第1,056話 「息抜き②」
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先が見えず、果てしない、鑑定魔法の修行以上に……
大変な難事だと、思っていたのだろう。
兄ルウへ、『ドゥメール伯爵家跡目相続』の申し入れが上手く行き、ジョルジュはとても安堵したようだ。
大きく息を吐き、ルウの顔を見て、にっこり笑った。
だが、ルウは苦笑して、対面に座ったジョルジュを戒める。
「おいおい、ジョルジュ、勝って兜の緒を締めよと、いう諺があるぞ」
「勝って、兜の? 何ですか?」
「緒を締めよさ。物事が、成功したり、上手く運んだ直後に限って、トラブルが起きやすいから、常に注意を怠るな! という、たとえだな。そうそう、油断大敵という言葉もほぼ同じだ」
「な、成る程!」
ジョルジュは「兄の言う事は、尤もだ!」と、納得した。
物事が上手く運び、あまり有頂天になっていたら、ろくな事がないと、ルウは戒めてくれたのだろうと。
「フランへも、納得出来るよう、しっかり話さないといけない。彼女には俺が話すが……お前はまだ、何も伝えていないのだろう?」
「え、ええ……」
ジョルジュは、言葉少なに肯定した。
血は繋がっていないが、同性の気安さから、まずルウへ話したのだ。
姉のフランにはまだ、『自分の決意』を告げてはいない。
……普段の姉は温厚で、滅多には怒らないが……
その数少ない怒った時は、「とても怖かった!」という印象がある……
母が怒った時に……そっくりだとも、思った。
だから……まずは姉と仲の良い『兄』へ伝えてからだと思った……
ルウは、更に言う。
「それに最大の難関である、アデライド母さんの説得が、残っているじゃないか」
「……はい、兄上の仰る通りです」
「お前が自身で決めた事だし、アデライド母さんは最終的に、快くOKをしてくれるとは思うが……」
「…………」
「ドゥメール伯爵家の跡を継がせたいのは、けして俺じゃない。ジョルジュ、お前さ。それが、アデライド母さんの本音なんだ」
「…………」
「母さんには、告げる言葉をしっかり考え、焦らずに説得し、良く理解して貰う事……分かったか?」
「は、はい!」
「それと、お前が翻意しても俺は全く構わない。だから、もう一度、じっくり考えてみてくれ。フランには、そのタイミングも含め、俺から上手く伝えておく」
「わ、分かりましたっ!」
ジョルジュの気合の入った返事を聞き、ルウは満足そうに頷いた。
これで話は終わりの筈である。
しかしルウは、何故か悪戯っぽく笑っている。
「ところで、ジョルジュ」
「は、はい!」
「お前、まだ俺に話したい事があるのだろう?」
「へ? 兄上に? は、話したい……事ですか?」
ジョルジュの目が、泳いでいた。
何か、隠しているようである。
彼には珍しい事だ。
相手がルウならば、もう素直に、全てを本音で言えるのに。
動揺するジョルジュへ、ルウは更に突っ込んで来る。
「ああ、そうだ。隠しても、お前の顔に、しっかり書いてある」
「か、隠しても? お、俺の? 顔に? しっかり書いてあるのですか?」
「おお、こう書いてある。……最近は予定が、ぎっしりだ。身体も気持ちも疲れた……でも、休む暇も、遊ぶ時間もない」
「え?」
「たまには……アンナ抜き、男だけで遊びたい。だけど……遊び仲間の、魔法男子学園の友人とは、スケジュールが全く合わない」
「あ、あう!」
「かといって、もしもクラスの遊び仲間と時間が合っても、アンナにひどく怒られるから、女性の居る酒場などには行けない……そうだ、ルウを誘おう! 兄と一緒ならば、アンナも怒らないだろう……って所だな」
「げ! な、何故、分かるのですか?」
「ははっ、分かるよ、考えている事は。お前の兄……だからな」
兄だから?
いや……違うだろう。
ルウは絶対に、魔法で確かめたのに違いない。
もしくは……やはりとんでもない、洞察力なのだ……
ジョルジュはそう思ったが、もし聞いても、変に揉めそうなのでやめた。
なので、もう……自分に対し、正直になる事に決めたのである。
「で、ではっ! 兄上には、素敵な企画があるのですか!?」
「ああ、俺に考えがある。ちょっとした息抜きだな」
「ちょっとした息抜き……それ、凄く嬉しいのですが……」
何か、ジョルジュには、まだ躊躇いがあるらしい。
ルウは、笑顔のまま、問いかける。
「ですが? って、どうした?」
「あ、あの……息抜きは問題なしですが……さっき兄上が仰った通り、変な店へ、行くのは駄目なんですよ」
「変な店?」
「そ、その……俺、本当は凄く行きたい! アンナが言うほど、そんなに変な店じゃないと思うんです」
「アンナが言うほどって、何だ、それは?」
「もう! 兄上なら、分かるでしょう! ほら! 恋人とか、雌猫とか、あるじゃないですかっ!」
「ああ、その店なら、俺も噂は聞いたぞ」
ルウはそう言ったが、噂で聞いたどころではない。
恋人と雌猫は、あの鋼商会が経営する飲食店である。
たくさんの美しい女性が所属し、店に行った客は、対価を払い、店内で彼女達と一緒に飲食が出来る。
会頭のリベルト・アルディーニが、悪魔従士アスモデウスに仕切りを任せている筈なのだ。※第673話参照。
人間の女性に魅了された、アスモデウスには天職らしく、一段と気合を入れて仕事をしているらしい。
結果、スタッフの女子が張り合いを持って、生き生きして……
とても美しく可愛いのは勿論、店は健全で楽しい。
加えて、料理も酒も最高に上手い
と、最近、王都では大評判なのだ。
先日あった、リベルトからの報告によれば……
常に客足が絶えず、ふたつの店の経営は、絶好調だという……
「兄上!」
「おう!」
「何ですか? 噂で聞いたって? 噂じゃなく、もはや常識ですよ! このふたつの店は今、王都では大人気の店ですっ!」
「ほう、そうか」
ルウがあまりにも冷静なので、ジョルジュは少し、声のトーンを落とした。
「ま、まあ、超が付くリア充の兄上には、全然関係ない店かもしれませんが……連日大盛況だって話です。一緒に、お酒を飲める女の子が、凄く可愛い子ばっかりで天国状態だって、クラスの友達が嬉しそうに言ってました」
「成る程、それは、素敵な店だろうな。しかし、残念ながら、今回、俺が考えた企画とは、それらの店に行く事じゃない」
「え? そうなんですか? 俺はてっきり……」
「いやいや、お互いに……後が、怖いだろう? それに逆も困る」
ルウがそう言って、意味ありげに笑ったので、ジョルジュはハッと我に返った。
「後が怖い? それと、逆も? え? ま、まあ、確かにそうですね……」
数日前、ジョルジュはアンナと、ほんの小さな喧嘩をした。
ジョルジュが、『幼馴染みの貴族の女の子』と、街中でたまたま会い、買い物に付き合ったのを……
偶然、アンナに、見られてしまったのだ。
翌日、デートの時……
いつもは優しいアンナが、激しくジョルジュを責めた。
怒られたジョルジュは……平謝りだった。
「もしも逆の事があれば、貴方は平静でいられるの?」と、アンナから聞かれ、大いに納得したからである。
その時に、口が滑って、余計な事を言い、更に怒られた。
「じゃあ恋人と雌猫へ行くのはOK?」
と、ジョルジュがつい言ったら……
アンナからは、「そんな、変な店へ行くのは、絶対に駄目!」ときっぱり言われてしまったのだ。
この兄も、もし自分と同じ事を言ったら……
姉や他の妻達から……激しく叱られるのだろうか?
そう考えたジョルジュは、何となくルウへ親近感を覚えて、苦笑したのである。
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本日10月15日、両作品ともに、更新しております。
ぜひお楽しみ下さい。
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