第1,040話 「後を託して⑩」
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翌日午後12時……
魔法女子学園本校舎5階、理事長室。
ジゼルとシモーヌの『お願い』を受け、フランはアデライドを訪ねていた。
事前に「昼食を共にしよう」と申し入れ、了解を貰っていたのである。
学生食堂から、テイクアウトした『弁当』を食べながら、母娘は楽しそうに語り合った。
話題はまず、ルウの事。
先日、屋敷で転移魔法を使い、こっそり王都を出たとフランは言った。
とりあえず、バートランドへ向かったとも。
……同僚のアドリーヌとふたりきりで旅行に行った事を、アデライドは事前にルウから告げられ、知っていた。
後々の事を考え、アデライドには伝えておいた方が良いという、深謀遠慮である。
ルウらしいと、アデライドは思う。
わざわざ、『同僚』のややこしい家庭事情に入って行くなど。
アドリーヌが、ルウへ好意を抱いている事も充分に承知していた。
ルウの性格上、アドリーヌから愛を告げられたら断らないだろうとも。
だがフランは堂々として、嫉妬の『し』の字も見せない。
何かに付けて、焼き餅をやいていた春先のフランとは、全くの別人である。
でも……愛娘には何か特別な用事がある筈。
ルウの話を、わざわざしに来たのではない。
そう考えたアデライドは、紅茶をひと口飲むと、悪戯っぽく笑う。
「フラン」
「ん?」
「貴女が急に、私とこうしてお昼を食べようって、誘ってくれるなんて不思議」
「変?」
「うふふ、変じゃないけど……珍しいわ」
「…………」
「ほら、雨でも降るんじゃないかしら?」
アデライドは窓の外を眺めた。
フランも釣られて一緒に眺める。
窓から見える王都の空は真っ青。
今日も夏の日の典型、快晴である。
だが真っ青な空の、ところどころに巨大な入道雲が浮かんでいた。
アデライドの言う通り、急な雷雨があるかもしれない……
母の『毒舌』を聞き、苦笑したフランは大袈裟に肩をすくめる。
「もう! 相変わらずね、お母様」
「で、何の用?」
フランのリアクションをまるで無視し、真顔になったアデライドはいきなり尋ねた。
「……ええ、お母様にお願いがあって来たの」
「お願い? そろそろ代理を取れって事?」
アデライドの返しはど真ん中の直球。
同時に、フランの質問へ、質問で返した形である。
つまり、ケルトゥリとの『校長レース』に決着をつけて欲しいという、要望か否かという事なのだ。
「いいえ、そんなんじゃ……いや、ついでにそれもお願いするわ」
「ついでにって? じゃあ本題は他にあるのね」
「ええ、お母様、単刀直入に言うわ。ジーモンを貸して欲しいの」
「え? ジーモン」
さすがに、アデライドは驚いた。
全く予想外の願いだから。
ジーモン?
女子の学園に、ウチの家令を?
単なる使用人なのに?
一体、何の関りが?
この娘は、何を望んでいるのだろうと。
首を傾げるアデライドへ、フランはズバリ言う。
「そうよ。彼を魔法武道部の特別臨時コーチとして使いたいの」
「ふうん……何か、理由がありそうね? 話して貰える」
「ええ、勿論!」
こうして……
ミシェルとオルガの深刻な『悩み』は、アデライドへも伝えられたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そんなに時間をかけず、フランの『事情説明』は終わった。
話を聞き、アデライドは納得している。
「成る程……あの日のルウとジーモンの試合が、ミシェル達へそんなショックを与えていたなんてね」
「そうなの……でも私にも分かるわ」
「分かる?」
「私が12歳の時、10年前。あの大破壊の日。お母様が魔法大学を守る為に、家を留守にした日と同じよ」
何と!
フランが自ら心に大きな傷を負った日の事を話す。
それも平然と!
思わず、アデライドの声が大きくなる。
「フラン!」
「ん?」
微笑むフランには、何の動揺も感じられなかった。
アデライドは確信する。
やはり愛娘は著しく成長したのだと。
先程の嫉妬だけではない。
昔の辛い思い出をそっと心の片隅に包み、見事に乗り越えたのである。
その事を敢えて言葉に出し、問い質す必要はない。
アデライドは優しく微笑んだ。
「……いいえ、何でもないわ。さあ、フラン、続きを話して」
「ええ、あの日……ジーモンは凄かった。子供心にいつものジーモンとは全く違う。今から考えれば、ルウと……旦那様と試合をした時と同じように、凄まじい殺気をまとっていたのね」
「…………」
「……ミシェルとオルガが怯えるのも無理はないわ」
「…………」
「心に刻まれた恐怖を克服しなければ……このままでは、ミシェル達は騎士にはなれない。でも……この挫折を乗り越えれば、ふたりは確実に成長出来る」
「…………」
「ミシェルとオルガがジーモンと戦ってみて、悩みを解消出来るか……上手く行くかは分からない。でも手をこまねいてはいられない。私は教師としてやるだけの事はしたい」
黙って話を聞いていたアデライドは……
更に娘の成長を感じ、嬉しくなる。
教師という仕事に対し、しっかり責任感を持つようになったから。
しかし、ジーモンを貸すという事には、また別の問題がある。
「……分かったわ。でも私から頼んでも……さしたる理由もなく、女の子と戦う事を、ジーモンが簡単に了解するとは思えない」
「大丈夫! ジーモンは納得するし、お母様にもメリットがあるわ。そして私も校長になれるようアピールが出来る」
アデライドの懸念を払拭するような、フランの力強い言葉。
こうなれば、アデライドには持ち前の、探求心が湧き上がる。
娘の『作戦』をぜひ聞いてみたくなった。
「へぇ! もう絵を描いたのね。それも凄い絵を」
「ええ! バッチリよ。それをこれからお母様へ話します、聞いて貰えるかしら?」
「ええ! 喜んで聞かせて頂くわ」
フランは話し始めた。
具体的な方法を、意義を。
片や、話を聞くアデライドの表情は……
まるで好奇心旺盛な、幼い子供のようになって行ったのである。
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