった。


「悪魔の事は……俺、何故だか良く分るんだ。心配ないさ、必ず2人をいや皆を守るからな」


 そうか、『悪魔』と言えばと、フランはあの大事件を思い出す。


 あの狩場の森での日……思い出そうとすると私の頭の中は何故か霧がかかったようになってしまうけど。

 ナディアに聞いたところによると彼女を苦しめていたあのとてつもなく怖ろしい悪魔をあっさりとルウが服従させたという。


 フランはそんなルウの言葉を聞いて彼の事が改めて頼もしいと感じたのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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