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四日目・彼女と願いの決定

タバコを吸おうとして、もうなかったことに気づく。

まあいいか。あってもなくても考えることはできる。

頭を掻いて明日香と青年を交互に見てから口を開く。


「ーーそれだけか」


「あれ!? なんかこれ僕死ぬ流れだ!」


可哀想なぐらいにうろたえた。

おかしいな、なんでだろう。変なことは言っていないはずなのに。

『言いたいことは他にないのか』ぐらいの気持ちだったんだが。

あ、もしかしたらまた言い方が悪かったとか。

まあいいや、いちいち説明するのもめんどくさい。次行こう。


「…どう思う、明日香」


「いいんですか。私が意見言っても」


「ああ。俺だけの問題じゃないから」


一人以上で行動しているなら、独断は禁物だ。

仲間割れを引き起こしかねない。


「そうですか。……私はいいと思いますけど」


少し考える素振りをしてから明日香は言った。

助けられているからかいくらか青年への対応が柔らかい気がする。

ならいきなり殺し合いから始まった俺のことはどう思っているのだろう。


「ふぅん、分かった。ダメだ」


「えっ」


「意見を聞いた意味は!?」


明日香は最低限の反応しかしなくて、青年はツッコミに走る性質らしい。

人間観察は趣味ではないが比較するとわりと面白いものを発見できる。

人は他人と比べて初めて個を認識するとかうんぬんかんぬんはなるほど間違えていない。


「いやいやジョークジョーク。俺もさっき命助けられたし」


命の恩人を無下には扱えない。

それに、一切彼からは俺らへの殺意が感じられなかった。

もしも隠しているなら大したものだし、今までの行動に説明がつかない。

死んでほしいなら見捨てれば良かったのだ。


「いいぜ。一緒に行こう」


「あ、ありがとうございます」


終わりがどうなるかはまだ分からないし、敵に回る可能性だってある。

だが、せめて今はまともに話せる人間といたかった。これまるで寂しがりやみたいな言い方だな気持ち悪いぞ俺。


「……驚かせないでください。思わず刺そうかと」


明日香が淡々とそんなことを言ってきた。

思わずってなんだよ。


「あのさ、それ以外にもっと主張する方法あるだろ。バイオレンスに頼るんじゃねーよ」


「はぁ」


まるで聞いてないよこいつ。

お前だってさっきジョーク言ったじゃんおあいこだろ。

などと不満等々は飲み込んで代わりに吐息をひとつ。


「えっと、じゃあ、僕から名前を言いますね。岡崎美波です」


「ミナミ?」


「美しい波と書いて、美波です。女っぽくて嫌なんですけどね」


俺よりはまだマシな気もする。


「前原籠原。一応、籠原が名前」


「明日香です」


一人簡潔に済ませた。

当然のことというか、岡崎は首を傾げる。


「二人は親子か何かなんですか?」


どうしてそうなる。苗字を省略したからか。

それでも目が節穴なんじゃねーかなこいつ。

どこが似ていると言うんだ。


「違います。赤の他人です。ーー私のことは名前で読んでください」


明日香が小さい声で説明する。

深い事情があると踏んだのか神妙に岡崎は頷いた。


「あ、気になってたけどその犬は?」


「ブルータスです。仲間です」


ちょっとだけ明るくなった。

非常食って言ったらどうなるんだろう。

ヤバイな。死ぬわ。


岡崎は不思議そうな顔をしていた。

無理もない。

犬に食われそうになった奴が犬といるんだから。


「気をつけろ。噛むぞそいつ」


「噛むんですか!?」


「大丈夫ですよ。ワンコは苦手ですか」


「うん、まあ…」


「まず匂い嗅がせてあげるんです。それで慣れてくれますよ。ブルータスおいでー」


さっそく呼んだ。鬼畜かよ。

明日香のブルータスにおける信頼はどこから出てくるのか知りたい。


「ど、どうも?」


及び腰で岡崎がブルータスの鼻に手を近づける。

出血大サービスなことになったらどうするのやら。

見守っているとブルータスはパタパタと尻尾を振った。撫でろと言わんばかりに。

岡崎が撫でてやると頭を手に摺り寄せる。喜んでいる、のか?


あれれー納得いかないぞー。

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