四日目・彼と今更の武器
ブルータスが二回目の大きな音に驚いて私の後ろに避難して来た。
これは信頼されているということでいいのだろうか。
それならちょっと嬉しい。ではなく。
「おじさん……」
呟いてからお兄さんを見る。
お兄さんは私の視線に気づいたが何を言うわけでもなく銃を下ろした。それからうつむく。
私と目を合わせるのが気まずいのか、それともうつむき癖があるのか。
どちらでもいいが、弾を込めないのを見るとこれ以上撃つつもりはないらしい。
「……」
なんだか鼻に突き刺さるような臭いがする。花火の臭いに似ている。これは火薬だろうか。
私は銃に詳しくないからあまり自信を持ってはいえないけれど。
これ、人間を燃やした臭いよりはまだマシだが、いい臭いというわけでもない。
「…良かったのかな。今のは」
お兄さんがぼそりと言った。
地面を静かに見下ろしながら。
「この島では、自分の選択だけが正しいんだと思います」
ここはいつ殺されても文句が言えないのだ。
そういうゲームで、そういう島なのだから。
クリアできるのが一人だけというのはひっくり返せば九十九人が死ななくてはいけない。
「おじさんも…許してくれるに違いありません」
「え?」
「あのな。勝手に殺すんじゃねぇ」
後ろにいたおじさんが私の頭を鷲掴みした。
万力でしめられてるのかと思うぐらい強い。
心なしか頭蓋骨がぴしぴし言ってるんだけど気のせいだよね。
「痛いです」
「反省しろ」
「ジョークですよ。大人気ないですね」
「人を勝手に殺してんじゃねーよ!」
だってそんな空気だったし。
流れに合わせてみただけなんだけども。
「じゃあ今から事実のこととしましょうか」
「おお? 強気だなぁ明日香ちゃん。このまま首へし折るぞ」
「刺しますよ」
「あの…」
お兄さんがすごく困っていた。
「ん、ああ。ありがとうな。後ろのやつ片付けてくれて」
「いえ。あそこで撃たないと、攻撃されていたに違いないので」
お兄さんはおじさんを撃ったわけではない。
その斜め後ろから出てきたこの一連の事柄とはまったく無関係な人を狙ったのだ。
雉も鳴かねばなんたらというように、騒ぎを聞きつけてここに来なければまだ生きていただろうに。
ある意味タイミングが悪いとも言えるその人をおじさんが見てきた。ちゃんと靴履いてから。
そして持ってきた戦利品(戦いすらしなかったが)を私とお兄さんに見せる。
「自動式拳銃。あとは引き金を引くだけの状態だったよ。こえーわ」
言うより怖そうに見えない。
お兄さんの話によれば後ろからおじさんを狙っていたみたいだ。
卑怯だとは思うが私たちもわりと卑怯なことやってそうなので何も言えない。
まあ、この三人で誰が一番強そうかと言われればおじさん一択だもんね。
だから撃ったと。なんの恩も義理もない私たちのために。
「武器ゲットですか」
「ん。やっぱあったほうがいいかもな」
むしろ何故今まで持たなかった。
わざと持たないようにしていたみたいだが。
それはやっぱり、当初言ってた自殺志願に関わっていることなのか。
「すいません、その、僕の話を聞いてくれますか?」
「話?」
躊躇いがちに切り出されたそれに、おじさんが怪訝な顔をする。
ブルータスが空気を読まず甘えてきた。軽く撫でてやる。しっぽ振った。可愛い。
でもちょっと今シリアスだからまた後でね。
お兄さんは焦らしもせず、スマートに言い切った。
「僕も一緒にいていいですか」