第1,025話 「叶わぬ恋に落ちて⑰」
愛読者の皆様!
『魔法女子学園の助っ人教師』第4巻の発売日が、
7月21日予定となりました!
各書店様で、予約開始されているようです!
書籍版をまだお読みではない方は、新刊が出るまで既刊第1巻~3巻を宜しくお願い致します。
皆様が応援して下されば、更にまた『次』へと進む事が出来ます。
※店頭にない場合は恐縮ですが、書店様にお問合せ下さい。
ラミアの心に響く、助けを求める子供の声。
聞き覚えがある。
そう、死んだ我が子の声に……少しだけ似ているのだ。
ママぁ! ママぁ! ママぁ~~~!
『あ! あああ~~~っ!!!』
泣き叫ぶ子供の声を聞き、思わずラミアは絶叫した。
鎖につながれ、動かない手を伸ばそうとした。
しかし……縛られた手は動く筈もなく……
ラミアが叫んだ声も、全く届いていないようだ……
やがて……
子供の泣く声は、だんだん小さくなり、消えて行った……
囚われの身であるラミアには……どうする事も出来なかった。
興奮して、息を荒げたラミアは暫し、呆然としていたが……
ハッとする。
もしかして、これもルウの魔法……なのだろうか?
だとしたら……許せない。
自分の、深く傷ついた心を……
容赦なく抉るような、非道な魔法だから。
そう!
絶対に許せない!
ひどすぎる!
正体不明なこの男は、ここまで人の心を弄んで良いのか!
激しい怒りを覚えたラミアは、凄まじい目付きで、ルウを睨み付ける。
だがルウは、相変わらず微笑んでいた。
『それさ』
『それって! 何ですかっ!』
怒鳴られ、問われて、ルウは穏やかな表情を変えた。
ラミアへ初めて見せる、真剣な表情である。
『ラミア、お前が今持った気持ち……子供を助けたい! そう思った強い感情こそが、残された希望だ』
『な!? き、希望!?』
『そして、お前が希望を見出す事が、俺達がここに来た理由だ』
『え?』
『これから俺が話す事を、落ち着いて聞いてくれないか?』
『…………』
『お前がやるべき事が、見えて来る筈だ』
『わ、私がやるべき事?』
『そうさ! 再び言おう! ラミア! お前を何とか、救いたい!』
『ルウ様の仰る通りです! ラミアさん! 私、エレナも貴女を救いたいっ! 諦めてはいけません!』
『希望は、必ずありますよ!』
お前を救いたい!
貴女を救いたい!
希望は必ずある!
温かい、心強い……
永き間、孤独と寂しさにさらされ、壊れかけた心が……
優しく癒され、少しずつ修復されて行くようだ……
言葉からじわじわと、ルウの想いが、エレナとリゼッタの想いが伝わって来る。
3人に迷いはない。
……真剣なのだ。
それ故、命の危険を冒してここまで来た。
ラミアは改めて確信した。
そして思う。
素直に……嬉しいと。
数千年もの間、幽閉され……
誰にも忘れ去られた筈の、こんな自分を、助けようとする者が居るなんて……
ルウは言う。
真っすぐにラミアを見つめながら。
『ラミア、残念ながら俺の魔法でも、子供をたくさん殺したお前の罪を消し、生まれ変わらせ、人間にする事は出来ない……たとえ自分の意思で行った事ではないとしても』
『…………』
『しかしお前の心は純粋だ。けして穢れてなどいない。だから子供の守護者たる精霊にする事は出来るんだ』
『え? 精霊?』
自分を精霊にすると聞き、ラミアは驚いた。
まるで想像が出来ない。
そんなラミアへ、ルウは更に言う。
『そうさ! 但し、犯した罪に対する制約がかかるから、たいした力はない。悲しみに囚われ泣く子供へ、優しく囁いて慰めたり、事故に遭いそうな時、警告を発して、ちょっとだけ運命を変えられる程度さ』
『…………』
ラミアは、改めて想像した。
助けを求める子供へ、声だけで応える……
言葉のみで、子供を支える……
害を為した自分が?
その子供達の守護者に……
この私が……なる……
『聞いてくれ、ラミア。俺より子を持ったお前の方がずっと知っている筈だ。子供とは、とても、か弱い存在だと』
『…………』
『そして、お前が生きた時代から数千年経ったこの世の中も、基本的に変わってはいない。相変わらず、様々な事情があって……誰からも、守られない子供は数多居るんだ』
『…………』
『そんな子供達を取り巻く環境は、とても厳しい』
『…………』
『その厳しい環境に対し、たかが声だけの力しかない精霊と、お前は思うかもしれない』
『…………』
『だが! 声だけでも……勇気付けられ、命を脅かす危険から脱し、幸せになれる子供はたくさん居る。ラミア! お前は子供の守護者たる存在になれるんだ』
『あ! ああああっ!!!』
ラミアは思わず叫んだ。
ルウの言う意味を、遂に理解したからである。
確かに……そうだ!
先ほどのような、助けを求める声に……
もし! 自分がすぐ!
励ましの言葉で! 声で!
優しく応えられたら……
恐怖に怯え、孤独に陥った子らは、どんなに心強いだろうか。
言葉とは、すなわち言霊……
声にした愛の言霊は形に、魂の糧となる。
乾いた魂を潤し、折れようとする心をしっかり支える柱となる……
ルウが、ニンフ達が懸命に励ます言葉を聞いた今、まさに自分が実感している。
そうだ!
この自分の声、言葉で、多くの罪なき子供達が救われる。
少しでも、幸せになる手助けが出来る!
それが……贖罪であり、亡くなった我が子への鎮魂歌にも等しくなる。
ラミアは、すぐ決心した。
自分はまだ、この世から居なくなってはいけない。
やれる事、否!
やるべき事があるのだと。
『ルウ様!』
『うん!』
ルウが頷くと、ラミアを捕らえていた頑丈な鎖が、粉々に砕け散った。
急に自由となったラミアは、一瞬驚いたが……
軽く息を吐くと、きっぱり言い放つ。
『私、なります! 子供達の守護者たる精霊に! ぜひお願いします!』
新たな使命を見出した、ラミアの表情は晴れ晴れとしている。
……呪われ、囚われ、悲しみに沈んでいた古の女王は、もう居ない。
生まれ変わろうとするラミアの眼差しは、真っすぐにルウ達を見つめていたのであった。
いつもお読み頂きありがとうございます!
本日6日も午後に、活動報告で第4巻の書影を公開する予定です。
何卒宜しくお願い致します。




