五日目・予期せぬ事態
語り部は変わらず明日香と前原が交互です
微妙にグロ以外でもR15要素が入ってきます
俺は考えることを放棄した。
というより、目の前で何が起きたか追いつけなかった。
明日香は深いキスはせずにすぐに離れた。
その表情は先ほどとなんら変わらない。温度のない無表情のままだ。
「え…!?ちょっと、あれ!?」
岡崎ががばりと起き上がりあたりを見回す。
口もとに手を当て混乱しているようだ。目を白黒とさせている。
普段は人に触れられないところが触れられたからか。
うん、しっかりと目が覚めたようでなによりだが。
「おはようございます」
「あ、明日香ちゃん、前原さん、おはようございます…」
「どうしましたか」
おい。おい明日香。お前自分でやっといてその質問はどうなんだ。
鬼畜にもほどがあるんじゃないか。
問われた岡崎は少しだけ頬を赤くしてそっぽを向いた。
見た目通りというか、とても純情な青年らしい。
少し前に流行った言い方をすれば草食系男子なるものだろうか。
「ちょっと、変な夢見て」
「夢ですか」
「なんか、恥ずかしいんだけど…キス、された夢」
見ているこちらまで身体がかゆくなってくるんだが。
恋愛ドラマとか見ないほうだったぁらこういうのに免疫がなく、尚更むずがゆい。
明日香は少し考えた後、自分自身に指をさした。
「すいません。それ私です」
「へ」
「私がキスしました」
岡崎はフリーズした。
明日香は理解ができないというように俺を見てきた。
俺もフリーズしたいぐらいなんだけどなあ。前置きもなくあれはきつかった。
テレビつけたらラブシーンだったぐらいダメージがあった。
心の準備って大事なんだと思いました。
もっとこう、心に余裕というもの準備する時間をだな。
「お前、抵抗なかったのか」
「抵抗?」
「だって昨日今日会った男とキスだぞ…いや、俺も悪かったけどさ」
まさかするとは思わなかった。
「馬鹿ですか」といった受け答えを予想していたぐらいなのに。
しなければ何かやられると思ったのか?
俺そこまでのことなんかやったっけ。
初日を除けばやっていないし、こいつも俺を気にしない行動何回かとってるから今更とその考えいうのもおかしい。
明日香は光のない瞳で俺を見据えたまま首を傾げた。
「もっと知らない人としたことがありますから」
「は?」
「ああ――ごめんなさい。こういうこと言わないほうがよかったですね」
失言といったように明日香は手のひらで口を覆う。
ぞくりといやな予感が背中を走る。
思えばいくつかこの考えを導きだせるようなヒントは転がっていたのだ。
親。タバコの痕。キョウカ。殺人。妹。襲ってもいいという発言。
身体的虐待や性的虐待を――受けてきたんじゃないのか、こいつは。
一般常識とかけ離れてる部分があるのはもしかしたらそれのせいなのか。
わっかんねぇ。
すべては憶測の域からはでてこない。こいつがしゃべらない限りは。
そしてそれは尋ねるべきものではなく。
「ま、まさかこんなところでファーストキスを体験するとは」
「てめーは空気を読め」
「ええ!?」
岡崎が戻ってきた。
明日香の発言は聞いていたのかスル―したのか。
「ごめんなさい、初めてだったんですか」
「あいや大丈夫だから気にしないでうんオッケー」
「待てよ、岡崎は何歳だ?」
「二十五です」
「あ、うん。なんでもない気にすんな」
そうか。本当に草食系だったか。
大変だな今の子は。
女性のほうが多いとは聞くがなかなかマッチするパートナーなんて見つけられないしな。
「変な同情してませんか?」
「してないしてない。朝飯食おうぜ」
「はい、分かりました」
明日香も心なしか気遣うように岡崎を見ていたのは気のせいか。
反省した面持ちで小枝を重ねて火の準備を始めた。
ブルータスはというと尻尾を振って岡崎に甘えている。
犬にモテているだけいいじゃないか。うん。
「話を!逸らさないでください!」
うるせえ。
もういろいろありすぎていろんな物事から目を逸らしたいんだよ俺は。