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人殺したちのコンクルージョン  作者: 赤柴紫織子
過去、片割れ、コンクリート
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五日目・ご都合主義の重要性について

 何をいってやがんだと思った。


 どうやって俺に銃を向けるやつを仕留めるか考えていたのに、明日香のせいで吹っ飛んだ。

 彼女が口調と目つきをがらりと変えたことにはノータッチと決めたが今の発言はさすがに無視できるものではなかった。

 あいつが何を考えているのか――今まで以上に不鮮明だ。


 岡崎を助けたいのか。

 それとも岡崎なんてどうでもよくなったのか。


 後者ならばまだ分かる。捨てるつもりなんだと納得する。

 だが前者ならばこれは良い手とは言えない。

 はっきり真正面から挑発している。どう控えめに見てもだ。

 これ、マジで岡崎殺されるんじゃねえのか。鬼畜かよ。


「なんだか聞こえないみたいだから、もう一度言うよ?殺すなら殺せばいいじゃん」


「そんな三流の足掻きは――」


「足掻きじゃないし。あんたがお兄さん殺してる間に私があんたを殺すだけだもん」


 なんだ、ただの鬼畜だったか。

 カードゲームで自分のモンスターを墓地送りにして別のモンスターを強くするみたいなシステムに似てるな。誰が墓地送りかは察してほしい。


「……仲間だろ?」


 岡崎にナイフを突きつけながら男は疑念の顔をしていた。

 予想もしていなかった、まさかの敵対者にまっとうな意見をいわれる有様である。

 ちなみに問題の中心点である人質は夢の国に旅たちかけている。今のまま状況に押し流されているだけだと八割方そのまま天に召されかねないんだけど分かっているだろうかあいつ。

 というより、岡崎が普通の反応なのか。

 明日香がおかしいだけで。


「仲間。うん、仲間だね」


 明日香は無表情なままに何度か頷いた。


「実を言うと嫌いなんだけどね、その言葉。よく学校で『困った時には仲間を頼ろう』とか言われたけどさ――実際無理な話だよね」


 明日香は流れるように脇腹、それから下腹部に手を当てた。

 そこをゆっくりとさすりながら続ける。

 初日からふとした時にやっているのでクセなんだと思う。本人は気がつくと慌ててすぐ止めるので変に印象に残っていた。


「……」


 バカみたいに静かだった。

 今動けば局面が変わるかもしれないのに何故だか動けない。

 相手さん方も同じなんだろう。

 明日香から得体のしれないものがにじみ出ていて、そしてそれは彼女がそれを再び体内に入れなおさないまでにはおれたちは動いてはいけないような気がした。

 いや、まあ「気がした」だけであって。

 相手がなんらかのタイミングで我に返れば文句なしに動き出すんだろうけど。


「仲間になんか相談できるわけない。大事だからこそ」


 ぱっと腹から手を放してそのまま何かを握りつぶすような仕草をした。

 意識的というわけではなさそうだ。


「業を背負わすなんてできるはずもない。ん――まあ、桃香には背負わしちゃったかな」


 ここで登場人物を増やすなよ。ややこしくなる。

 心中でツッコミながら明日香の話が終わりに近くなっていることを察した。

 どうしよう、特に何も打開策を出していないんだけど。

 岡崎はもう無理だし明日香はさっきから行動が読めなさ過ぎてどうしようもない。

 好き勝手に個人行動しないでくれないかなぁ。小学校の遠足とかで先生に口酸っぱく言われなかったのか。


「さてと、ずいぶん無駄なこと話しちゃったね。バッカみたい。早く終わらせようか」


「!」


 緊張が走った。

 まさか、話しながら対策を考えていたのだろうか。とても期待できない。

 ハッタリなんかこの局面で使えるわけもないしどうするつもりだろう。

 明日香が叫んだ。 


「―――おいで、ブルータスッ!」


 茂みの中からまだ成熟しきっていない身体の犬が飛び出してきた。

 いなくなっていたブルータスだ。

 ブルータスが来るのを待っていたというより、来たから呼んだ感じだな。

角度的に明日香からブルータスのいた茂みが見えているはずだから。


 勢いよく躍り出たブルータスは俺たちの命を握るやつらを次々なぎ倒す




 ――わけでもなく。




「うわっ」


 親兄弟に甘えるように、明日香に飛び掛かった。明日香は倒れた。

 ……まあ訓練とかしてないんだからそれもそうだよな。




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