四日目・彼と他のグループの存在
お兄さんも加わり、私たちの体力が戻ったところで再び移動することとなった。
おじさんはあまりお喋りじゃないし、お兄さんもそんなに話さないし、ブルータスは論外なので人数が増えたところで変わりは特にない。
しばらくの静寂を破ったのは私だった。
「…なんでしょう、これ」
「死体だな」
それは分かっている。
ただのしかばねのようだということは十分に理解した上で聞いている。
お兄さんは口もとに手を当てて青白い顔をしていた。
ブルータスが肉片を嗅いで今にも食べそうなんだけどお兄さんの前では止めたほうが、あ、食べた。
「ずいぶんとまあ…残酷に殺したもんだな」
ゲロったお兄さんを横目でちらりと見つつおじさんは感想を述べた。
そうですねと私は隣で相槌を打つ。
いろいろやらした私とは言え、この光景は気持ちのいいものではない。
撲殺遺体があった。
逃げようとしたのか血の線が草の上に引かれている。
足は棒か何かでめちゃくちゃに叩かれ、やわらかいお肉と化していた。
頭も足の比ではなく頭蓋骨が割れて中から脳みそらしきものが覗いている。
荷物は荒らされ、残っているものはほとんどなかった。
「これ、少なくとも二人以上だろうな。殺したの」
どうしてそのような結論になったのか気になったが、重要なところはそこではない。
「だとすると私たち以外にもほかにグループ作っているところがあるんでしょうかね」
「だろうな。生き残るのに必死な奴らは、特に」
私たちは必死なんでしょうかね、生きることに。
そう言おうと思ったがお兄さんがどうなのかはまだ分からないので黙っておいた。
一通り吐いて落ち着いたのかよろよろとお兄さんが帰ってきた。
その間にもブルータスはむしゃむしゃしている。脂肪分多そうだからお腹壊さないといいけど。
「よく平気でいられますね…」
「なんかこの島にいたら慣れた」
「…慣れますかね? 僕、人の死体は見たことなくて」
「人の? 他のは見たことあるんですか?」
ニュアンス的にそう聞こえる。
お兄さんは頷いた。
「ウサギとか、一度きりですがクマも」
「クマ!?」
「僕、祖父がマタギでその手伝いをしてたんです」
よく分からないがそういう仕事を手伝ったから動物は大丈夫だと。
ブルータスが満足したらしく帰ってきた。口の周りが真っ赤だ。
男性二人は微妙に引いた顔でブルータスを見ていた。
「美味しかった?」
尻尾を振った。
これは撫でられているから振っているのだろうか。
もしかしたらちょっとだけ通じたのかもしれない。
「そっかそっか、よかったね」
無邪気に甘えてきた。
血が擦りつけられていく。もう汚れてるからいいかな…。
「すごく殺伐としているほのぼのだ…」
「あいつわりと容赦なく殺しにかかるぞ」
「え。マジですか」
「マジで」
外野で何やら二人が話していた。