第1,023話 「叶わぬ恋に落ちて⑮」
愛読者の皆様!
『魔法女子学園の助っ人教師』第4巻の発売日が、
7月21日予定となりました!
各書店様で、予約開始されているようです!
書籍版をまだお読みではない方は、新刊が出るまで既刊第1巻~3巻を宜しくお願い致します。
皆様が応援して下されば、更にまた『次』へと進む事が出来ます。
※店頭にない場合は恐縮ですが、書店様にお問合せ下さい。
女神の魂の残滓を退けた、ルウ、エレナ、リゼッタはゆっくりと近付いて行った。
神殿の壁から伸びた、いかにも頑丈そうな太い鎖につながれた半人半蛇のラミアへ……
拘束されたラミアは、虚ろな目を向けていた。
自分を縛っていた女神の残滓は滅んだが、あまり気持ちの変化がないようだ。
ルウは念話で話しかける。
『聞いてくれ、ラミア……俺達は、お前を解放する為に来た』
『貴方……お強い……ですね』
ラミアは、ルウの言葉には応えない。
感情を籠めず、単にルウの力を称えて来る。
目の前で女神の魂を浄化させたのは勿論、行く手を阻む守護者達を撃破して来た事を言っているのだろう。
淡々としたラミアの称賛に対し、ルウは優しく微笑む。
『いや、そこそこだ』
『そこそこ? ……ご謙遜を。……ですが、私に助ける価値などありません』
自分を助ける価値がない……
と言うラミアの言葉を聞き、ルウは首を振る。
『そんな事はない』
『そうです! 私達は貴女を助ける為に来たのですっ』
ルウに続き、エレナも大きな声で叫ぶが……
ラミアは苦笑し、首を振った。
『私は皆さんに、救われる価値など無い愚かな女です。自らの意思ではないといえ……愛する我が子を自らの手で殺した挙句、他人の手も血で穢させました。更には……我が子だけではなく、何の罪も無い子供達さえ……』
ラミアは途中で言葉を飲み込んでしまった。
口にするのもはばかられる……重き罪なのだ。
『…………』
『…………』
『…………』
ルウは、黙ってラミアを見つめていた。
エレナとリゼッタも同様だ。
ラミアは、淡々と話を続けて行く。
『私の全身は血と憎しみで染まり、絶対に償えない罪という鎖でつながれています。その鎖に比べれば……』
ラミアは、自身をからめた魔法の鎖を見た。
女神が滅んだ今でさえ、魔法の効力は解けず、固くラミアを縛っていた……
『こんな鎖など……おもちゃのようなものです』
そう言うと、またラミアは俯いてしまった……
しかし!
『俺は、お前を救いたい』
真剣なルウの物言いを聞いて、
『は? な、何を? 言ったのです?』
ラミアは思わず顔をあげ、目を丸くしていた。
エレナ達も同じく驚いていた。
『ああ、救いたいと言った』
ルウは再び言うと、優しく笑った。
微笑んだルウを見たラミアは、一瞬戸惑ったが……
気持ちが高ぶったらしく、怒鳴り出した。
『貴方は! 何を聞いていたのですっ! 私には助ける価値などない! そう言った筈ですよっ!』
『そんな事はないさ。お前にはまだ、希望が残っている』
『希望? そんなもの! 私には絶望しかないわ。最初から、希望などありはしませんっ!』
『希望がない……本当にそうだろうか? パンドラが開けたと言う箱の底には、多くの災厄が出た後に、希望が残っていたという。一見絶望しかないお前の心の底にも、ちゃんと希望が残っている筈さ』
『そんなの! 気休めです! 冗談はやめて下さいっ』
『俺は冗談など言っていない。さあ、エレナ、リゼッタ……論より証拠だ。お前達の過去をラミアへ見せてくれるか?』
ラミアに会う前……
ルウはエレナへ協力を要請していた。
身も心も囚われのラミアを救う為に……
同じ事は、リゼッタにも告げられていた。
両名とも、全く異存はなかった。
自分に重ね、ラミアの気持ちが分かり過ぎるくらい、分かるから……
『はい! ルウ様!』
『喜んでっ!』
エレナ達の了解の声が響いた瞬間!
ルウの魔法により、ラミアの意識は遠い世界へ飛ばされていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……いつの間にか、ラミアは夢を見ていた……
最近は眠った事など、なかったのに……
彼女の目の前では、凄まじい速度で、ふたりのニンフが歩んだ人生が流れている。
夢とは思えない鮮やかな映像で……
ニンフふたりの末路は悲惨だった……
ひとりは声を失い、片思いともいえる恋に破れ、たったひとり異界へ幽閉された……
もうひとりも自分と同じように、大神から愛された結果、異形の怪物へと姿を変えられてしまった……
途中で、ラミアは気付く。
この夢はただの夢ではない。
特殊な魔法だと……
映像は見ているだけで、まるでラミアがニンフ達の人生を経験したかの如く感じたからだ。
この魔法……
多分、「自分を救いたい!」と言い切った、黒髪と黒い瞳を持つ長身痩躯の男の仕業だと……ラミアは確信した。
言う事同様、ルウは不思議な雰囲気を持つ男であった。
どんなに激しく罵倒しても、全く表情を変えなかった。
優しく優しく微笑んでいた。
ルウは、異相でもあった。
彫りの深い顔に切れ長の涼やかな目。
眼の中には、漆黒の瞳を持っていて、ふと見たら、つい引き込まれそうになった……
だが……
エレナ達の過去を見ても、ラミアは醒めている。
確かに………あのニンフ達はとても不幸だ。
しかし人間の自分に、直接何の関係もない。
他者の人生を体験させて、一体自分へどうしろと言うのか?
ラミアには、ルウの意図が全く分からなかったのである。
やがて目の前の『映像』がぼやけ始めた。
魔法の効果が終わる……
元の世界へ……戻る。
ぱっと目が覚めた。
目覚めは良く、気分も軽い。
幽閉されてから、こんなに明るい気分は初めてだ。
「あ?」
ラミアは驚き、声をあげた。
どうして?
という気持ちになる。
目が覚めた、ラミアの前にあったのは……
相変わらず優しく微笑むルウと……
顔をくしゃくしゃにして大泣きする、ふたりのニンフの姿だったのだ。
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※活動報告に『魔法女子学園の助っ人教師』第4巻の
カバーイラストをアップ致しました。
ぜひ! ご覧になって下さいませ。




