四日目・彼女と彼と引き続きの人殺し
海に出た。
潮風が髪を洗う、と言えばいくらかロマンがあるが実際はべとべとになるだけだ。
泊まりに行く分には海のそばはいいけど住むのはちょっと考えてしまうな。
さて、少し整理しよう。
さっきの撲殺遺体から始まりここまで見つけた死体は計八体。新しいのから古いのまで。
状況から見るに出来るだけ見晴らしのいいところに居を構えていたのが多い。
ここらへんなら他人を狙いやすいと踏んだのだろうか。
それは狙われやすいということと同意義なのだが。
もう数日したら森の中に入っていくやつもいるだろうが、どうやらまだこのあたりに居る人間も少なくはなさそうだ。気をつけなくては。
そもそもこの島はどのくらい大きいのだろうか。
百人いるはずなのに、まだ他の連中とあまり巡り合っていない。
それと、川がある時点でそれなりに大きいのは予想できる。
「海、きれいですね」
明日香が言った。
青くきらきらと輝いている様は確かにきれいだ。
あんまりこの場にそぐわないセリフだがな。
「他の島とかが見えませんね」
岡崎が額に手を当てて水平線を眺める。
とすると、本国からはかなり離れているということになる。
本当にどこだよここ。国が所有しているのは分かってるが。
「泳いで逃げるのは無理だな」
「逃げるんですか。おじさん」
「しねえよ。どうせ溺死がオチだ。俺にだって死に方を選ぶ権利はある」
いや。
選んじゃ、いけないんだろう。
俺も溺死すべきなのだろうか。
「明日香ちゃん、前原さん」
猟銃を袋から引っ張り出しつつ岡崎が声をかけた。
さっきの休憩で弾は込めなおしてある。
じっと海の反対側、つまり森の方角をにらんでいる。
「そうですね」
明日香がナイフを取り出した。
「ああ、分かっている」
俺も先ほど手に入れたブツを手にする。
大丈夫だ、使える。
ブルータスも牙をむいて警戒態勢だ。
「まずは俺と岡崎であらかた始末するぞ」
「…はい」
「いけるか」
「いけます。もう腹をくくりましたから」
少し気になる点もなくはないが、今はスル―しておく。
「明日香はここまで来たやつを担当しろ。肩は動くか」
「このぐらい問題ありません」
「よし。体制がまずくなったら迷わず逃げろ。いいな」
「はい」
「分かりました、前原さん」
ふ、と思わず笑ってしまう。
どいつもこいつも狂ってやがる。
ま、この島に来るやつらでまともなのは数えるほどしかいないだろう。
まともじゃなかったら生きていけないし、殺せない。
「まあ、俺らどこまで生きれるかわかんねーけどさぁ――」
木々の向こうから、複数の気配。
まだこちらには気づいていないようだ。
「死ぬまで生きてみようぜ」
どうせこんなところまで来たらみんな人殺しだ。
どんな想いがあろうとなかろうと、他人には通じない。
殺されたくないなら、殺す。
どんなにかっこいいことをいったところで結局はそれだけなのだ。
【四日目終了】
【残り 四十ニ】
【半分を切りました】