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二日目・私と犬と少量の記憶 ○

「おじさんって、短距離走、いくつ、ですか?」


「あー、七か六秒、だな」


「はや、い、ですね」


 陸上部に勧誘されるぐらいのタイムだ。

 年齢的にもう無理だろうけど。学生の年齢越えてるし。

 まあ、私の高校は一年半前に廃校になったが。半分は私のせいで。


「そのぐらいないと、いけなかったし、な!」


 おじさんが石を飛び越えたので、語尾が少し強くなった。

 私も短距離走八秒だったけど多分なまった。塀の中だとほぼ動く機会がなかったから。

 三日に一度、三十分だけせまいエリアでのバスケ、縄跳びが許されていたけど運動不足にはなるんだなぁ。

 みんな怖がって私とバスケやってくれなかったけど。私を大量殺人鬼を見るような目をして。

 うん。その通りじゃないか。


 ちょっと回想シーンに入っていた。

 走馬灯にならないうちに頭を現在に引き戻す。


 まあ、なにをしてるかというと。

 簡単な話、私たちは森を突っ走っていた。


 別に朝から好き好んでマラソンをしているわけではない。

 追われているのだ。

 犬に。


「ちっくしょ、連中、生存率を、下げるような、真似を、しやがって」


 ちなみに後ろからは牙をむき出しにした野良犬二頭が走ってきている。

 正直、怖い。

 よだれ垂らしてるし。噛まれたらゾンビになるとかそういうオチはないことを願う。


 そもそも抗生物質のないこの島じゃ噛まれたことそのものが致命傷なわけだが。


 というより、これは食われる。

 餌になる。


「殺人犯とか、には、生き延びて、ないん、でしょう」


 遺族にとっては切実に。

 殺人犯はなにがなんでも死んでほしい存在なのだから。

 ――それは、私もそうだから。


「だからって、一般人おれらまで、被害、食らってんじゃねーかァ!」


 おじさんが叫んだ。恐るべしその肺活量。

 いやしかし、このゲームに参加した時点でそのセリフはないだろう。

 予め死ぬと説明うけているんだろうに。

 一般参加者は死ぬというより殺す気で来てるんだろうけど。



「はぁっ……で、どうします?このまま、逃げ続ける、わけには…」


「分かってる!どうにか、出来ないか、考えてる」


 私の筋肉が悲鳴をあげはじめた。

 弱々しい体め。

 足が重い。

 あの、散々殴られた翌日を思い出す。吐き気がした。削除削除。

 あいつらはもうこの世にいないんだから。消去しちゃったんだから。

 残るのは記憶だけ。


 ううん、どうもさっきから思考が飛ぶな。

 だいぶ私も焦っているらしい。


 上着のポケットを探る。固い感触がする。

 でも、これじゃ――ナイフ一本じゃ勝てないだろう。

 おじさんはなんの武器をもってるか分からないけど――飛び道具、つまり銃は持っていないみたいだし。

 あ。


「いっ……!」


 足がもつれ、木の根に足を引っ掛け転んだ。

 地面とご対面する。

 世界が回った。


「明日香!」


「……逃げろ!」


 視界の端、こちらを見ているおじさんに向かって叫んだ。

 何をしているんだ、あの人は。

 どうして立ち止まってるんだ。どうして私に近づくんだ。 私を置いてさっさと逃げないと、死んで――



 犬が倒れた私の背に飛びかかった瞬間、ぱん、と乾いた音がした。

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