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第1,040話 「後を託して⑩」

愛読者の皆様!


『魔法女子学園の助っ人教師』第4巻が発売中です!


【7月21日】に発売されたばかりの、ほやほやです。

ルウとモーラルの、涼し気な表紙をお見かけになったら、ぜひお手に取って下さい。


第1巻~3巻既刊も好評発売中!

皆様が応援して下されば、更にまた『次』へと進む事が出来ます。

※新刊、既刊、共に店頭にない場合は、恐縮ですが書店様にお問合せ下さいませ。

 翌日午後12時……

 魔法女子学園本校舎5階、理事長室。


 ジゼルとシモーヌの『お願い』を受け、フランはアデライドを訪ねていた。

 事前に「昼食を共にしよう」と申し入れ、了解を貰っていたのである。

 学生食堂から、テイクアウトした『弁当』を食べながら、母娘は楽しそうに語り合った。


 話題はまず、ルウの事。

 先日、屋敷で転移魔法を使い、こっそり王都を出たとフランは言った。

 とりあえず、バートランドへ向かったとも。

 ……同僚のアドリーヌとふたりきりで旅行に行った事を、アデライドは事前にルウから告げられ、知っていた。

 後々の事を考え、アデライドには伝えておいた方が良いという、深謀遠慮である。


 ルウらしいと、アデライドは思う。

 わざわざ、『同僚』のややこしい家庭事情に入って行くなど。


 アドリーヌが、ルウへ好意を抱いている事も充分に承知していた。

 ルウの性格上、アドリーヌから愛を告げられたら断らないだろうとも。


 だがフランは堂々として、嫉妬の『し』の字も見せない。

 何かに付けて、焼き餅をやいていた春先のフランとは、全くの別人である。


 でも……愛娘には何か特別な用事がある筈。

 ルウの話を、わざわざしに来たのではない。


 そう考えたアデライドは、紅茶をひと口飲むと、悪戯っぽく笑う。


「フラン」


「ん?」


「貴女が急に、私とこうしてお昼を食べようって、誘ってくれるなんて不思議」


「変?」


「うふふ、変じゃないけど……珍しいわ」


「…………」


「ほら、雨でも降るんじゃないかしら?」


 アデライドは窓の外を眺めた。

 フランも釣られて一緒に眺める。


 窓から見える王都の空は真っ青。

 今日も夏の日の典型、快晴である。


 だが真っ青な空の、ところどころに巨大な入道雲が浮かんでいた。

 アデライドの言う通り、急な雷雨があるかもしれない……


 母の『毒舌』を聞き、苦笑したフランは大袈裟に肩をすくめる。


「もう! 相変わらずね、お母様」


「で、何の用?」


 フランのリアクションをまるで無視し、真顔になったアデライドはいきなり尋ねた。


「……ええ、お母様にお願いがあって来たの」


「お願い? そろそろ代理を取れって事?」


 アデライドの返しはど真ん中の直球。

 同時に、フランの質問へ、質問で返した形である。

 つまり、ケルトゥリとの『校長レース』に決着をつけて欲しいという、要望か否かという事なのだ。


「いいえ、そんなんじゃ……いや、ついでにそれもお願いするわ」


「ついでにって? じゃあ本題は他にあるのね」


「ええ、お母様、単刀直入に言うわ。ジーモンを貸して欲しいの」


「え? ジーモン」


 さすがに、アデライドは驚いた。

 全く予想外の願いだから。


 ジーモン?

 女子の学園に、ウチの家令を?

 単なる使用人なのに?

 一体、何の関りが?


 この娘は、何を望んでいるのだろうと。


 首を傾げるアデライドへ、フランはズバリ言う。


「そうよ。彼を魔法武道部の特別臨時コーチとして使いたいの」


「ふうん……何か、理由わけがありそうね? 話して貰える」


「ええ、勿論!」


 こうして……

 ミシェルとオルガの深刻な『悩み』は、アデライドへも伝えられたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 そんなに時間をかけず、フランの『事情説明』は終わった。


 話を聞き、アデライドは納得している。


「成る程……あの日のルウとジーモンの試合が、ミシェル達へそんなショックを与えていたなんてね」


「そうなの……でも私にも分かるわ」


「分かる?」


「私が12歳の時、10年前。あの大破壊の日。お母様が魔法大学を守る為に、家を留守にした日と同じよ」


 何と!

 フランが自ら心に大きな傷を負った日の事を話す。

 それも平然と!


 思わず、アデライドの声が大きくなる。


「フラン!」


「ん?」


 微笑むフランには、何の動揺も感じられなかった。


 アデライドは確信する。

 やはり愛娘は著しく成長したのだと。


 先程の嫉妬だけではない。

 昔の辛い思い出をそっと心の片隅に包み、見事に乗り越えたのである。


 その事を敢えて言葉に出し、問い質す必要はない。

 アデライドは優しく微笑んだ。


「……いいえ、何でもないわ。さあ、フラン、続きを話して」


「ええ、あの日……ジーモンは凄かった。子供心にいつものジーモンとは全く違う。今から考えれば、ルウと……旦那様と試合をした時と同じように、凄まじい殺気をまとっていたのね」 


「…………」


「……ミシェルとオルガが怯えるのも無理はないわ」


「…………」


「心に刻まれた恐怖を克服しなければ……このままでは、ミシェル達は騎士にはなれない。でも……この挫折を乗り越えれば、ふたりは確実に成長出来る」


「…………」


「ミシェルとオルガがジーモンと戦ってみて、悩みを解消出来るか……上手く行くかは分からない。でも手をこまねいてはいられない。私は教師としてやるだけの事はしたい」


 黙って話を聞いていたアデライドは……

 更に娘の成長を感じ、嬉しくなる。

 教師という仕事に対し、しっかり責任感を持つようになったから。


 しかし、ジーモンを貸すという事には、また別の問題がある。


「……分かったわ。でも私から頼んでも……さしたる理由もなく、女の子と戦う事を、ジーモンが簡単に了解するとは思えない」


「大丈夫! ジーモンは納得するし、お母様にもメリットがあるわ。そして私も校長になれるようアピールが出来る」


 アデライドの懸念を払拭するような、フランの力強い言葉。


 こうなれば、アデライドには持ち前の、探求心が湧き上がる。

 娘の『作戦』をぜひ聞いてみたくなった。


「へぇ! もう絵を描いたのね。それも凄い絵を」


「ええ! バッチリよ。それをこれからお母様へ話します、聞いて貰えるかしら?」


「ええ! 喜んで聞かせて頂くわ」


 フランは話し始めた。

 具体的な方法を、意義を。


 片や、話を聞くアデライドの表情は……

 まるで好奇心旺盛な、幼い子供のようになって行ったのである。

いつもお読み頂きありがとうございます!


東導 号の別作品もお願い致します。


『帰る故郷はスローライフな異世界!レベル99のふるさと勇者』


https://ncode.syosetu.com/n4411ea/


『子供達と旅に出よう編』


本日8月20日更新しております。

ぜひお楽しみ下さい。

応援宜しくお願い致します!

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