五日目・反省会はたいていお説教
歩いてからそんなにたたないうちに少し休めそうなところを見つけた。
おじさんはその場に腰を下ろして深く息を吐く。
それからお兄さんと私にこっちに来るよう手を振ってきた。後ろからブルータスもついてきた。
「そろったな? よし、反省会だ」
「はぁ」
「は、反省会?」
反省会とな。
お兄さんがすごくびびっている。
「まず明日香。お前はなにやっとんじゃ! いきなりとち狂いやがって! 下手したら死んでたぞ!」
「その…反省してますからあんまり言わないでください」
もうすでに反省済みなわけだから勘弁してほしい。
おじさんは一瞬言葉を失ってあんぐりと口を開けた。
そんなにこの態度が珍しいのか。失礼な人だな。
というか、私の今までの行いがアレだったからか。そうか。
「ま、まあ、ブルータス呼んだのは良しということで」
ブルータスは舌を出してしっぽをぱたぱたさせていた。
褒められていることを伝えるつもりで頭を撫でてやった。
「じゃあ次、岡崎。お前はなんだ。ヒロインか?」
「僕、薬とかに手を出してはいませんよ…」
「それはヘロインな」
なにコント始めているんだこの二人は。
おじさんは今気づいたようにリュックを下ろし、肩を回した。
重いから大変だろう。
「あんな局面立たされたら動揺するのはわかるけどさ、いつも誰かが助けてくれるとは限らないんだからできるだけ自分でなんとかしようぜ」
「覚えておきます……」
口調こそ柔らかくはあったが、おじさんはしっかりということは言った。
しょんぼりするお兄さん。
フォローに入ろうかと思ったが逆効果になりそうなのでやめる。お兄さんの心にとどめさしそう。
それにかくいう私もあまり動いていなかったから正面切っておじさんに意見言えないし。
「いいか、明日香に岡崎。次同じようなことが起こるとは限らない。その時その時で最善の選択をしていけ」
まるで学校の先生みたいだ。
それにしても最善の選択、ねぇ。恋愛ゲームとかなら最初から答えへつながる選択肢があるだろうけど、これ現実だからそんなのないし。
どれが正しいのかも、そもそも正解があるのかもわからないわけで。
間違えに気づいたところでもう元に戻ることなんかできない。それこそ悪魔に魂を売らないと。
――私たち姉妹の場合、生まれたことそのものが間違いだったわけだけど。
前提からそれだとどうすりゃいいんだよって話である。
生まなければ良かったというぐらいなら、何も知らない赤ん坊のうちに殺せばよかったのに。
あの母親には人殺しをする勇気が足りなかったということか。
母性とやらがあったんだろうと母親が言っていたような気もする。
「それより、前原さんが自衛隊だっていうのはどういうことですか?」
「二年前まではな。どういうことて、そんままだよ」
「確かにそのままですけど…」
いつのまにかべつの話題になっていたみたいだ。
「特殊部隊とかかなりすごいじゃないですか。どうしてやめてしまったんです?」
「それ言わなきゃなんねぇの? 別にお互いの過去知らなくてもいいだろ」
「あ…そうですね。なんかすみません」
「…謝るなよ。俺がなんかしたみたいじゃねーか」
ん。
あたまが、おもい。
ぼんやりする。
つかれてしまったのかな。
てをひたいにあてる。
「あれ? 明日香ちゃん、大丈夫?」
わからない。
ぜんしんにあつさがまわってとてもふゆかいで。
かぜでもひいたかな。
だれか、くすりをもっていないだろうか。
「おい、明日香!?」
ぐらぁとおおきくめまいがして、じめんとこんにちはした。
ごめんなさい。
わたし、ちょっとねていていいですか。