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人殺したちのコンクルージョン  作者: 赤柴紫織子
三華宮高校占領事件
68/178

事件が終わった後、事件が始まるまで 7

 近くのファーストフード店にて。

 周りに人がいない席を探して腰を下ろした。事件以来、学校帰りにファーストフード店に寄る生徒はめっきり減ったという。


「じゃあ、改めておれは萩野康太っす。一年二組で部活は野球部、血液型は」


「そんな情報いらない」


 私はうんざりと手を振りながら言葉を遮る。

 どうにも苦手なタイプだ。

 坊主頭。野球部と言うのは本当なのかもしれない。

 ついでに桃香は私の隣に座りひたすらにチョコシェイクにストローを突き刺している。溶けるんじゃないかそれ。

 お願いだからそれぞれで変な行動しないでほしい。


「無駄話は好きじゃないの」


「…なんというか、可愛げがないって言われないっすか?」


 年下にそんなことを言われた。

 怒ろうかなとも思ったが酷くめんどくさかったのでやめた。ため息だけに留める。

 可愛げがないのはほぼ環境のせいじゃないだろうか。


「ちゃっちゃと本題入ろうよ。日が暮れちゃう」


 桃香が口を尖らせていた。

 その瞳は目の前の少年を警戒していた。当たり前か。

 なし崩し的にここにきてしまったわけだが、まだ萩野君の真意を聞いていない。

 ただの面白半分だったなら私はなんらかの処置をしなくてはいけないし。

 そう、例えば。例えば――


『死人に口なしって、便利な言葉だよね』


 ひとつの解決方法を思い浮かべた瞬間、あの時のテロリストの言葉がよみがえった。

 ぞっと背筋が凍った。

 結局のところ、京香たちまで殺された理由は未だわからない。が、テロリストたちが国にとってまずい情報をつかんでいたとして。人質にも情報が一部漏れていたと仮定されていたならば。


 彼女たちは口封じとして殺された――のか?


 そして人質を巻き込んだことを隠すためにわざわざ存在まで消して。

 見えない情報のために私たちはこんなに苦しんでいるというのだろうか。

 ふざけるな。 


「明日香ちゃん?」


「え、あ、ああ。なんでもない。萩野君、さっと問わせてもらうけど目的は何?」


「さっとで済む話っすかね…?」


 一言多い子だ。

 萩野君はストローの袋を折りたたみながら小さな声で話し始めた。


「兄貴が…人質だったんすよ。あの事件から、戻ってこなくて…いつの間にか兄貴の部屋がなくなっていて…」


「え…!?」


 桃香が声をあげる。

 私は頷いた。


「私のところも、『京香』の持っていたものはすべて消えていた。服も本も。どうやって判別したんだろうね」


「痕跡まで消されているってこと!?」


「そう。萩野君、続きを」


 桃香がさらに何か言いたげな顔をしたが口を塞いで黙らせた。

 私自身、触れてほしくない事柄だった。京香がいたということを示す物で残っていたのは、鞄につけていた京香が選んで買ったキーホルダーと、共用していた櫛だけ。



「あ、ハイ。それで、それで――母さん狂っちゃって。布団から起きれなくなっちゃって」


 ぐしゃりと紙コップを握りつぶした。中に入っていた氷がテーブルの上に零れる。

 かすかに手が震えていた。感情をここまで押し潰してきたのだろう。


「母さん、呟いてるんです。ずっとうわごとで」


「何を?」


「『あの子の存在は金で買えるものじゃない、金なんて要らない』って」


「それ…」


 オトウサンの、あの発言。

 もしかして人質の家族に金が支払われている? 何故? 口止めとして?


「おれ、許せないんです。なんで兄貴が死んだのにあいつらは笑って生きていられるんだろうって。なんで兄貴がいないのに普段通り生きているんだろうって。だから、今度はあいつらの番―――」


 最後まで彼の話を聞かなかった。いや、しっかり理解することが出来なかった。

 顔を覆う。

 心臓の音がうるさい。

 本当に、どうしようもないことだらけ。

 ねえ京香。どうしようか。


「うん、わかった。萩野君、私はあなたを信じる」


「つまり…!」


「共犯者になりなさい。ああ、私は来宮明日香。こっちは春山桃香」


「ちょ、いいの? 明日香ちゃん」


 桃香が目を丸くしている。

 急展開だもんな。その気持ちはわかる。


「うん。ただ、このことを外部には漏らさないこと。いい?」


「ハイ!」


 返事がうるさい。

 裏切ったらどうするかとか話すべきか迷ったけど言わないことにする。

 ここは信じるべきだろう。いや、それで手のひら返しされたらショックだけどね。


「じゃあ、準備期間は二週間でその間に生贄を祭り上げたやつらを調べ、あとは刃物とかを買ってその日に備えよう。なにか質問は?」


 前もって決めていたことを話す。


「ううん」


「ないっす」


 いきなり質問されても思いつかないか。

 その時その時で対処していこう。

 アイスティーで喉を潤しながら、一番言わなくてはいけないことを思い出した。


「抜けるのは自由だよ。無理してこんなことに関わらせるつもりはないから」


 萩野君はきょとんと、桃香はただ静かに微笑んだだけだった。

 桃香は死ぬつもりだけど、萩野君はそうでもないのかもしれない。

 まあいい。

 目的は一致しているのだ。



 この集まりから数日後、あのフリーライターが海で発見されたとニュースで報道されていた。調査の結果、自殺だと判断された。遺書を書き、足におもりをつけて飛び込んだらしい。

 あの男が自殺するようにはとても思えなかったけど。


次回、事件前日。

長くてすいません

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