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第100話 「変更」

 ルウとジゼルが部員達の居る場所に戻ると、彼女達は皆、不安そうな表情をしている。

 副部長のシモーヌが泣きながら寮に戻って行ったのを目の当たりにしたからであった。

 シンディのいぶかしげな視線がルウに突き刺さる。


「シモーヌはどうしたの、ルウ先生?」


「うん、俺の説明不足だ。これから彼女にしっかり話して来るよ」


「でも行き先は多分寮の部屋よ。いくら教師とはいえ男性は入れないわ」


 更にとがめるようなシンディの眼差しに反応したジゼルが、思わず違うと言い掛けるのをルウが手で制した。


「いや、俺がすべて悪いんだ。また日を改めるさ」


 ルウは一切言い訳をしなかった。


「それでジゼル、貴女は納得したの? ルウ先生のやり方を?」


 今度はシンディがジゼルに尋ねると、彼女は晴れやかな笑顔を見せ、大きく頷いた。


「シンディ先生、誰もが先生や私のようなタイプではない。ルウ先生のやり方を試した場合、スピードに特化した俊敏な剣士や実戦向きの優れた魔法使いが出てくる可能性は充分にあると思う」


 ジゼルの言葉を聞いたシンディの表情が初めて笑顔に変わる。

 そして「分かったわ」と頷くと部員全員にルウの指導を受けるように指示をしたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 シンディがシモーヌへの説得と欠席した生徒の様子を見に学生寮に行くと申し出てくれたので、とりあえずルウが魔法武道部の指導を行なう事になった。

 

 ルウの事を余り知らない生徒達は事の成り行きを固唾を飲んで見守っていたがジゼルが全面的にルウを支持しているのが分かるとホッとしたようだ。

 以前から厳しいだけのシモーヌの指導に対し、ルウの婚約者になってから角が取れて女としての『丸み』が出て来た今のジゼルの方に部員の人望は集まっていたからである。


「ルウ先生、宜しくお願いします!」


「先生の指導が楽しみです」


 そこに絶妙なタイミングでミシェルとオルガがすかさずフォローを入れてくれた。

 彼女達はルウが副担任として受け持つ2年C組の生徒なだけにその好意的な言葉には真実味がある。

 ルウは2人に笑顔を向けると今度は部員全員に視線を移して行く。


「ありがとう、ミシェル、オルガ! 俺の名はルウ・ブランデルだ。俺の事を知っている生徒、知らない生徒が両方この部には居ると思う。改めて宜しく頼む」


 生徒達は黙ってルウの話を聞いている。

 新任先生のお手並み拝見というところであろう。


「お前達はこの国の英雄バートクリードの寓話は知っているな?」


 ルウがいきなり昔話を切り出したので数人の生徒達が苦笑している。

 はっきり言って失笑に近い物と言っても良い。

 しかしルウは笑う彼女達に構わず話を続けた。


「バートクリードは冒険者出身の勇者だった。勇者とはすなわち万能タイプの戦士だ、タイプだけで言えばシンディ先生やジゼル部長だ」


 シンディと共に勇者と例えられたジゼルは照れた。


「しかし彼は自身の勇者としての力だけでは無く、様々な人の力を借りてこの国を打ち立てる事が出来た。シーフ、戦士、僧侶、そして我々、魔法使いも含め様々な力が結集された、とても強いものだ」


 ルウがそこまで話すと、生徒の1人が手を挙げて質問をしたいと求めて来る。

 彼が了解するとその生徒は不思議そうに問い掛けた。


「先生、それと私達の練習に何の関係があるんですか?」


 それがあるのさと、ルウは穏やかに笑う。 


「お前は今の練習がきつくないか?」


 ルウは今、質問した生徒を逆に問い質した。


「え!? そ、それは……そのう……だ、大丈夫です」


 生徒はジゼルの顔色を窺がいながら、ぎくしゃくした答えを返して来たのである。ジゼルは笑顔を浮かべると質問をした生徒に対して手を横に振った。


「ははは、イネス。私に気を使う事は無い。私自身今までと練習方法を変えると決めているんだ」


 イネスと呼ばれた小柄な少女はそれでもジゼルの言葉にどう答えて良いか分らなかったのであろう、苦しそうに俯いてしまったのだ。

 そこでルウがイネスの名を呼んだ。


「イネス、お前の体格とジゼルの体格は勿論、そして適性も彼女とは違うと俺は見ている。お前はジゼルのように逞しく……痛っ!」 


 イネスに話し掛けるルウであったが、途中で小さな悲鳴をあげる。

 何とジゼルが頬を膨らませていた。

 

 何故か怒って彼の脛を少し強く蹴ったようだ。

 その様子を見てミシェルとオルガが笑い声をあげると座は一気になごんだのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ルウの指示で先程ジゼルに話したように部員達が分けられた。

 いきなり、ルウが一方的に選ぶのではなくとりあえずは自己申告である。


 職能別としては、攻撃役アタッカー盾役タンク強化役バファー回復役ヒーラーの4種類である。

 部員達は今迄、格好良い王国の騎士を目指して来ただけに攻撃役アタッカー盾役タンクに志願する者が多い。

 一方強化役バファー回復役ヒーラーは見た目が地味なので志願者は少ない。

 しかしルウは部員達に強化役バファー回復役ヒーラーの本当の大切さをしっかり教えたかったのである。


 1年生の部員達が希望の役回りに分かれる間に、ルウはジゼルと、今居ないシモーヌを除いた2人の3年生、そしてミシェル、オルガ等2年生に目配せした。

 

 ルウ達が部室の倉庫に向かい、後をついていったジゼル達は手分けして練習用の武器と防具を運んで来たのだ。

 剣は実戦を想定した模擬戦を行う時に使う切っ先と刃を潰し、弱い雷の魔法を付呪したものであり、兜も魔法が掛かっているようである。

 いつもは部の下働きをしなくてはならない1年生は、先輩達が率先して作業を行っているのを見て吃驚したようだ。

 

 その間に1年生達の準備は整ったようである。


「まずは自己申告で志願して貰ったが、これからが本番だ」


 ルウは改めて部員全員を見回して微笑む。


「これから模擬線をやるぞ。先輩隊対新入生の対抗戦だ。1年生は今12人居るから4人1組のクランを組め。対するはジゼル達3年生3人と2年生4人のクランだ」


 ルウの指示を聞いた1年生達に動揺が走る。


「先生、それは無理です」


 そう断言したのは先程質問をして来たイネスという生徒であった。


「私達はまだ本格的な魔法の授業を受け始めたばかりです。良くて生活魔法を使えるくらいの私達が先輩方に敵う筈はありません」


 確かにイネスの言う通り、普通に考えれば無謀な戦いになる。

 しかし話にはまだ続きがあったのだ。


「確かに勝てるとは言わない。ただこれは皆にとって初戦だし、挑戦者として上級生にぶつかってみろ。ハンデとして俺が1年生クランの助っ人に入り、強化役バファー回復役ヒーラーをやろう」


 それを聞いたジゼル、ミシェル、オルガが不満そうな悲鳴をあげる。

 彼女達はルウの実力を知っているからだ。

 1年生を中心に他の生徒達はそんな先輩達を見てぽかんとしている。


「という事だ」


 ルウは再度、部員達に念を押すと模擬戦の準備の指示を出したのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

皆さんの応援のおかげで100話目を書き上げる事が出来ました!

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