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人殺したちのコンクルージョン  作者: 赤柴紫織子
過去、片割れ、コンクリート
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五日目・本人ログアウト中

「明日…香!?」


 慌てて抱き起こし呼吸を確認する。

 息苦しそうではあるがしっかりとしていたのでひとまず安心する。

 ブルータスが明日香の顔をなめるが起きる気配はない。

 額に手を当てると思ったよりも熱かった。


「熱…? 風邪でも引いていたのか」


「たぶん、緊張が緩んだからではないでしょうか。断言はできませんが心因性発熱かと」


 すごく冷静な意見を岡崎は口にした。

 顎に指を添えて明日香をじっと観察している。


「緊張、か。あの時はそんな風に見えなかったんだが…」


「僕は、その、半ば意識飛んでいたので分かりませんが…虚勢を張ってたんじゃないですかね」


 虚勢。

 あの口調は虚勢だったのだろうか。そういわれれば安定していなかったし、その場の勢いって感じだった。

自分の弱さを見せるのが苦手なんだろうなぁと自分のことは棚に上げて思う。プライド高いと知らず知らずに疲れ果てていくらしいし。


「しかし、明日香ちゃんは自分の感情を隠すのが得意ですね。彼女には悪いですが家庭環境が少しばかり悪かったのかもしれません」


「…お前何なの?」


 なんかいろいろ言い始めたんだけど。


「何なのといわれましても…大学院生です。心理科の」


「…へぇ、そう」


 反応に困る。

 


「前原さん、明日香ちゃんの過去とかは聞きました?」


「あんまり。ただこいつの背中、タバコの跡が何個かあったんだよ」


「……」


 岡崎は眉をしかめて唇を噛む。


「…虐待、ですか」


「それ以外に何があるんだよ」


 むしろあったらそちらのほうを教えてほしいものである。

 岡崎は明日香の髪を梳きつつ唸る。


「可愛そうな子、で救われれば誰も不幸になんかなりませんよね」


「そうだな」


 いくら同情したところで相手を救えるわけでもなく。

 だが、明日香にはその同情をしめしてくれる人間だけでもいたのだろうか。


「……そういえば明日香ちゃんってなんでここにいるんですか?」


「すげえ今更だなオイ」


「チャンスがありませんでしたから……」


「ああ、うん、な……」


 むしろこうしてゆっくり話すのが久しぶりだ。

 話していたことはあったが歩きながらだったり走りながらだったり同時並行だったわけで。


「そのポーチって、何人かつけている人いましたけど何か意味あるんでしょうか?」


「死刑囚に支給されるやつだよ」


「え」


「そう、つまり明日香こいつは死刑囚だ」


 本人の承諾得てないけどまあいいか。

 いいのかな。


「…いったい、何をやらかしたんでしょうか」


「三華宮高校の事件の犯人」


「あ、聞いたことあります。どっちのですか? 確か短期間で二回起きてますよね」


 有名な事件だったんだな。

 幼馴染に付き合っていたからある程度は知っていたけど、一般の人間がどこまで知っているのかは分からなかったから。

 そりゃそうか。日夜マスメディアが情報をいかに早く売りつけるか競争していたんだし。


「んーと、殺傷事件のほう。六月のほうだな」


「……こんな子だったんですね。てっきりもっと我儘でどうしようもない女王様キャラかと」


 どんなイメージだよ。


「元の性格がどんなもんかわかんねぇから何とも言えないがな…さ、どっか雨宿りできそうなとこ探すぞ。雨が降りそうだ」


「はい」


「時に岡崎」


「なんでしょう」


「リュックもつから明日香をおんぶしてくれねえ? こいつ肩痛めてるからあんまり無理な体勢で抱きかかえられねえんだわ」


 置いていったら何が起こるか恐ろしくて考えられない。いろんな意味で。

 あとまあ、なんというか…なんだろうな。一人にできないというのか。


「……」


「なんだよ」


「僕、抱っこやおんぶしたことなくて…」


 筋力って大事だなと再認識しました、まる。


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