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一日目・私と誰かの到来 ○

「……う、ん?」


 ただならぬ気配を感じて覚醒した。

 夢を見ていたようだがなんだったのか覚えていない。

 体のだるさがないところから見ると、おなじみの悪夢じゃなさそうだけど。


「起きたか」


 木の向こう側でおじさんが張り詰めた声で私に話しかけてきた。

 あたりは更に暗い。焚き火は消したようだ。


「まぁ、はい」


 多分少しだけしか寝ていないだろうけど眠気は完璧にさめた。

 緊張で心臓の鼓動が大きく打ち出す。


「誰か来る。動くなよ」


 言われなくても。返事は沈黙で返す。

 全神経を集中して近くの音を拾おうとする。


 かさ、かさ、と微かな草を分ける音。


 無言でおじさんが荷物持参でこちら側に来た。

 ということはあっちから何か迫ってるのかな。


「明日香」


 音の方向を鋭く見据えたまま、囁き声で私を呼ぶ。


「作戦を立てよう。あっちが飛び道具持っていたら勝ち目はない」


 飛び道具…拳銃とかか。

 そういえばおじさんの武器はなんなのだろう。


「まずお前が大声を上げながら走れ」


「……。おじさんは?」


「逆方向に静かに逃げる。じゃ、そういうことでいいな?」


 よくない。

 全然さっぱりこれっぽっちもよくない。

 また囮かよ。今度こそ確実に死ぬだろこれ。


「分かりました、おじさんの足の腱切ってから逃げますね」


「やめろ。地味に酷いことするな」


 おじさんも本気で提案したわけではなさそうだった。安心した。

 出しかけていたナイフをポケットにまたしまう。ただしいざというときの為に手は離さない。

 そうしている間にも音は近づいてくる。


「本当にどうします?」


「今は待て。よしといったら、とにかくジグザグに走れ」


 犬か私は。

 しかし今は頷く他ない。


 ――がさりとひときわ大きい音がして、私の心臓はより一層早くなった。


「うわぁぁぁぁぁぁー!?」


 つんざく悲鳴。

 その後に倒れる――というか、転んだような鈍い音が響いた。

 おじさんのそこからの行動は早かった。

 ぱっと木から離れ、うっすらと見える人影に踊りかかり背を踏んづけた。

 ぐぇ、と蛙の潰れたような声が人影から漏れる。


 私はゆっくりと二人に近寄っていく。


「…おじさん、何したんです?」


「簡単だよ。木と木の間に縄を張っておいたんだ、昼間のあのトラップみたいにな」


 なるほど、夜は視界が悪いから効果的な罠となるのか。

 私が寝ている間に仕掛けたのだろうか。すごいな。


「離せ!ぼ、ぼくを誰だと思ってるんだ!」


「さぁ」


「知らん」


 誰だろうが関係ないし。

 それよりおじさんが無表情でちょっと怖いんだけどどうしよう。

 ぎりぎりと背骨を強く踏みつけているよなにか気に入らなかったのかな。


「ぼ、ぼくはなぁ、十人も人を殺したんだぞ!」


「ふうん。だってよ、明日香」


 おじさんはまともに反応せず、私に会話を振った。

 いや、もしかしたらそういうのはお前が話せってやつかもしれない。

 私が話したところで何があるというのか。


「私は百人ぐらい殺傷しましたけど」


 踏みつけられている人はそれまでの動作を止めて、私を恐る恐る見上げた。

 懐かしい。あの時も、こんな目をされたっけ。

 うるさいのは嫌いなのでてっとり早く首の後ろにナイフを突き刺す。

 一度びくりと痙攣したあと、その名前も知らない誰かは死んだ。


「おじさんって、こういうタイプ嫌いなんですか?」


「多分な。お前だって嫌いなんじゃないのか?」


「無駄に虚勢はるタイプはダメですね」


「さいでか」


 そうこうしているうちに空が白み始めていた。

 森はまだ静かだ。


 血と脂でべっとりと汚れたナイフをいくらか綺麗にする。

 骨にでも当たったのか少し欠けていた。まあいい、どこかで代わりを調達しよう。


「寝る」


 おじさんは非常に簡潔に宣言した。

 寝ないと体力持たないだろう。


「はい、おやすみなさい」


 数字が一つ減った腕時計もどきを見ながら、私はシャワー浴びたいなぁなどと考えていた。



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