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人殺したちのコンクルージョン  作者: 赤柴紫織子
過去、片割れ、コンクリート
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五日目・全ては予定調和のうちに

 世の中そうそううまくはいかないわけで。

 

「よーしよしよし」


無常観を噛みしめながら甘えてくるブルータスを撫でてやる。

 そりゃあね、私、ブルータスが一掃してくれないかなんて思っていました。正直に言わせてもらうと。

 まあちゃんとしつけもしていないわけだし、それにブルータスにとってはこの状況はちんぷんかんぷんなはずなのだから仕方がないことではある。

 お兄さんが現在進行形で死にそうなことも。おじさんが現在進行形で撃たれそうなことも。

 ここからどう動いていくのか否か考えるのかが人間と犬の違いなんだろうな。


「あー……」


 べらべらいらんこと話していた。恥ずかしい。漫画の回想シーンを鬱陶しく思うタイプなのに自分でやってしまうとは。

あれ。違ったな、回想シーンが嫌いなのは京香か。私はなんとなく読んでいた気がする。どうにも記憶がごちゃついていていけない。

 それにしてもよく途中で撃たれなかったと思う。変身中の魔法少女に攻撃はできないといったような特殊ルールが発動していたのだろうか。

……自分で言っておいてなんだが、そんなわけあるか。


 というより、寝っ転がっている場合じゃないのではと理性が慌てだした。

だけどいろいろ力使い果たして脱力しきってしまっているから立ち上がりたくない。

でもこのままズドンと撃たれたりしたら嫌だなぁ。間抜けにもほどがある。


 なにか鈍い打撃音、悲鳴、それから重たいものが倒れる音。

 うだうだしていたらそれら一連の音が鼓膜を震わせる。何事だ。私は甘えてくるブルータスをどかし、上体を起こした。

 おじさんがすぐそばにいた人を沈めていた。まさかのワンパンチでか。

 ついでに銃も奪って残る最後の一人に銃口を向けている。

 これで形勢逆転まではいかないけど半分ぐらいは有利になったんじゃないかな。

 強いし、行動に無駄がないなぁ。

 私がぴーちくぱーちく話していても全く何も起きなかったからね。生産性がないというかなんというか。


「…ボコせるなら最初からやっておいてくださいよ…」


 とりあえず文句を言ってみる。

 撃たれやしないかとひやひやしていたのに。


「アホ言え、こいつがブルータスに気を取られたから出来ただけだ。じゃなかったら脳天に穴あいてんぞ俺」


 不機嫌そうに言葉だけ私に向ける。

 あ、じゃあブルータスはちゃんと役に立ったんだ。えらいえらい。

 

「じゃ、こっから賭けの時間だな。お前がそいつの首を切るのが早いか、俺がお前の頭を撃つのが早いか」


「……」


 男の人は無言でお兄さんを盾にした。

予定調和といっても過言じゃないぐらいに、すばらしく自然な流れだった。

 おじさんも流れを予想していたのか特に大きな反応は見せない。

 それにしても、お兄さんはそろそろ現実に帰ってこないといけないんじゃないかと。あれじゃヘタレ認定しざるを得ない。


「え、あれ? なにこの状況?」


 お、そうこう思っているうちに帰ってきた。

 先ほどよりもきつく押さえつけられていることを疑問に思っているようだが、それに答える親切なひとはいない。

 まさか首を切られるかの瀬戸際だとか、私の口から言えるわけないじゃないですか。


「明日香」


「はい、なんですか」


「さっきお前、言っていたよな」


 ふむ。なんかおかしなこと言っていただろうか。

 思い返せばほとんどすべてがおかしなことだった。穴があったら入りたい。


「言っていたって、何をです?」


「殺したいなら殺せばいいって」


「ああ……」


 そんなこと、特に重要でもないのに二回ほど繰り返していた。

 ほんとに変なことたくさん口走っていた。

 絶対この後気まずい。顔合わせられない。


「聞くぞ。シンキングタイムはなしだ」


「聞くって――?」


「お前、俺にどうしてもらいたい?」


「……」


 回りくどい。

 回りくどいなあ、この人は。素直にいけばいいものを。

 変なところでプライドがあるんだろうな。

 『殺すか殺さないか』って聞けばいいのに。

 そして、その問いは卑怯じゃないか。まるで私の意見次第で行動するみたいで。


「――おじさん。お兄さんだけは、殺さないでくださいね」


「ん」


 私への返事はそれだけだった。

 おじさんが怒鳴る。


「岡崎!」


「ふぇ、はいっ!?」


 突然呼ばれて慌てふためくお兄さん。

 さっきから思っていたんだけど、この人私よりも女の子らしい反応するのかもしれない。

 負けてられないぜ。別に勝つ必要とかないけど。


「動くな」


 銃声とかぶったから、果たしてその注意は聞けたかどうか。


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