第1,031話 「特別閑話 家事を楽しむ」
書籍版第4巻発売を記念しての、特別閑話です。
ぜひお楽しみ下さい!
「ええっと……皆様、宜しいでしょうか?」
ここは王都貴族街区にある、ブランデル家の新居、大広間である。
まだ引っ越して来て、数日しか経ってはいない。
遠慮がちに声を掛けたのは……オレリーである。
対面に、フラン、ジゼル、ナディア、ジョゼフィーヌ、モーラルが整列していた。
そして、少し離れた位置にルウも立っていた。
これから、一体何が起こるのか?
ナディアの提案により、オレリーと他の妻との間で交わされた約束がある。
それが、いよいよ果たされるのだ。
そう、オレリーが他の妻達へ、家事を教えるのである。
ちなみにモーラルへも指導の指名があったが……
今回はオレリーを師匠役として、花をもたせるようだ。
せっかちなジゼルは、「もう待ちきれない!」といった感じで言う。
「オレリー、お前の教授で、いよいよ私が料理の腕を、バンバン振るえるようになるのだな?」
ジゼルの望みは、分かり易い。
愛するルウに自分の手料理を食べさせる。
これしかない。
はっきり言って、他の家事は眼中になかった……
しかし家事は、けして料理だけではない。
それにオレリーには教えるにあたって、ある考えもあったから。
でも意気込むジゼルには少々言いにくい……
「え、ええ……」
「どうした? 思う存分料理を教えてくれるのではないのか?」
「…………」
俯き、口籠り、終いには黙り込んだオレリーを見て、ナディアが手を差し伸べる。
「おいおい、ジゼル、物事にはね。順番があるんだよ」
ナディアの物言いを聞き、ジゼルは首を傾げる。
「物事に順番? 家事を覚えるのに順番なんてあるのか?」
「いや、決まってはいないけど、とりあえず料理は一番じゃない。まずボク達が、生活していく上で、必ず覚えなきゃいけないものがある」
ナディアはオレリーの気持ちを見抜いていた。
その証拠に、オレリーはとてもホッとしているから。
一方、ジゼルには全く話が見えない。
「何を言っている! 生きる上で食べる事は一番重要だろう? すなわち料理が家事では最も大事だ。確か衣食住でもトップに来る筈だぞ」
訝し気な表情のジゼルを、仕方なくスルー。
オレリーは「助かった!」という表情である。
「ナディア姉、ありがとう」
「オレリー、もう遠慮せずにはっきり言わないと駄目だよ。何せジゼルは鈍いから」
ジゼルが鈍い、すなわち鈍感!
ナディアの容赦ない口撃を聞き、さすがにジゼルが反応する。
「私が鈍いだと!? にゃ! にゃにおう!」
しかしナディアはお構いなしだ。
「うるさい雑音は無視、無視。まずはボク達、掃除のやり方を覚えなきゃね」
ナディアから出た家事の順番。
それはまず掃除。
黙って聞いていたモーラルだけが、小さく頷いた。
しかしフランとジョゼフィーヌは、ジゼル同様、全くの想定外だったようである。
「え? 掃除なの?」
「掃除ですの?」
フラン、ジョゼフィーヌが発した疑問の声に、今度はオレリーが答える。
「はい! 旦那様と相談して、私達は全員了解したじゃないですか。各自の部屋はきちんと自分で掃除をするって。共用部分もレッドさんだけじゃなく、私達も分担して掃除するって決まりましたよね?」
ここで、すかさずナディアがフォロー。
「だよねっ。旦那様、モーラル、オレリー以外は、自分で掃除した事なんか無い。それでいて全員とっても綺麗好きじゃない? だから! まずは掃除を覚えなきゃいけないものね」
「「「…………」」」
はっきり言われて、返せる言葉が、フラン達にはなかった。
自分の暮らす部屋が汚れて行く。
ゴミやホコリだらけになるのは……
絶対に耐えられない。
だが、実際に掃除は未経験。
使用人や学生寮のスタッフに、一切任せていたのだから。
反論がないと見て、ナディアが声を張り上げる。
「さあ、始めようか! じゃあオレリー、宜しく!」
「はいっ!」
『戦闘開始』を告げるナディアに応えるオレリーの声が、ブランデル家の大広間に響いていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
3時間後……
「あは! オレリー、素敵だ。部屋が綺麗になるって、凄~く気持ち良いね」
「はい! ナディア姉。気持ち良いです、最高ですよ」
嬉しそうなナディアの声。
同じく元気よく答えるオレリー。
そしてオレリーは、モーラルの『腕』を褒める。
「モーラル姉の手際は、さすがですね」
「ありがとう。でも……一番最初に掃除を教えるオレリーはさすがね」
オレリーから褒められたモーラルは、何故か意味ありげに笑った。
そして、
「うふふ、掃除って、何だか癖になりそうね」
「うむ、フラン姉の言う通り! 汚れとの厳しい戦いに、見事勝利するのは、確かに気持ちの良いものだ」
「ジゼル姉、同感です。ジョゼはもう、ちょっとでも汚れていると、絶対に許せなくなりましたわ」
意外と言ったら、怒られそうであるが……
フラン、ジゼル、ジョゼフィーヌも掃除を終えて、満足そうな顔をしていたのである。
モーラルの言う通り……
実はオレリーが家事指南の一番手を掃除にしたのは、他にも理由があった。
今回教えたのは、箒による掃き出し、それと雑巾を使った拭き掃除。
魔法習得、そして料理の習得ほど難易度が高くないせいである。
そして掃除は、効果がはっきり現れる。
見た目の達成感も、しっかり得られる事が出来るから……
更に、今回の掃除に関しては、もうひと工夫あった。
本来は自分で行う各自の部屋の清掃を全員で行ったのだ。
効果はてきめん。
更に時間の短縮は勿論、家族全員の一体感も得られたのである。
そんなオレリーの思惑を、モーラルと同じく、ルウもしっかり見抜いている。
「掃除作戦、大成功だな、オレリー」
「はい! 旦那様」
にっこり笑ったオレリーは、他の妻達へ呼び掛ける。
「良いですか? 皆さん! 家事はこうやって楽しみながらやるべきですよ」
「「「「「はい!」」」」」
最初は戸惑いの沈黙だった妻達の返事が、とびきりの元気な声で返って来て……
ブランデル家事指導役のオレリーは、「しっかり貢献出来た!」という思いをより強くしたのであった。
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明日23日は通常版として、更新します。
ジゼル達、魔法武道部の話です。
お楽しみに!
なお、本日22日も
『帰る故郷はスローライフな異世界!レベル99のふるさと勇者』
https://ncode.syosetu.com/n4411ea/
『子供達と旅に出よう編』を更新しております。
こちらもぜひお楽しみ下さい!
各作品、応援宜しくお願い致します!




