第1,011話 「叶わぬ恋に落ちて③」
愛読者の皆様!
『魔法女子学園の助っ人教師』第4巻の発売が決定致しました!
詳細は決まり次第お報せ致します。
書籍版をまだお読みではない方は、第1巻~3巻を宜しくお願い致します。
皆様が応援して下されば、更にまた『次』へと進む事が出来ます。
※店頭にない場合は恐縮ですが、書店様にお問合せ下さい。
女神が造った神殿内部は、意外にも涼しかった。
ここが偽りの亜空間である異界とはいえ、砂漠を忠実に再現しているこの世界で、神殿外部は人間が平気に過ごせる温度ではないのだ。
魔法で開けられた秘密の入り口から足を踏み入れ、少し歩いても……攻撃や罠はない。
絶対に激しい抵抗があると思いきや、こちらも意外である。
木霊のエレナが、不思議そうに首を傾げた。
女神の残虐で容赦ない『性格』を、良く知っているから。
『ルウ様、変ですね』
『ああ、そうだな。仕掛けもそうだが、少なくとも守護者は置いてある筈だ』
守護者……
エレナは思い出す。
自分が幽閉された『木霊谷』では、青銅の巨人が守護者として配置されていた。
青銅の巨人とは……
女神の息子のひとり、炎と鍛冶の神が造り出した青銅製の自動人形である。
やがて大神が恋した人間の娘に与えられたというが、女神が取り返したのか、また別の青銅の巨人タロスを改めて造ったのかは分からない。
その青銅の巨人は……並みの怪物ではない。
余程の実力がない限り、苦戦する相手だと、声だけの存在であったエレナは認識していた。
しかしルウは、あの伝説の高貴なる4界王のうちのふたり、水界王アリトン、空気界王オリエンスの協力を得て……
怪力を誇る青銅の巨人を瞬時に凍らせ、異空間へ送ってしまった。
否、アリトン達がもし居なくても、ルウ単独で容易く勝っただろう。
ルウと一緒に暮らしてみて、エレナは改めて感じる。
彼は確かに人間であると。
普通に朝起きて、普通に食事をし、普通に仕事をして、夜は普通に眠る。
泣いたのを見た事はないが、いつも優しそうに微笑んでいる。
敵と戦う時以外に、怒った顔もしない。
自分と同じ妖精ではないし、かといって精霊でもない。
当然天の使徒でもないし、絶対にありえないが……悪魔でもないのだ。
一体、ルウは何者なのだろう?
捉えられない、底の知れないスケールの大きさはどこから来るのかと、大いに気になるのだ。
つい、エレナが「つらつら」考えていると、
『エレナ、気を付けろ……僅かだが、俺達へ敵意を向ける魔力波を感じる』
『は、はい!』
考えに集中していた為、慌てたエレナが噛みながら返事をすると、
『緊張しているのか? 無理もない』
ルウはそう言うと、優しく微笑み掛けてくれた。
エレナは思わず「どきり!」とする。
こんな時、かつてエレナが仕えていた南の神々は、一方的に叱責するのが常だ。
「ぼうっとするな!」「無駄な考え事をするな!」「愚かなニンフめが!」と。
しかし、ルウは滅多に叱らない。
『叱る時』も今のように「分かるように」言ってくれる。
エレナには、それがとても心地良いのだ。
今度はルウが首を傾げる。
『先にある部屋は妙だ……砂漠か荒れ地を再現しているのか? 砂や石が撒いてある』
『砂? 石?』
『ふうむ……何か、仕掛けか、それとも守護者が居るんだろう。しつこくて悪いが、俺から絶対に離れるなよ』
『はいっ!』
違う!
全然、しつこくなんかない。
ルウは『眷属』の自分を労わってくれている。
それが、エレナには凄く嬉しい。
逆に何度も言って欲しいと思う。
暫し歩き……
ルウとエレナが出た場所は広大な広間である。
不思議なのはルウが言った通り、一面に砂が敷き詰めてある。
大小の岩が散らばっている。
確かに、荒れ地みたいだ。
『来る!』
ルウが短く叫び、背後にエレナを庇うように立ちふさがった。
音を立てずに次々と現れたのは、骸骨の戦士達である。
ヴァレンタイン王国で使うのは違う、古代の剣と盾で武装している。
数は10体……
『む! スケルトン……いや、スパルトイだな……』
『スパルトイ!』
スパルトイは、『撒かれた者』という意味を持つ、不死者の戦士だ。
元々、竜の牙から生まれたという、屈強な戦士の伝説に端を発している。
だが今、ルウ達の目の前に現れたのは、いくら戦っても疲れを知らぬ怖ろしい不死者なのだ。
しかし……
並みの騎士や戦士なら大いに苦労する不死者も、ルウの敵ではなかった。
『もし暇だったら、戦闘訓練にはぴったりなんだが……ジゼルあたりが喜びそうな奴らだ』
微笑んだルウは軽口を叩き、
「ひゅ」
と、息を吐くと、10体のスパルトイはいきなり燃え上がった。
神速&無詠唱で発動された、火の精霊魔法である。
しかし女神が、このスパルトイを守護者として置いたのは伊達ではない。
10体の燃え上がったスパルトイに代わり、全く無傷の新手がまたも10体、瞬時に現れたのである。
スパルトイの元々の怖ろしさに加えて、女神は無限ループ的な仕掛けを施したのだろう。
これでは生身で、体力、魔力共に限りがある人間はたまったものではない。
これは……一体どうすれば?
エレナは心配そうにルウを見た。
だが驚いてしまった。
ルウは何と!
……口角を上げていた。
さも面白そうに、笑っていたのである。
ピン!
今度はルウの指が鳴らされた。
念の為、別に指を鳴らさなくても、ルウは魔法を発動出来る。
所詮、単なる『癖』である。
ルウの魔法が発動されたと同時に、目の前の大広間全体が、眩い白光に包まれた。
すると、どうした事だろうか。
無限に湧き出る筈のスパルトイは、もう二度と出現しなかった。
実は、ルウが精霊魔法の次に発動したのは、おおがかりな『葬送魔法』であった。
邪悪な魔法や呪い等を解呪する、超高位魔法だ。
人間への嫉妬と殺意にとりつかれた妄執の女神が、神殿への侵入者を容赦なく殺す為に設置した、邪悪な仕掛けスパルトイ……
しかし……
ルウの前では、『くだらない小細工』に過ぎない。
魔法たったひとつで、呆気なく破壊されてしまったのである。
いつもお読み頂きありがとうございます!
東導の別作品もお願いします。
☆『帰る故郷はスローライフな異世界!レベル99のふるさと勇者』
新パート『アンテナショップとお祭り編』連載中!
https://ncode.syosetu.com/n4411ea/
※殺伐とした都会に疲れ、幼い頃に離れた故郷へ帰ろうとした青年ケンは謎の死を遂げる。15歳の少年として未知の異世界へ転生したケンは、出会った美しい少女達と辺境の田舎村で心の拠り所を探し続ける。
※『魔法女子学園の助っ人教師』とは微妙に違う
ヴァレンタイン王国における、のんびりスローライフな田舎ワールドです。
☆『隠れ勇者と押しかけエルフ』
※連載再開しました!
※最強の隠れ勇者と、呪われたダークエルフの姫の『恋と冒険の物語』です。
https://ncode.syosetu.com/n2876dv/
両作品とも、本日5月18日朝に『更新』予定です。
何卒宜しくお願い致します。




