四日目・彼女と逃走の道連れ
ブルータスが先導して走る。
心なしかちゃんと足場のいいルートを考えてくれているようだ。犬なのに。すげぇ。
もしかしたら犬集団に遭った時に説得してくれたりして。
それは出来すぎか。
それにしても一日に一回ぐらいは逃げてる気がする。
別に、好きで逃げ惑っているわけじゃない。
どちらかというと追いかけられるより追いかける恋がしたい。冗談だ。有事になにを考えてるんだ。
「追ってきますよ!」
明日香が律儀に教えてきた。
後ろが気になるのは分かるが、また転けたらどうするんだ。
鉈でざくざく切られるのは確定してるぞ。
快楽殺人寄りだったら更に悲惨な死に方させられそうで怖い。
「じゃなかったら走らねーよ!」
「それは、そう、なんですけど」
それでも追いかけてきてるのが気になると。
気持ちは分からなくもない。
いやしかしどうする、俺。
なんかこう都合良く罠トラップないだろうか。ないな。
都合良く爆弾があるとか。ないない。
一日目のところに行けばあるんだろうが、そこまで体力が持つかどうか。あと場所があっているのかも不安になる。
後ろのジジイがさっさとくたばるのを待つしかないか。
ちらと後ろを見ると距離が離れてきている。
チャンスだ。ここで一気に引き離す。
「明日香! もっと早く走ってーー」
「おじさん前!」
「あ!?」
茂みから出てきた誰かに追突する。
人のこと言えなかった。後ろを見るときはこれから気をつけよう。
気をつけろ 俺は急に 止まれない。
地面にぶつかる前にとっさに受け身を取って衝撃を和らげる。
誰かもそれの巻き添えになり微妙に抱き合う姿勢となった。
「うわ!? なんなんですかあなた達!」
見ればいつぞやの猟銃青年だった。
だが、今は説明なんてしてられない。
明日香がナイフを取り出すのが目のはしに見えた。
少なくとも今は無理だ。いたずらに殺られる。
「うるせぇ! 自分で状況理解しろ!」
「ひど!?」
ショックを受けられてもそれに反応する暇なんてないんだけど!
心の中で悪態をつきながら起き上がる。くんずほぐれつなことになってなくてよかった。
仕方が無いから青年も引っ張って立たせてやる。
転んだのはお互い様だとはいえ、このまま見捨てるのは後味が悪い。
それにゴタゴタしていたら本当に追いつかれて明日香とジジイがバトりかねない。
「いいから行くぞ! 明日香! あと坊主!」
「坊主って僕のことですか!」
「やかましいわ!」
元気ですねぇと明日香が呟いた。