第1,042話 「後を託して⑫」
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翌日、魔法女子学園……
フランは、アデライドとふたりきりで屋内闘技場に立っていた。
そう……
闘技場には、ふたり以外は誰も居ない。
一切の人払いをしているのだ。
ミシェル達の悩みを解消するという案件から派生した、フランの『校長昇進』の査定をする為である。
具体的には、フランがアデライドの前で、自由課題という形による魔法のデモンストレーションを行う。
先日行われた、魔法女子学園オープンキャンパスのデモンストレーションとほぼ同じといえよう。
ふたりきりなのも、当然の理由があった。
アデライドがフランの上席で、『査定』の担当者なのは勿論ではあるが……
そもそも魔法使いは、自分の手の内をやたらに他者へはさらさない。
武芸の達人が、奥の手である必殺技を見せないのと一緒だ。
さてさて、フランが行うデモンストレーションだが……
アデライドへ、新たに習得した召喚魔法を見せる事となっている。
「じゃあ、フラン……準備が出来たら、早速お願い」
「了解!」
フランは元気良く返事をすると、まず呼吸法を行う。
自身の体内魔力を高め、精神を集中、安定させる為だ。
「あ……」
アデライドは思わず声が出た。
すぐに気付いた。
フランの使う呼吸法が、自分とは全く違うと。
そう……何故ならば、フランの使う魔法は全て、アデライドが一から教え込んだものだから。
しかし今フランは、全く違う呼吸法で魔法を発動しようとしている。
これは、見覚えが、聞き覚えがある……ルウの使うアールヴの呼吸法だ。
魔眼を持つアデライドには分かる。
魔力波でも感じる。
フランの体内魔力が、あっという間に高まって行く事を。
そしてフランの心は、さざ波ひとつたてない水面のように、ぴたりと安定しているのだ。
と、同時に。
形の良い、フランの口が開かれ、朗々と言霊が詠唱される。
「現世と常世を繋ぐ異界の門よ、我の願いにてその鍵を開錠し、見栄え良く堂々と開き給え! 我が呼ぶ者が冥界の途を通り、我が下へ馳せ参じられるように! さあ開け、異界への門よ!」
アデライドは、事前に聞いてはいる。
一体、フランが何者を召喚するのかを。
しかし、ただ聞くのと、実際に見るのとでは大違い。
期待と不安で……
アデライドの喉は、「ごくり」と鳴った。
「召喚!」
鋭い声で発せられた、決めの言霊と共に、フランから大量の魔力波が放出された。
ぴいいいいいん!
同時に!
屋内闘技場の大気が、異音を立てて打ち震える。
ハッとしたアデライドが見やれば……
フランの立つ、少し前の地面が眩く輝いていた。
「がああああっ!」
どこからともなく、怖ろしい咆哮が聞えて来る。
遂にフランが召喚した者が現れる。
びしししっ!
再度大気が鳴り響くと、輝いていた地より、巨大な影が現れた。
「ごああああああああっ!」
現れたのは巨大な双頭の怪物。
漆黒の巨体を持ち、たてがみと尾は大きな蛇。
ルウの従士ケルベロスの弟。
アデライドは初めて見るが……
言わずと知れた冥界の魔獣……オルトロスだ。
オルトロスは、己の存在を誇示するかのように凄まじい声で咆哮した。
ご、がはああああああああああ!
大気がびりびりと震える。
殺気はなくとも、アデライドは思わず身構える。
異形の者に対する人の本能的な防御本能が働くから。
しかしフランは、全く臆した様子がない。
「オルトロス!」
気合の入った声で、召喚したオルトロスを自在に使役したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「フラン、貴女凄いわ……本当に」
愛娘を称えるアデライドの言葉に嘘偽りはない。
全くと言って良いほどない……
魔獣オルトロスを異界へ帰した後……
フランは、火の精霊の大群まで召喚したからである。
「いいえ、私はまだまだ。お母様にも、旦那様にも及ばない……もっともっと切磋琢磨しなければ……」
謙遜しながらも……
フランの目は、自信に満ち溢れていた。
そしてフランの言葉が本心なのも分かる。
目には心が映ると言う……
彼女の目には、学びたい、更に魔法使いとして向上したいという気持ちが満ち溢れている。
「とりあえずフラン、……貴女の『代理』が取れる確率はぐっと大きくなったわ」
「ありがとう……ございます、理事長」
「うふふ、ここまで実力を見せられれば当然です、フランシスカ・ドゥメール校長代理」
「でもお母様、いえ理事長……ケリー、いえケルトゥリ・エイルトヴァーラ教頭にも、校長昇格に必要な、査定の機会を与えるのよね?」
「当然! 貴女だけでは、不公平になりますからね。本人の希望を聞いた上だけど、後でしっかりテストしますよ」
「うふふ、お願いします」
まるで、敵へ塩を送るような、フランの誠実な言葉を聞き、気持ちを感じ……
アデライドは少し吃驚し、そして思う。
本当に……フランは変わったと。
たおやかな大人の女性になっている。
否、まだまだ成長し続けている……
「でも、うふふ」
とアデライドは悪戯っぽく笑う。
「貴女、私に及ばないなんて……上司へのお世辞でしょ? ルウならばともかく」
「分かる?」
対してフランは、同意するような素振りを見せながら、
「何てね、違うわ」
と、きっぱり否定した。
「何故?」
と、アデライドが聞けば、フランはきっぱりと言い放つ。
「お母様には……まだまだ私の知らない引き出しがある。だから学ぶ事、そして超えなくてはならない部分がたくさんあると思うの」
「成る程……」
確かにアデライドも、愛娘にも公にしていない部分が多々ある。
相手を見抜く魔眼がそうだし、数多の魔法も、伝授どころか、話してもいない……
それらはやはり、魔法使い独特の、やたらと奥義をさらさない本能なのだろう。
でもフランにも……自分に言わない、秘密の部分がまだまだありそうだ……
つらつら考えるアデライドへ、フランが更に言う。
「お母様……」
「何?」
「今回の魔法武道部の件で、私もはっきり認識したわ。私はお母様の跡を継ぐって……これからも頑張るから安心して後を託してね」
「そう! 頼もしいわ。でも……私もまだまだ学ぶわ、師匠として、母として……貴女には簡単に乗り越えられたくないから」
「うふふ、それでこそ……アデライド・ドゥメール伯爵、ヴァレンタイン王国の舞姫よ」
懐かしい渾名を、愛娘から言われたアデライドは……
晴れ晴れとした表情で、大きく頷いたのであった。
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