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人殺したちのコンクルージョン  作者: 赤柴紫織子
過去、片割れ、コンクリート
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五日目・冷静の裏は狂気

投下ペースは減ります

あとエグくなります

 満ち引きする波の音が聞こえる。

 それに被さるようにどくどくと大きい音が耳の中で飛び跳ねていた。

 俺の心臓の音だ。

 アドレナミンを全身に回している音だ。

 だが、回りきるのが少し遅かったかもしれない。


「…で?」


 俺の頭に標準をつけた銃を眺めながら口を開く。

 すばやく周囲を見渡すと残る敵は三人。

 明日香は頭に直接、岡崎は首元に刃物をぴったりと押し付けられている。

 あー、そうだった。自分のことしか考えてなくてこいつらフォローすんの忘れていた。

 ブルータスは見えない。うまいこと逃げたんだと思う。


「なんなんだてめーらは」


 たった今自分で片付けた三つの遺体。

 それらのうち一つを踏みつけながら俺は聞く。意味はない。挑発行為ともいう。

 しっかしまあ六人がかりで三人と一匹を相手にするのはスポーツマンシップ的にどうなのか。

 ああ、スポーツマンもくそもなかったなこの島。くそ。


「お、女を渡してもらおう」


 俺に向かって銃を構える男が、震え声でそういった。

 かっこつかねえな。

 どうせなら余裕たっぷりに行ってもらいたいものだが。


「だってよ。どうする」


 このメンバーなら女といえば明日香しかいない。

 一瞬間が空いた後、


「しかたありませんね。いきましょう」


 怯えるでもなく淡々と明日香が言う。

 全員が銃やナイフを持っていて勝ち目がないと思ったのか。


「ぼ、ぼぼ僕もそうしましょう」


 岡崎は落ち着け。お前には聞いていない。

 どう間違えてもお前は男だ。


「ただし条件があります」


 片手をあげて明日香が言う。

 明日香に銃を突きつける男は鼻で笑った。


「はっ、条件だと? そんなことが言える身分だと思ってるのか?」


 そして精一杯に馬鹿にしたように笑って見せたが膝が笑っていた。

 …かっこつかねえよ。

 ついでに言うとナイフ持ちの男のほうはまるで動じていないみたいだが岡崎は遠目からも解るぐらい震えていた。

 これ、それぞれが担当するのまちがえてんじゃねえかな。


「そんなことが言える身分だからこそ言ってるんですよ」


 彼女はにぃ、と口もとを吊り上げた。


「だ、黙れ! 撃つぞ!」


 明日香にこれ以上話させるのはあまりよくないと考えたのか、いっそう銃口を押し当てて威嚇する。

 だが彼女はまるで止まる意志がないようだ。

 歌うように軽やかに口を動かしていく。


「私を? 撃つ? 死んだらどうするんですか?」


「っ」


 悔しげに顔をゆがめた男を見、ちらりと明日香が俺に視線をよこした。

 どうやら私は殺せないようだと。

 俺が同意のために軽く顎を引くと満足そうな顔をした。


「そこの男性二人を殺したりとか、痛めつけたりしたなら――私はあなた方に従いません」


「どういう――ことだ」


 問われて「きゃは」と今まで聞いたことのない無邪気な笑みを見せた。 

 ぞっとするような笑みだった。


「こんな無人島で女を欲しがるなんて、答えはただ一つしかないですよねえ」


「ああ、性欲処理だな」


 何故だか明日香にその言葉を言わせたくはなくて結局言葉を引き継ぐ。

 彼女は不思議そうな顔をしたがうなずいた。


「そんな…!」


 岡崎は愕然として声を上げる。

 こいつはいい意味でも悪い意味でも一般人なんだな。

 まだ狂いきっていない。


「さてみなさん、死姦はご趣味ですか?」


「し――!? そんなもの、趣味なわけあるか!」


 男は引いたように身体だけのけぞらせた。

 その行為がますます明日香を殺せないことを示すのに。

 まあ俺もちょっと引いてるけど。

 あいつの口からそんな単語が飛び出るだなんて。


「あは、アブノーマルな趣味はないんですね。よかった」


 そう言って、安心したような顔つきをして、すぐに 


「あはははは! ははははっ!」

 

 笑い出した。


「じゃあ私は殺せないね! あんたらが欲しいのは生きてる身体なんだから!」 


 突然の狂ったようなセリフに俺たちはただ黙るしかない。


「ただでこの身体を渡してやるもんか! なんかしようってなら、あんたたちが触りたく無くなるぐらいむごい死に方してやるよ!」


 それまでの丁寧な口調をすべて崩して、明日香はポケットからナイフを素早く取り出した。

 男が制止しかけて、銃を下すべきかどうするか一瞬行動がとまった。

 そこを彼女は見逃さずにナイフの柄を使い顎を殴りつける。


「そして私は、こんなくだらないことで、こんなところでは死にたくないんだよ」


 明日香はちゅうちょせずに男の股間にまっすぐ刃を振りおろした。

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