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人殺したちのコンクルージョン  作者: 赤柴紫織子
三華宮高校占領事件
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三華宮高校占領事件 6

流血表現あり。

不穏な言葉の後に一気に空気が動いた。

 

直後に怒鳴り声や争う音、そして鼓膜をつんざくような銃撃音が連続で鳴り響く。

あまりの煩さにとっさに耳を押さえてうずくまる。

頭の中がじんじんする。うるさいのは嫌いだ。

 止まない銃声の中、幾重にも上がる悲鳴。容赦なく攻撃しているらしい。

 初っ端から犯人撃ってしまうような国だったっけ、ここは。それとも特例なのか。


 殲滅って言ってたから、みんな撃ってしまうのだろうか。

 全員だぞって釘刺していたし。


 ――全員?


 居ても立ってもいられなくなり何も考えずトイレから出た。


「お、おい君!?」


 階段中ごろに知らないおじさんが立っていて、手を伸ばしてきたけど弾いて屋上への階段を駆け上る。

 何人か途中にもいたけど押しのけたり避けたりして普段は開いていない扉へ転がり込む。足元に倒れてる人もいたけど気にしない。


 堅そうな黒いチョッキを着た人たちの背中がまず目に入った。

私よりも背が高くて、横に一列に並んでいてさながら壁のようだ。

とても通れそうにないから申し訳ないが一人の背中を突き飛ばす。

 私のことに気づいてもいなかったみたいで、あっさりと壁にすきまができた。そこから向こうへと誰にも止められないうちに進む。


「あ、え……?」


 そこに広がる光景。

 みんな倒れていた。

 立っている人はいない。


 大きな大きな血だまりに十数人が浮かんでいた。

 黒ずくめの大人と、制服を着た子供。


「なんでっ」


 意味も不明瞭な言葉を叫び、夢中で血だまりに駆けよる。

 胸や腹の部分がみんなぐちゃぐちゃだった。てらてらした長いものが傷口から覗いている子もいる。

 血が白をベースとした制服に染み込み、元のなごりはほとんどない。


「明日香――?」


「京香っ!」


 うめき声のあいだから聞こえた声。

 その方向を向くと見慣れた私の片割れがいた。

 飛ぶようにそばへ寄り、体を抱き上げる。

 京香の身体も見るも無残なことになっていた。右ほおは抉れ、腹は穴だらけで足は痙攣している。

 直視したくないのに、見てしまう。現実感がなさ過ぎて目の前のことを信じられない。


 京香は一度口から大量の血を吐き出す。

 ぼそぼそと何かを言ったがよく聞こえなかったので唇に顔を近づける。


「あす、か。ひとりに、して、ごめん」


「え、なにいってんの? やめてよ京香」


 私を置いて行くの?

 こんなところに一人残すっていうの?


「ごめん……ごめん」


「謝らないで。生きて。私を一人にしないで」


 ふ、と京香は力なく笑い私の頬にキスをした。

 冷たいキスだった。


「ごめんね… あいして、る」



 ふぅと息を吐き、それっきり呼吸が止まった。

 揺さぶってみても目を開けない。軽いはずの京香の身体がどんどんと重くなる。


 後ろからやってきた知らない人間に腕を掴まれた。

 振りほどいて京香を強く抱きしめる。


「――少女が一名立ち入り――」


 だれか教えて。


 これが悪い夢だって。


「――目撃を――」


 ちょっと、和子なにしてるの? 

 今年ピアノのコンクール出るんでしょ?

 なんだっけ、難しいやつ弾くんだったよね。先輩と特訓だって嬉しそうだったじゃん。

 腕が千切れてたら鍵盤触れないよ。


「今なら――隠せると思いますが――」


 藍川くんも、そんな顔してたら桃香に振られちゃうじゃん。

 いや、あの子のことだからそんなことぐらいで嫌いになるわけないか。

 バカップルになるのかなぁ。毎日のろけられたりして。


「分かり――た。そのように――」


 あ、君は確か二年の図書部の子だよね。

 きれいな髪だなっていつも思っていたんだ。

 家に帰ったら早く洗わないといけないかもね。血がついちゃってるから。


 それと、君は。

 あなたは。


 ――ああ、えっと、ねえ。

ちょっとみんなに聞いていいかな?



 なんで死んでるの?

 

 


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