二日目・俺とメダルと明日香 ■
朝日を感じ、意識が覚醒した。
どれくらい寝ていたのだろうか。よく寝た…とはいえないが、まあまあすっきりしていた。
いや、寝起きの悪い俺がすっきりというのは変だ。
もしかしたらそばに何かの気配がしたから目覚めたのかもしれない。
ということで目を閉じたまま辺りを探る。
近くから微かに呼吸の音が聞こえた。
おそらく、明日香がこちらを見下ろして立っている。
あの温度を感じさせない瞳で。
――殺すなら、今なのに。
ふとそんな言葉が脳裏に浮かんだ。
ナイフを、いや、そんなものがなくても棒で殴れば充分に殺れる。
最初に頭部へ大きめのダメージを与えておけば、即座に反撃されることは少ない。
腕力や棒の重さにもよるが、顔面骨折ぐらいはするだろうから。
俺だってそんなことされりゃ痛みに悶えるし、めちゃくちゃ殴られれば普通に死んでしまう。人間だもの。
彼女にだってそれは分かっているはずだろう。
ならあそこまで大量に人間の息の根を止められなかったはずだ。
なのに、何故。
今さら人殺しに怖じけついているとは考えられない。
そういえば一度殺しかけたから、なにかしら報復は覚悟していたが拍子抜けするほど何もなく。
まだ時期じゃないと思っているのだろうか。
まだ殺さなくてもいいと、そう思考しているのだろうか。
まあ便利だろうしな、俺。色々と。
あの面倒くさいだけのサバイバル訓練も無駄じゃなかったな。
さて。
永遠の眠りに落ちていないのなら、起きるか。
瞼を開けると、感情を宿していない瞳とぶつかった。
正直びびった。日がサンサンと降り注いでるのに一切ハイライトがない。
「おはようございます」
まるで何事もなかったように――本当に何もなかったのだが――挨拶をしてきた。
右手は薄手のコートのポケットに突っ込んでいる。ズボンには新しい血が付着していた。
昨日の名前の知らない人間(口振りからするとあいつも死刑囚ぽかったが)の他に、あのあとまた誰かを殺ったのか。
「新しい朝が来ましたね」
こっちの考えなどまるで無視して明日香は言う。
「希望の朝とはほど遠いけどな」
どう足掻いても絶望しかないが。
「あ、そうだ」
左手のポケットから金色の何かを数個取り出す。
それから屈んで俺の鼻先に突きつけた。
「コレ、例のメダルですかね」
それは変にお洒落デザインされた硬貨だった。
実物は始めてだが、間違いないだろう。メダルだ。
これを集めるとクリア後に一枚につき一億と交換できるという。硬貨だけに。うわあつまんねぇ。
俺としてはぶっちゃけ集めるのめんどくさいのだが。
クリア出来るか分からないし。
ああでも今後、ゲームの参加者同士なんらかの交渉で使うかもしれない。
集めておいて損はないか。というか、どこに落ちているんだろう。
事前説明聞いてなかったツケがきてる。
「ところで明日香、お前一仕事してきたのか?」
どうしても血が気になったのて訪ねてみた。
「はい。正直危なかったんですが私に油断した隙をついて、ザクリと」
寝ている間にそんなドラマが。
どうして起きなかった俺。
「夜の散歩していて、ちょっと離れたところだったんで気づかなくても当たり前ですよ」
俺の顔色に気づいたのかフォローを入れてくる。
無表情で淡々とフォローされるってなんだか辛い。
「……ちゃんと見張りしろよ」
俺はそれしか言えなかった。
「はぁ。すいません」
…絶対すいませんと思ってないぞこいつ。




