七日目・「教えてよ」
鼻をへし折って顎ぶん殴って首の骨を折った。
簡単に言えば一人死亡二人怪我ってところか。まあまあいい成績なんじゃねえかな。
が、一対多数には勝てなかったよ。
湿った地面に顔を押し付けられながらぼんやりとそんなセリフが浮かんだ。
言い訳はいくつか浮かぶがいちいち並びたてられるほどに元気は残っていない。
うつぶせに俺は倒れてて、背中に一人乗っかり明日香と因縁がありそうな男が頭を踏んでいた。
ついでに左手首折られてクソ痛い。
倒れた瞬間にあらぬ方向へと曲げられてポッキンコだ。俺の腕は折り畳み式じゃねえぞ。
あの二人と一匹は――うまいことこいつらから逃げ切れただろうか。
そうじゃなかったら俺の動き無駄だし何より恥ずかしすぎる。いやん。
かっこつけのセリフなんざ、自分の勝ちが決まってるとき以外にはとても口にできないものだな。痛みを紛らわすためにあてもなく思考を広げる。
「あれってどっち? 多分あの顔キョウカのほうだと思うんだけど」
同時にかかとが後頭部に突き刺さる。
手首ほどではないが痛い。
自尊心を文字通り踏みつけられているこの状況。
「ねえ、どっちかって聞いてるんだけど?」
「どっちもこっちも…知らねえよ」
一瞬何のことかと思ったがそうか、この男の前でも『明日香』と『京香』で入れ替わりっこしていたのだろう。
把握したい理由は分からない。だが真っ当な考えで聞いてきているんじゃないだろう。
ただたんに名前を呼ぶためではなく。
「あー。偽名使ってるかもしれないしね。じゃあ質問を変えよう」
ついでに役者じみた話し方も直してほしい。
なんだか無性にイライラとしてきて仕方がない。
立場上そんなこと言えるわけもないが。
「わき腹に刺青なかった? 花のさ」
息が中途半端なところで止まった。
あった。
百合の花が、確かに明日香のわき腹に咲いていた。
どうしてこの男が知っているのか――と思ったが明日香の元父親だったようだし、おかしくもないことか。
「どうなんだってばー」
強く踏みつけられる。
思わず手も動かしてしまい折れた部分の骨がキシキシ擦りあい悲鳴が出かかった。
目から火花が出るとはまさにこのことだろう。
なぜこいつから真っ先に始末しておかなかったのかと後悔の念に駆られる。
「知らねぇよ…服を着てんのに見透かせるわけねえだろーが…」
思ったより弱弱しい言い方になってしまった。
痛み、辛い。しんどい。
痛み止めもってきていないんだよな。失敗した。
「…なに、あれは脱がなかったの?」
「意味もなくこんな場所で脱ぐ馬鹿いるか」
脱いだことは脱いでいたが。体洗う時に。
ちゃんと健全な目的あったからということでノーカン。下手に何か言ったらヤバいことになりそう。
「ちょーっと教えてよ」
声色が変化した、と思っている間に奴の顔が近づいた。
屈んだらしい。
それから俺の髪を掴むと無理やりに引っ張る。禿げたらどうしてくれるこの馬鹿。
「あれと性行為しなかったってこと?」
「するかよ」
「じゃあ、なんでお前はあれと行動してたの? 体目当てじゃないなら、なに?」
「気まぐれだ。俺は、あいつの体なんか欲しくなおぶぁ」
掴んでいた手がユーフォ―キャッチャーのクレーンのごとく俺を解放、ろくに対策もしていない俺は地面に顔から落ちた。ついでに手首も痛かった。
それにしても周りの奴はどうしてさっきから一言も話さないのか。不気味だ。
「その気まぐれにあれも乗っかったってことか…」
気に入らないといった口調。
先ほどまでのテンションはどこに行ったんだ。
「……ふーん。じゃああのビッチ、ここ戻ってくるかな」
その顔を見ることはできなかったが、きっと獲物を待ちわびたケモノのような顔をしていることだろう。
喜悦を含んだ声は、空恐ろしいものだった。
これから先ヒロインがビッチビッチいわれます
陸に上げた魚の擬音ではありませんあらかじめ




