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間章・面会とパウンドケーキ

 それは、私にまだ死刑判決が出ていない時の話だ。


「いえいっ、初めまして!」


 その人は突然来た。

 アクリル板を挟んで、キメポーズまでしてみせて、本当に何というか


「帰りますね」


「ちょっと待って」


 いや、わりと部屋に帰りたいのだが。

 帰って部屋の隅でぼんやりしていたい。この人を頭から追い払う作業に専念したい。

 なんというか、飲み込まれる。この人のテンションに。危機を感じる。


「んー、差し入れはフルーツパウンドケーキなんだけど……」


 困ったように小首を傾げられた。

 その動作はどうだっていいのだ。問題は、その言動。


「ぐっ」



 一応中で買えるものもあるが、外部からの差し入れがないかぎり食べられないものもある。例えば果物。

 それにしても何でよりによって好物をもってきやがった。

 しかもフルーツ。最高じゃないか。


「嫌ならこのまま帰るけど?」


「えっ」


 つまり差し入れ(パウンドケーキ)がなくなると暗にいっているのか。

 汚い。大人って汚い。


「俯いてどうしたの?面会時間がなくなっちゃうよ」


 言えない。

 パウンドケーキとこの面倒くさいであろう面会を真剣に天秤にかけているなんて。

 言った瞬間に私は完全に舐められるだろう。

 長時間熟考した後、私はできるだけ本心を隠しながら答えた。


「特別黙秘しているわけでもないですし――気は進みませんが、受けましょう」


 出来る限り表情を引き締める。

 パウンドケーキで釣られるちょろい餓鬼と思われてはいけないのだ。

 引き替えにどんな条件を出されるか分かったもんじゃない。


「思考時間十秒とかあなたそんなにパウンドケーキ好きなのね」


 はて、何を言ってるのやら。

 聞かなかったことにした。


「ところであなたは誰ですか?」


「遠藤かおり。ジャーナリストよ」


「ジャーナリスト?取材は禁止されているはずですが」


 誓約書を書かせられらはず。一切口外にしないと。


「賢いわね。取材目的じゃないわ」


「じゃあ、何しに」


「話に来たのよ、明日香ちゃん」


「……」


 ちゃん付けは久しぶりな気がする。

 ずっとフルネームか、大嫌いな名字だったから。


「ずっと調べてて――京香ちゃんについてなんだけど」


 京香について?

 声を潜めてきたので私もアクリル板に顔を寄せる。

 会話が記録されるのが嫌なのだろうか。それでも音声拾われる気がするが。


「京香ちゃんだけじゃなくて、あの《・・》被害者の子達ね」


 それを最後まで聞いたときに思った。

 多分私は死刑だと。

 国があの汚点ともいえる事件をなかったことにするために、ひどく躍起なら。

 あの事件をほぼ知っている私も未成年関係なく、首に縄をかけられる。

 事実を知る人間を減らすために。




「――――出生届けも、戸籍も、何もかも全て消されているの」



 最初からいなかったように。




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