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第105話 「勇気」

「おふたりさん! また来てくれよ。『黒鋼くろはがね』によろしくな」


「ありがとうございましたぁ!」


 ダレンとニーナに見送られ、ルウとフランは満足して『英雄亭』を後にした。

 食事を終えたのが、午後早目だけあってまだ日は高い。

 暖かな日差しが照らす中を2人はゆっくりと歩いて行く。

 

 満腹のお腹をさりげなく触りながらフランが問う。


「旦那様って……本当に鼻であの店の料理が美味しいって分ったの?」


「おお、美味そうな香りだったぞ」


 自信満々に断言するルウにフランは苦笑した。


「それより鎧が出来ている筈だから、早くキングスレー商会に行こう」


 ルウも『真竜王の鎧』の出来が気になって来たようだ。

 フランがすかさず腕を絡ませて来る。

 2人は寄り添いながらキングスレー商会に向かって歩いて行った。


 ―――15分後


 2人はキングスレー商会の王都支店を訪れていた。

 いつものように出迎えた商会のスタッフが支店長のマルコ・フォンティを呼んで来る。

 マルコはフランの腕がルウに絡みついているのを見て、一瞬だが羨ましそうに目が泳ぐ。

 それに前回来店した時と比べて2人は極端に親密度が増している。


「ルウ? もしかして?」


「ああ、フランもナディアも俺の妻になった。未だ婚約者だけどな」


「えええっ!?」


 マルコは唖然としていた。

 親しい男女同士とは言え、貴族と平民では身分が全然違うからである。

 よくいろいろな問題をクリアしたと吃驚するマルコであった。

 そんなマルコに将来ルウと一緒に暮らし始めた時の商品の手配を頼むフラン。


「マルコさん、彼と結婚する時もいろいろお世話になると思うので宜しくね」


「は、はいいい……お、お嬢様」


「もう! これからはナディアと同じで「さん」づけで良いですよ」


 思わず噛んでしまったマルコだが、フランに注意されてがっくりと肩を落としたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 商会の奥の特別商談室では出来上がった鎧の試着が行われていた。

 フランがどうしてもルウと一緒に試着したいと主張したので試着を手伝ったのは仕立て職人のエルダ・カファロである。


 2人がルウが持ち込んだ真竜王の皮革で製作された『真竜王の鎧』を身につけた。

 素材が余りにもレアな国宝級の物なので逆に余り目立たないようにと、依頼者と製作者の意見が一致しているせいで、鎧は華美では無く色も作りも地味なものである。

 色はルウが地味な黒色、フランが黒味をおびた深い紅色いわゆる臙脂色えんじいろに染め直してある。


「お~い、入って良いか?」


 扉の外から鎧を設計し、製作した黒ドヴェルグの鍛冶職人オルヴォ・ギルデンの声がする。

 フランが着替えるのでマルコと共に部屋の外で待機していたのだ。


「ええ、良いわよ」


 エルダが答えると2人が部屋にゆっくりと入って来た。


「おほう! 2人共良く似合っているな」「確かに!」


 巷で使われている革鎧と見た目は余り変わらないが、オルヴォが拘った特徴としては胸の部分や急所の防御機能をしっかりと強化し、草摺り部分を設けて薄手ながら腕と脚を守る為のパーツがきちんと作られている事だ。肩あて、肘あて、手甲が一体化した腕の部分に腿あて、膝あて、脛あてが一体化した脚の部分、頑丈で履き易そうな同色の革靴もしっかり身体を守ってくれそうである。

 そして視界を良くし、鼻筋と首筋を守る強化タイプのこれまた同色のバルビュート型兜がセットされていた。


「改めて感じたが……こりゃ、凄い素材だよ。物理ダメージは約1/1000に減少させるし、頑丈で碌に傷もつかない。この細工だってオリハルコン製の特別な工具でやっと作ったんだ。それによ、何と万が一損傷しても再生能力があるせいでひと晩経てば殆ど修復しちまう。魔法だって余程の上級じゃないと殆ど効かないんだ。それでいてこんなに薄くて軽いと来ちゃ滅茶苦茶反則だぜ」


 鎧を製作し終わったオルヴォが感嘆したように洩らす。

 そんなオルヴォに近付いたエルダがこっそりと耳打ちする。


「それは良いけど……結構デザイン、目立たない? 地味なのにって言ったのに」


「大丈夫さ。本当は派手に俺のオリジナルデザインの鋲付革鎧スタデッドレザーアーマーにしたかったが、色も含めて何とか約束通り地味にと……随分我慢したんだぜ」


 そんな会話をオルヴォとエルダがしている所でマルコがルウとフランに鎧の着心地を聞く。


「どうでしょう? 着心地は? 具合の悪い所などございませんか?」


「ああ、マルコ。俺は全く不満は見当たらない。文句無しだ」


 ルウは少し動いて試してみたらしく満面の笑みである。


「あ、あの……」


 フランが何か口篭っている。


「フランシスカさん、どうかしましたか?」


 マルコの言葉にフランは大きく首を横に振った。


「いいえ、着心地は最高です。だけどこの魔力の高さは?」


 それを聞いてマルコは首を傾げた。

 『真竜王の皮』から万が一、高い魔力が放出されているならば鎧の能力が分ってしまうからである。

 自分が事前に調べた限りではそんなに高い魔力は感知されていなかった筈なのだ。


「フラン、それは多分お前の魔力が反応しているのさ」


「ええっ!? という事は私の魔力が増しているの?」


 ルウは驚くフランを見て大きく頷いた。


「どうやらこの鎧にはまだまだ秘めた能力があるらしいな」


 作った俺でも全く分らねぇとオルヴォは苦笑しながら頭を掻いた。


「こんな素晴らしい鎧……嬉しいから着て帰りたいんだけど……駄目だよね」


「また冒険者に間違われるぞ、フラン」


 残念そうに呟くフランに微笑むルウ。

 そう言われると我儘を言えないと俯くフランである。

 しかし次にルウから発せられたのは信じられない言葉だった。


「俺はそう見られても構わないし、お前が着て帰りたいなら一緒に着て帰ろう」


 ルウの言葉を聞いて慌てたのがマルコである。

 只でさえ、目立つ2人がこの鎧を着て街を歩いたらどうなるか、彼はそれが心配だったのだ。


「大丈夫さ、マルコ。この商会に来る時もさんざん見られたから」


 ルウは平然と言い放つ。

 そして他に仕立てを頼んでいた品の持ち帰りを頼んだのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ありがとうございました、またのお越しを!」


 ルウとフランはマルコ達に見送られてキングスレー商会を出た。

 キングスレー商会では結構時間を食ってしまったようだ。

 中央広場の魔導時計はもう午後5時に近付こうとしていたのである。

 太陽は西にやや傾きかけ、夕焼けが空を染めていた。

 この国でこの季節の日没はだいたい午後6時30分前後である。


「遅くなったな。でもこれからだと屋敷の夕食に間に合うだろう。さあ帰ろう、フラン」


 ルウがフランの手を取って歩き出そうとした。

 しかし!

 何とフランは足を踏ん張って抵抗したのだ。


「どうした? フラン」


「……帰りたくない。まだ……このまま旦那様と一緒に居たい」


 フランの顔は真っ赤である。

 奥手の彼女にとっては今出来る最大の意思表示であろう。


「お母様に伝えてあるの……今夜は帰らないって」


 恥ずかしがりながらもフランは真っ直ぐにルウの顔を見詰めてはっきりと告げたのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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