五日目・王子さまの起こし方
誰かが起き上がる気配がして、私は目を開けた。
足元に目線を動かすとおじさんがあぐらをかいてぼんやり空を眺めているのが見えた。
私も明るくなりつつある空を見上げる。今日は曇りになりそうだ。
「おじさん?」
なんとなく呼びかけると、おじさんは首を回して私を見た。
疲労が滲んでいるものの元気そうで何よりだ。
「よう」
「おはようございます」
上体を起こしつつ挨拶をして、ふと隣を見る。
お兄さんが私の横で眠っていた。ブル―タスはさらにその横で。
思わず驚き仰け反った私におじさんが苦笑いする。
「…みんなで爆睡ですか」
「みたいだな。何事もなくてなによりだ」
「怪我は?」
「俺はしねぇよ。明日香は?頬にかすり傷出来ている」
気付かなかった。
ひりひり痛むような気もするが、無視できる範囲だ。
昨日、四人組と殺しあった。
あの撲殺犯なのかは結局知れずしまいだった。知ったところで何をするというわけではないけど。
まずおじさんとお兄さんがめいめいに発砲。
哀れなことに一人が鉛玉を二発食らった。
事前に打ち合わせしておくべきだったのかもしれないけどそんな余裕なかったし。
そこからが大変だった。
三人が一気にこちらへ向かってきたのだ。
おじさんが何発か撃ち一人が脱落。一人が脇腹を負傷したみたいだが構わず突進。
お兄さんは遠距離担当なので(猟銃は遠距離用らしい)後ろに下がるようにおじさんに指示をされて私の出番が来た。
ブルータスが足元で相手を撹乱し、怯んだすきに私が襲いかかる。
爪で顔を引っ掻かれたがうまいとこ左胸にナイフをぶっ刺す。
振り向いたときにはもうおじさんは最後の一人の始末を終わらせていた。
で、少し歩いてそこからの記憶がない。
「疲れがいきなり来たんだろうな。俺も起きてびっくりしたよ」
「ええ。初日から息つく暇なんかありませんでしたもんね」
「だよな。しかし三人…と一匹か。そんぐらいいるとやっぱ楽になるもんだ」
「そういうものですか」
てとてとと寄ってきたブルータスに手招きして、撫でてやる。
耳を倒して気持ちよさそうに目を細めた。
おじさんは立ちあがって大きな伸びをする。
それからまだ眠るお兄さんを見て肩をすくめる。
「起きないな」
「この人も疲れているんじゃないですかね。ここまでずっと一人だったみたいですから」
「でもそろそろ動かないと。明るくなってきたから他も動き出すころだろうし」
起こすことにした。
だが声をかけても揺さぶっても起きる気配がない。
生きていることは生きているみたいなんだけどな。
よほどぐっすり寝ているのか。
困っておじさんに意見を仰いだ。
腕組みして考えた後にいじわるそうに笑って言った。
「はは、キスでもすれば起きるんじゃないか?」
「そうですね」
白雪姫とかいばら姫じゃないけど。というかお兄さん男だし。どちらかというと王子様あたりかな。
お兄さんのに覆いかぶさるようにして手をつき、顔と顔を合わせる。
私によって出来た影によって違和感を感じたかひくりと瞼が動いたがやはり目覚める気配はない。
深い呼吸をリズムよく繰り返していた。
しばらく見つめて、
「え、おま、明日香」
お兄さんの唇に自分の唇をくっ付けた。




