四日目・彼女と選択の分かれ目
鉈のジジイは笑ってしまうほどあっさりと死んだ。
先ほどまであんなに脅威だったというのに、今はもうただの肉の塊だ。
生まれた理由だとか生きる意義なんて死体の前にはなにひとつ意味をなさない。
明日香が長く息をはきながら地に座り込んだ。ブルータスがそばに寄り甘えた。
おっかなびっくり頭を撫でてやりながら明日香は俺と青年を見比べる。
何を思うのか表情からまったく伺えないのは、数日の付き合いで分かっていた。
ただ、ナイフが入っているだろうポケットに触れないのは気になる。
それに誰かが現れた時は必ずポケットを触っていたはずだ。投げたナイフ以外にもう一本あるはずなんだが。
もしかしたら、警戒をしていないのだろうか。
年が近く見えるから? どことなくアホっぽい雰囲気があるから?
それだけで簡単に気を許すとは思えない。
「また、会いましたね」
青年がうつむき気味になりながら言った。
「なんだ。覚えていたのか」
「記憶力はいいほうなんで」
「ふぅん」
なぜ目を見て話さない。もしや引っ込み思案とかそういうのか。
長めの前髪に隠されてこちらも表情が読めない。
明日香といいこいつといい極力表情を見せないことがブームなのだろうか。
最も、彼女に比べれば幾らか表現豊かではあるみたいだ。
というより完璧な無表情のやつはそうそういないだろう。社会の中に出たら非常に生きにくそうだ。
「で、どっちを撃ちたいんだ?」
軽い調子で問いかけてみた。
青年の肩が跳ね上がり、明日香がブルータスをなでる手を止めた。
明日香はそのままゆっくり顔をあげ、俺と視線を合わせる。
「どっちって、私込みですか」
「当たり前だろ」
そう言うと無表情で頬を膨らませ、すぐにそれはしぼむ。
彼女なりの感情表現か。何を主張したんだ今の。
『不服だ』だとかそういう意味だろうか。
「私は」
明日香は立ち上がり軽く腕を広げる。
「お兄さんに命を一度助けられました。だから、私からは殺すつもりはありません」
犬から助けられた時のことを言っているのか。
なるほど、殺られるまでは殺らないと。最初からはナイフを持たないと。
明日香からは攻撃しないという表れーーだろう。
武士道みたいなことするんだな。
「俺は、別に撃たれても構わない。だが即死しなかったらてめーを殺しにはいく」
どちらにしろ、青年への抵抗は厳しい。
かなり腕前があると見たし、なにより弾の威力が強い。一発で重症だろう。
どうせ死ぬならそれこそ道連れだ。
「ふざけないで…ください」
青年が睨みつけるように俺をみた。
気が弱そうで、どことなく儚い顔をしていた。
流れるように猟銃を構えて、吐き捨てる。
「最初に会って別れる時、言ったじゃないですか」
青年は標準をあわせ、人差し指を引き金に引っ掛けた。
明日香が微かに身じろぎした。
どうするべきか迷っているように。
「忘れちまった。なんだっけ。重要か?」
「僕にとっては重要なことです」
本当になんだっけ。
そう言う前に二発目が発射された。