第1,002話 「ステファニーの独立宣言①」
愛読者の皆様!
1,000話達成の際、お祝いや励ましのメッセージを多々頂き、誠にありがとうございました。
深く深く、感謝致します。
これからも頑張って、書いて行きます。
WEB版、第4巻が発売決定した書籍版共々、お引き立てを、何卒宜しくお願い致します。
ルウは、目の前で浮かんだ魔球に魔力を込めた。
ふわ……
魔球は、ルウの手元から静かに浮かびあがり、柔らかい放物線を描き、彼が投げた相手へと向かって行く。
飛ぶ速度は、魔球に慣れるまでは、当然……ゆっくり、ゆっくりである。
投げられたキャッチボールの相手は、召喚魔法の授業を受けている……ステファニーである。
彼女はまだ、『使い魔』を呼び出す事が出来ていない。
結果、C班所属とあいなった。
召喚魔法未習得のC班は、「まず基礎訓練を徹底して行う」というのがルウの方針である。
なので、ステファニーは魔法式の詠唱練習、呼吸法を自習でじっくりとやった。
だが授業が開始されてから、そんなに間を置かず、ルウがやって来た。
A班、B班の指導をそこそこに切り上げ、そちらはカサンドラに任せたらしい。
「ルウ先生直接の指導で、いよいよ、召喚魔法の魔法式詠唱の実践に入る!」
と、大きな期待に胸を膨らませたステファニーがそう思いきや、ルウは奇妙な魔道具を取り出した。
C班の中で、この魔道具を見た数人の生徒達は軽く歓声をあげ、目を輝かせた。
どうやら午前の授業で、既に『体験』済みのようである。
ステファニーは首を傾げた。
リネン製だという、球形の柔らかな魔道具を、一体どのように使うのか、と。
「この魔道具で基礎訓練を行う」
改めて為された、ルウの説明を聞き、ステファニーの興味も次第に増して行った。
やがて……
ルウから開始の指示が出て、C班の生徒達はキャッチボールを始めた。
他の生徒達は、生徒同士でペアを組んだが……
何と!
ステファニーには、同じC班の生徒ではなく、大好きなルウが相手役を務めてくれた。
このサプライズにより、ステファニーは今迄の陰鬱な気持ちが、地平線の彼方へと吹っ飛んでしまう。
実際に「投げてみて」分かったが、魔球は不思議な魔道具であった。
まず軽い。
殆ど、布自体の重さしかない。
ステファニーは、ルウの説明を思い出す。
魔力を念動力という魔力波に変え、動かす。
投げてみたら、ますます興味が湧いた。
まずは一体、中がどうなっているのか、ぜひ知りたいと思った。
ちなみに、これはマノンと全く同じ思考だ。
しかし……
そんな好奇心は、ルウとキャッチボールを始めると、全く無くなってしまった。
パッと見、キャッチボール自体は、とても簡単そうに見えた。
魔法使いとして、才能ある自分なら、
否! ブレヴァル家長女の自分なら、全然楽勝だと思った。
だが、最初は中々上手く行かない。
上へ下へ、右へ左へ。
真っすぐに投げられないのだ。
当然ルウは、ステファニーに向け、ぴたりと正確に投げて来る。
しかしステファニーは何回投げても、全然上手く投げられない。
さすがに苛々して来たが、ルウがこまめにフォローしてくれた。
30回以上投げてようやくコツが掴めた。
コツを掴んだら、そこそこ投げられるようになる。
少しでも上達すると、何故か面白くてたまらなくなった。
ルウが相手だったのも、大きいのかもしれなかった。
まるで多数のライバルから、ルウを取り上げて、独占しているようにも感じた。
更に集中すると、何も考えずに無心になれた。
投げては、返し。
また投げては返す。
ひたすら繰り返す。
自然と笑みが浮かんで来る。
この世界でステファニーは、ルウとだけふたりのみ、存在する気もしてしまうから。
『ステファニー』
「はう!」
いきなり心の中にルウの声が響き、ステファニーは吃驚してしまう。
慌てて手を口に当てた。
少し前に聞かされていたから、何故声が響いたのかは分かる。
心と心、魂同士の会話、念話である。
ステファニーが、落ち着いたと分かったのか、再びルウの声が聞こえて来る。
『今日の授業が終わった後、時間はあるか?』
『きょ、今日ですか! は、はい、ありますっ』
一体、何だろう?
ステファニーの期待は、否が応でも高まる。
『じゃあ、午後4時に俺の研究室で話をしようか』
来た、来た、とうとう来た~っ!
ルウ先生の『お誘い』が来たわっ!
やった~っ!!!
心の中で、万歳をしたステファニー。
思わず、笑みがこぼれてしまう。
「はいっ!!!」
いきなり、ステファニーの大きな返事を聞き、周囲に居たC班の生徒達が吃驚した。
不思議そうに首を傾げ、怪訝な顔をする。
それくらい、ステファニーは浮かれまくり、「ぴょんぴょん」スキップしていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
9月10日午後4時少し前……
コンコンコン!
ルウの研究室の扉を、ステファニーはひときわ大きな音で、リズミカルにノックしていた。
ノックの後、ステファニーは華奢な手で胸を押さえていた。
とてもドキドキする。
素敵な予感がする。
何か、今日人生が大きく変わると。
だけど、ちょっとだけ不安になる。
以前ステファニーが読んだ小説の主人公のケースだ。
『我が儘で、きかん坊の妹を持つ少女が、幸せになる話』……という、見出しがついていたので、つい買ってしまったのだ。
確かに、小説自体は面白かったが、主人公は中々、幸せにならなかった。
何かにつけて、妹が邪魔したからだ。
でも主人公は愛する人に出会い、妹もしおらしくなり、ステファニーは溜飲が下がった。
なので、ステファニーは自分もあやかりたいと、その本を宝物にしているのだ。
不安は、あの本と同じだ。
あてはめれば妹アニエスの繰り出す悪辣な妨害……
でも!
と思い直す。
よくよく考えてみれば、アニエスはまだ魔法女子学園の生徒ではない。
だから、絶対にルウの研究室にいるわけがない……思う。
「つらつら」と考え事をしていると、ルウの返事が返って来る。
「開いてるよ、入ってくれ」
今度聞こえたのは、念話ではない。
ルウの肉声である。
「失礼します」
がちゃり……
扉が開いた。
つい自然に、ステファニーは部屋の中、全体を見回した。
アニエスが居ないのは、当然だが……
もしや! と心配した、親友マノン達も、居ない。
「ホッ」としたステファニーは、後ろ手でゆっくりと、扉をしめたのである。
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東導の別作品もお願いします。
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本日4月15日朝、更新予定です。
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※『魔法女子学園の助っ人教師』とは微妙に違う
ヴァレンタイン王国における、のんびりスローライフな田舎ワールドです。




