第1,037話 「後を託して⑦」
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怖ろしい強面の男性戦士に対し、臆する気持ちは理解出来る。
だが訓練で、成長もして来たのでは?
励ますジゼル達へ、ミシェルは首を強く振った。
同じくオルガも苦い表情のままだ。
「違う?」
「何故だ?」
意外にもミシェルから、否定の言葉が出た。
「ええ、これから、その理由を話します」
詳しく話そうとする後輩を、ジゼル達は注視した。
ミシェルは、ゆっくりと話し出す。
「……私達が、あの家令と違い……臆せず戦えるのは……相手が分かっているからです」
「相手が分かっている?」
「どういう意味だ?」
ジゼル達から言葉の意味を問われ、ミシェルは、一気に言う。
「はい! ……まず魔物は……臆せず堂々と戦えます。……確かに怖い相手ですが、奴等は人間ではない。人外の捕食者です。やらなければ、こちらがやられるのです」
「確かに」
「ミシェルの言う通りだな」
「はい! 魔物なら手加減せず遠慮なく倒しても良い、容赦なく必殺の剣を打ち込める。私達が恐れず、そういう気持ちになれるのは……多分、開き直りの蛮勇だと思います」
蛮勇は……
『むこうみず』とも言う。
あまり深く考えずに振るう、『怖いもの知らず』の勇気なのである。
作戦前ならいざ知らず、実際に魔物と戦う最中は、誰もが深く考えない。
ひたすら相手を倒す、ただそれだけである。
ジゼルとシモーヌは同意する。
自分達もそうだから。
「ふむ、蛮勇か……」
「分かる……」
「ええ……次にルウ先生達、教官。そして部長、副部長達先輩、同輩、後輩と臆せず戦えるのは、相手がある程度分かっているからです」
「そう……だな」
「それも分かる」
ジゼル達は、こちらも同意した。
仲間内で戦っていれば、そのうち、お互いの考え方や手の内が理解出来るから。
「ええ、力量差はともかく……戦う際、私達への『力加減』が分かるから、安心してしまうのです」
「…………」
「…………」
考え込むジゼルとシモーヌ。
と、ここでミシェルが大声で言う。
どうやら質問があるようだ。
「部長! 副部長! 教えて下さい!」
「む!」
「何をだ?」
「おふたりは……私達と同じ悩みをお持ちになった事は? あ、ありませんか?」
「おお! 同じ悩みか、ふむむ」
「むうう……どうかな?」
ジゼルとシモーヌは、ミシェル達を自分に置き換えて考えてみた。
難しい問題である……
ミシェルは更に突っ込んで来る。
「もしも、あの家令みたいに、とんでもなく強くて、たくましい男性と戦うとしたら……いつもの通り、戦えますか?」
怖ろしい人外でもなく、気心の知れた仲間でもない……
見知らぬ男性と戦う。
それも底知れぬ強さを持った強靭な戦士と。
問われた、ジゼルとシモーヌの答え。
それはすぐ、意外な言葉で戻された。
「もしかしたら、私もシモーヌも、お前と同じやもしれぬ」
「そうだな……」
想定外の肯定。
「全く平気だ!」とか「問題ない!」という答えを想像……
否、期待していたかもしれないのに……
「「え?」」
ミシェルはポカンとしてしまった。
オルガも同様だ。
そんなミシェル達へ、ジゼルは言う。
「以前、話した事があるが……私とシモーヌは幼馴染だ」
「うむ、そうだなジゼル」
対して、同意したシモーヌ。
元々、ジゼルとシモーヌは、親が寄り親、寄り子という関係である。
派閥というか、一種の主君関係である。
本来なら家臣であるシモーヌが、ジゼルへ、へりくだって接しなければいけないが……
幼いジゼルが極端に嫌がり、父レオナールも対等な関係を許していた。
結果、ふたりは気の置けない親友同士になれた。
「ああ、思えば、シモーヌとは騎士を目指す道を共に歩んで来た。最初は私の祖父、今は亡きカルパンティエのお祖父様から一緒に剣の手解きを受けた」
「うむ!」
「ふたりとも、お祖父様亡き後は兄ジェロームにみっちりしごかれた。まともに女子扱いされぬほどに、なあ、シモーヌ」
「ああ、そうだ。ジゼル……懐かしい、な」
「そして鍛錬相手、模擬試合とはいえ、戦う相手が兄上から父上へと変わり、そして王都騎士隊所属の女性騎士、最後は同じく隊の男性騎士となった」
「うむ、ジゼルの言う通りだ」
ジゼルとシモーヌがここまで来た経緯を聞かされ、答えを待つミシェルであったが……
シモーヌが何故か、首を傾げたのだ。
「だから場数を踏んだ私達は、戦うのが男性相手でも臆したりはしないと、はっきり言いたいが……分からないな」
「え? 分からない?」
「それは、どうしてですか?」
ミシェルが再び驚き、オルガも我慢が出来ず、尋ねてしまった。
シモーヌは、苦笑して言う。
「私とジゼルは、一見、特に問題なく男性とも戦える」
一見……
親友シモーヌの含みがある言い方。
真意をすぐ察し、ジゼルも言う。
「うむ、確かに! だがな、あの時の家令……ジーモン殿のように本物の殺気を出す男とは戦った事がない。兄や騎士達は私達を『お客さん』として対応しただろうから……」
今度はシモーヌがジゼルの言葉を受け、
「ああ、ジゼルの言う通り、本物の殺気かもな。私は……当時の様子を知らないが……後にジゼルと共に、ルウ先生からは聞いた。あの時、ジーモンは……ルウ先生を本気で殺すつもりだったと」
「え? 本気で!?」
「そんな! 単なる練習試合で?」
「ああ、そうだ。ミシェル、オルガ、多分お前は、ジーモンの出す本気の殺気にあてられたんだ。まともにな……」
「私はちょっと考え事をしていたので、そんなに怖ろしく感じなかったが……あの時のジーモン殿と、いつもと変わらず同じように渡り合えたか? と聞かれれば、全く問題なしとは言い切れぬ」
驚くミシェルとオルガへ、恐怖の『原因』を告げるシモーヌ。
そして同意するジゼル。
本気の殺気……
生まれて初めて、ふたりが触れた怖ろしい気配……
そうなのだ。
ミシェルとオルガは、持ち続けた悩みを解消したい。
その為に、本物の殺気を持つ者と改めて対峙し、コンプレックスと化した『怯え』を乗り越えたいのである。
「部長! 副部長! お願いがあります!」
「はい! 何とか叶えて頂きたいのです! ご理解頂けるのなら! 私達の希望を!」
思い切り身体を乗り出した、悩める少女ふたりは……
同じ思いを持つやもしれぬ先輩達へ、「ずいっ」と迫ったのであった。
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