七日目・「小休止で」
「よし、作戦を立てよう」
ここは僕ができるだけリードしなくては。
年上だし、しっかりしなくては。いつまでもヘタレチキンだと思うなよ。
明日香ちゃんは不安げな表情を欠片ほど残しながらもいつも通りの無表情へと戻っていた。
もしかしたら表情を出さないということは彼女にとっての殻なのかもしれない。
「はい。暗くなってきましたから今はあまり動かないほうがいいと思います。足元が見えないのは痛いですし」
足元には注意しないと。そう明日香ちゃんが小さく付け足す。
歩いているときにうつむいているような印象はあったけど、あれはもしかして足元に何かないか見ていたのだろうか。プロか。
ついでに明日香ちゃんに足元にはブルータスが尻尾振ってすりすりしていた。空気読め。
「う、うん」
「ですから明朝――朝日が昇ると同時に襲撃をしましょう」
「ウィッス」
駄目だ。この子に勝てる気がしない。
覚悟の入れ方が僕と違った。
それはそうか。父親と向かい合うのだから生半可な気持ちではいけない。
「でも、そこまでおじさんが無事でいるかどうか…いえまだ捕まってるかどうかも確定してませんが」
いや。捕まってはいるんじゃないかな。
そうじゃなかったらあの人這ってでもついてくるだろうし。そんな気がする。
「無事かどうかはともかく、生きてはいると思う」
明日香ちゃんは小首をかしげて僕を見る。
泣いていたせいで瞳がまだ潤んでおり、不覚にもどきりとする。
動揺を悟られないために明後日の方向へ目をそらしながら自分の考えを口に出した。
「あの男性は恐らく明日香ちゃんに会いたがっている。その証拠に僕らは背中を撃たれなかった。前原さんが援護していたとはいえ」
「……」
「その為には何かしら引き寄せる餌が必要だ。切り捨てることができないようなものを。――それが前原さんなんじゃないかな。まあ、彼が捕まっていたらの話だけども」
「…ありそうな話です。あの男はそういうやつでした」
あからさまに明日香ちゃんが嫌そうな顔をした。
なんかトラウマ掘り下げちゃっただろうか。
「とにかく、今は小休止で。それにどうやって襲撃にかかるかの作戦もしないと」
それにいつ追撃者が来るかとか、ほかの参加者が襲いにかかるかもしれない。
休む時には休まないと。弾込めもしないといけない。
腰を下ろし、明日香ちゃんも誘うと少しためらいながらそばに座ってくれた。ブルータスはその横。
「今度はおじさんが囮とは。まったく笑えますね」
体育座りをし、ひざに口元を当てながらどこかおかしげに明日香ちゃんはつぶやいた。