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第104話 「血筋と伝統」

【お詫びと修正】

キングスレー商会の女性の仕立て職人のファーストネームがオレリーの母親と同じアネットだったので変更しました。


(旧)アネット⇒(新)エルダ

「あんた達には悪い事をしちまったからな。お~い、ニーナ。この人達にエール1杯ずつサービスだ」


 それを聞いたメイド姿の少女=ニーナが悲しそうな顔をする。

 多分、あまりにもどんぶり勘定なダレンの経営にうんざりしているのは明白だった。

 しかし店主の言う事はこの店では絶対なのであろう、小さく頷くと厨房に走って行く。


「で、よければ名前を教えてくれないか?」


 ダレンが笑顔で2人に聞いて来たのでルウがフランに穏やかな表情で頷いた。

 彼が悪意を持っていないという合図である。


「俺はルウ・ブランデルだ」


「私はフランシスカ・ドゥメール。彼の妻です あ、いずれフランシスカ・ブランデルになりますから!」


 それを聞いたダレンは暫く考え込んでいるようであったが、思い出したように、はたと手を叩いた。


「何だ、ドゥメールって。あの『黒鋼くろはがね』が仕えている家だろう?」


「え、貴方はジーモンを知っているの?」


 フランが不思議そうに聞くとダレンは懐かしそうに昔からなと、答えたのである。


「あいつ、元気にしているか? 戦いが病的に好きな奴だったけど」


「ああ、いきなり戦おうと言われたぞ」 


 ルウの言葉にダレンは爆笑した。


「変わってねぇなぁ! あいつ、はっははははは!」


 そうこうするうちにニーナが冷えたエールの入ったマグを3つ持って来た。


「お? エールは2つじゃねぇのか?」


「もう! どうせぇ、俺の分も持って来いって言うでしょうぉ」


 そういうダレンに口を尖らせて抗議するニーナ。


「がはははは! わりぃ! ニーナは気が利く良い娘だぞ」


 そう言うダレンに、ニーナは慣れているらしく結局苦笑いをして許していたのだ。


「褒めたって何も出ないよぉ! ほらぁ、料理の注文オーダーが溜まっているからぁ、乾杯したら早く厨房に戻ってよぉ」


 ニーナはそう言い放つとまたもや厨房に入ってしまった。


「ははは、よ~く考えたらあんたらの昼飯も直ぐ作らなきゃな。そんな理由わけで乾杯!」


 ダレンはルウとフランの顔を嬉しそうに見渡しながら乾杯を促す。

 ルウやフランに依存は無い。

 3人は改めてマグを合わせて乾杯をしたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ――1時間後


「美味かったなぁ!」

「ええ! お屋敷で料理長が作るより野趣溢れた料理だけど、とても美味しかったわ」


 ルウとフランは出された料理を食べ終わって紅茶を飲んでいた。

 そこへ厨房から客席に来たダレンが2人の前に顔を見せる。

 昼の仕事もひと段落したらしい。


「どうだった? 貴族の料理みたいに上品じゃねぇが」


「美味かったよ、ダレンさん」「ええ! 私も!」


 ルウとフランが感想を述べると破顔一笑するダレンである。


「そいつぁ、良かった! さっきみたいな奴はたまに居るが、気を悪くしないでまた来てくれよ」


 改めてダレンが謝罪するが、ふと思い出したように言う。


「そう言えば、ルウ。お前『黒鋼くろはがね』に絡まれたって言っていたけどよ」


 どうなった? と興味津々に聞いて来る。

 何の事は無い、ダレンもまた戦いが好きなようである。


「ああ、良い戦いが出来たよ」


 曖昧な言い方をするルウにダレンはピンと来たらしい。


「お前は一見、線が細いように見えるが相当のタマだな。もし冒険者になりたいなら俺がこの街のギルドマスターに紹介してやるよ。その気になったら言って来な」


「だ、だ、駄目です! ルウはもう仕事に就いていますから!」


 話が不味い方向に流れそうになった事を察したフランが必死になって止めにかかる。


「ははは、あんたも一緒さ、ドゥメール家の姉ちゃん。ルウと一緒に冒険者になりたかったら俺が紹介するって事よ」


「へ!?」


 ポカンとするフランにダレンは豪快に笑って答える。


「がははは、あんたの大伯父であるエドモン・ドゥメール公爵も貴族でありながら、かつては冒険者だったからな」


 ダレンの言葉に吃驚するフラン。


「大伯父様は昔、『やんちゃ』だったとはお聞きしていましたが……」


「ははは、『やんちゃ』どころか冒険者ギルドのSランク。つまり英雄級の戦士でな、俺は尊敬していたよ。実はこの店も彼の名から取ったんだ。ちなみに俺はその時の冒険者仲間さ」


 今はバートランド※を統治する公爵として有名過ぎるからなとダレンは苦笑した。

 ※バートランドはヴァレンタイン王国第2の都市です。


「この世界で生き抜くにはもっと心身を強くしないとな。それがヴァンレンタイン王国建国の祖バートクリード様の教えでもある。この街でも貴族で冒険者の奴は実は結構居るからな」


 ええっ!?

 貴族なのに冒険者?


 フランは意外な事実に目を丸くしてしまう。


「ははは、お姉ちゃんには意外なようだがバートクリード様も元々は平民の冒険者だ。この国の貴族が冒険者になりたがるのは、このヴァレンタイン王国の血筋や伝統かもな」


 冒険者時代にはエドモン様と一緒に世界各地を冒険者として回ったものだと懐かしそうに語るダレン。

 ダレンが話すのを興味深げに聞いていたフランは何気にルウの様子を見る。

 するとルウはフラン以上に身を乗り出して聞いていたのだ。


 そうか……

 ルウも本来は旅を続けている筈だったものね。


「世界を見て回りたい」確か、彼はそう言っていた。


 でも……

 私もルウとだったら旅に出たい!

 きっと彼と絆を強くする事が出来る。


 フランは熱心にダレンの話を聞くルウを見守りながら強くそう思っていたのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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