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第106話 「離さない心」

 フランは一生懸命ルウの手を引っ張っていた。

 大人しく控えめな、いつもの彼女とは180度違う行動である。

 フランが向かっているのは王都セントヘレナでも有名な超高級ホテルである。


 ホテルの名は『セントヘレナ』……


 王都の名を取ったこのホテルは外国からの王族など高級VIPやお忍びでこの国に来た有名な俳優、そして裕福な商人などが宿泊する上流階級であれば誰でも知っている場所であった。


「フラン、慌てなくても大丈夫だよ」


 ルウはそう囁くと、そのホテルの場所を聞いた上で、今度は逆にフランの手を引き、ゆっくりと歩き出したのである。


「実は……」


 フランは歩きながら口篭る。


「今日の予定が決まった時にホテル……予約したの」


 頬をあからめながら小さい声で呟くフラン。


「はしたない女の子で御免ね、旦那様」


 ルウはそんなフランの手をぎゅっと握り返す。


「俺こそ気が利かなくて悪かったよ、フラン。今夜は2人でゆっくり過ごそう」


 やがて2人の目の前に5階建ての白亜の建物が見えて来た。

 魔法女子学園の本校舎とほぼ同じ規模の建物……

 ホテル『セントヘレナ』であった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ホテル『セントヘレナ』は周りを高い柵に囲まれた広大な敷地の中にある。

 唯一の出入り口である正門には屈強な守衛が出入りする人々をいちいちチェックしていたのだ。

 彼等は現役だった者、もしくは引退したばかりの王国騎士や衛兵でホテルが高給を条件にスカウトして警備に使っていた。


 下ろし立てとはいえ、鎧姿の2人は当然正門で止められたがフランが魔法女子学園の校長である身分証明書を提出し、続いてルウも身分証明書を提出する。

 守衛は魔道具らしい身分照会機を持ち出して来た。

 これは片方に身分証明書、片方に手を置いて魔力波オーラで本人確認をするものであり、ルウもフランも指示通りにすると淡い光が点滅する。


「失礼致しました、お2人共ご本人様と確認致しました。どうぞ、お通り下さい」


 守衛に見送られて2人がホテルの敷地に入るとやはり中は芝生を敷き詰めた公園のような趣であり、高く据えられた魔導灯が淡く照らした先には豪奢な衣服に身を包んだ上流階級らしい者達が静かに談笑しながら歩いていたのである。


「だ、旦那様。と、とりあえずフロントに行こうよ」


 このホテルには実はフランも子供の頃に来て以来なので記憶が曖昧である。

 1度はフランをリードしようとしたルウもさすがに勝手が分らないので彼女の為すがままに引っ張られるしかなかった。

 急ぎ足で歩いた2人はホテルに入り、中を見渡してフロントに直行したのである。


「あ、あの本日予約したドゥメールなんですが……」


 フロントの担当は何と容姿端麗なアールヴであり、フランを見てにっこりと微笑んだ。


「ええと……フランシスカ・ドゥメール様ともうおひと方は……ル、ルウ・ブランデル……様!? ええええっ!」


 名前を読み上げたアールヴの顔色が変わりまじまじとルウを見る。


「ああっ! やっぱりルウ様だ!」


「お前……トゥオマスか」


 ルウはトゥオマスというアールヴを見て苦笑いしている。


「し、知り合いなの?」


 フランは吃驚して2人を見ていた。


「ああ、俺がアールヴの里に居る頃いろいろ世話になったんだ。ずっと年上なのに何かにつけて俺の事を立ててくれてね」


 それを聞いたトゥオマスはルウ様の実力は抜きん出ていましたからと笑う。


「まあアールヴは2千年から3千年は生きる位長命ですから。そんな事を言ったら何も通りません。我々の序列は実力が重要視されますからね」


 彼の名はトゥオマス・エイルトヴァーラ。

 ケルトゥリの遠縁でやはりルウの師であったシュルヴェステル・エイルトヴァーラの一族だという。

 それを聞いたフランはどうしてあの『ケリー』とこうも違うのだろうと可笑しかった。

 トゥオマスはホテルのフロントマンが勤まる程穏やかで礼儀正しいのである。


「私もルウ様が居なくなってからこの王都に出て来ましてね。アールヴの里に出入りしている商人の紹介でこの素晴らしいホテルに就職出来たんですよ」


 トゥオマスはそう言うとコホンと咳払いをして今度はフランを見詰めた。


「あの……本当はお客様にプライベートな事をお聞きしてはいけないのですが、ルウ様はこちらのドゥメール様とはどういったご関係で」


「俺の妻さ」


 間髪を入れず答えるルウにフランは胸が熱くなった。


「……成る程。ルウ様、必ず幸せになって下さい。結局、貴方にソウェルを継いではいただけませんでしたが、アールヴ達は縁が切れたとは思っていません」


 静かに語るトゥオマスではあるが、ルウに対する思いは並々ならぬ物がありそうだ。


「最後にひと言。リューディア様は貴方をソウェルにする事を決して諦めておられません。いざとなったら……いやこれはやめておきましょう」


 何か奥歯に物の挟まった言い方をするトゥオマスではあったが、お引止めして申し訳ありませんでしたと一礼すると2人を部屋に案内してくれたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ルウとフランが案内された部屋は最高級のスイートルームではなかったが、窓から王都の夜景が一望出来る素晴らしい部屋であった。


「わあ、綺麗!」


 はしゃぐフランではあったが、頭の片隅には先程のトゥオマスの言葉がずっとこびりついていたのである。

 やがて備え付けのトリプルサイズとも言える大きなベッドに座った2人は見つめ合い、自然とキスを交わした。


「ねぇ、旦那様。リューディアさんって?」


「ああ、彼女はケリーの姉で俺をどうしてもソウェルにしたかった女性さ」


 あのケルトゥリの姉?

 どんな人なんだろう?


「俺にはもう関係ない話さ。さっきトゥオマスは、ああ言ったが、俺とリューディアが直接話して彼女がソウェルになる事を承諾させたからな」


 ルウはフランのおでこを軽くこづくと穏やかに笑った。


「ただアールヴ達に何かあったら育ててくれた恩があるから彼等を助ける為に全面的に協力はするさ」


 それを聞いてフランの目にはみるみる涙が溢れて来た。


「どうした?」


「旦那様、私を置いて行かないでね」


 それを聞いたルウは馬鹿だなぁと笑い、もう1度彼女にキスをしたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 さっきからフランは拗ねている。

 2人共、既に鎧を外して肌着姿だ。


「旦那様って……キスが巧い。な、何度目?」


 ルウは苦笑してまたフランの唇を塞ぐ。


「俺、悪いけどこの王都に来るまで女性を抱くどころか、まともに触れた事もなかったんだよ。キスも今が初めてさ」


「えええっ!? ほ、本当?」


「そうか! 以前にフランを抱いて飛んだ事があったな。それに少し前にオレリーとジゼルの胸は触ったか」


「もう! 根は正直なんだから」


 フランは拗ねた振りをして毛布を被ってしまう。

 そして消え入りそうな声で呟いたのである。


「わ、私も……は、恥ずかしいけど、キスは初めてだし……当然男性に……ちゃんとした意味で……だ、抱かれるのだって初めなの」


「今夜、俺はフラン……お前を抱くよ! そして絶対に離さない!」


 それに答えるルウの力強い声。

 暫くすると毛布の中にルウの手がゆっくりと伸びて来てフランの肌着を脱がせて行く。

 彼の手はやがてフランの乳房を優しく揉みしだき、彼女は甘い声を出し始めた。


 ルウは毛布をそっと取り去る。

 彼は以前見たフランの美しい身体を確かめたくなったのだ。

 フランはルウを見て切なそうな表情で小さく恥ずかしいと呟く。

 その可愛い表情を見てルウは彼女に強く愛おしさを感じた。


「綺麗だ……」


 ルウの口から自然と賞賛の声が洩れる。

 陶磁器のようなきめ細かい白い肌、そして美の女神のような芸術的な曲線を誇る素晴らしい体型、そして目の前には美しく形の良い大きな乳房があった。


 ルウの息も荒くなる。


 やがてルウとフランは確りと抱き合い、2つの影はひとつになっていったのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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