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四日目・彼と夜中の一幕

身体から甘い匂いがする。

何度嗅いだことだろう。私はこの匂いが嫌いだった。

弄ばれた事実をより明確に感じてしまう。


痛みしかなかった。

何がいいのかさっぱり分からなかった。


だけど、だけど私は演技してでもそいつらを満足させなければいけない。

そうしなければまた殴られるし、下手をすれば京香も『連帯責任』とかでとばっちりを食らう可能性だってあった。

そんな私たちをあざ笑うように存在した天井の汚れを私は何度眺め続けたのだろう。京香も見ていたのかもしれない。

事が終わったあと、私と京香は抱きしめあって眠ったものだ。


その時だけが、一番安心できた。

だけれども私はその場所までも失った。


ーーーーー


「明日香!」


突然の怒鳴り声。

私は意識をすぐに覚醒させる。

京香。京香は? 起きてしまっただろうか。

それとも二人一緒に起こされたのか。


「ごめ、ごめんなさい今起きますから叩かないでくださいごめんなさい」


「…起きろ、明日香! 深呼吸をして、周りをみろ」


「え…え?」


おじさんの顔がすぐそばにあった。あとブルータスも。

両手は押さえつけられている。


おかあさんは? オトウサンは?

いや、確か私がもう…京香は…


濁流のように記憶が流れたあと、ようやく現在へと頭が戻ってきた。

うっかり数年前に意識だけタイムスリップしていた。


「あの…なにかありましたか」


「お前、いきなり叫び出して頭を掻きむしってたんだよ…流石に慌てたわ」


そんなことがあったのか。

確かに、なんだか頭皮が痛い気もするけど。

おじさんの手が離れて、私の手首は解放されたが動く気にもならない。

全身が濡れた布のようだ。だるい。


「ごめんなさい…」


ブルータスがペロペロと頬を舐めてくる。

くすぐったい。

頬に手を当てると、濡れていた。泣いていた、ようだ。


「いちいち謝るな。もう少し寝とけ」


その表情はぼんやりとしか見えなかったが、心配している風なのは分かった。

まだ私を心配してくれる人間なんていたんだ。


「……優しいですね」


「悪いか」


「いいえ」


悪くはない。

この島でその優しさはいけないと思うのだけど。

おじさんはもともと優しい人なんだろうな。

私がそこにつけこまないとも限らないのにねぇ。


しばらくブルータスを撫でていたら落ち着いてきた。アニマルセラピー効果か。効き目はあるんだ。

おじさんは焚き火の後始末をしていた。星が出ていないのもあり、辺りは完全とは言わないが暗くなる。

静かだった。


「おじさん」


「あん?」


「私を襲ってもいいんですよ?」


物音がやんだ。

続けて深いため息。


「お前は欲情するなと言ったり襲っていいと言ったり…」


「気まぐれなんです」


「猫かお前は」


苦笑いしていそうな声音。

私のそばまで来て、そして座った。

輪郭が薄らと見える。


「そんな簡単に体を売るな馬鹿。お前の価値は体だけじゃねぇよ」


「……はい」


口説き文句みたいですねとか茶化してみたかったけどできなかった。

何故だかは分からないけど、また涙が出たからだ。涙声になってたら恥ずかしい。

暗くて良かったと思った。

きっと今、すごくぐちゃぐちゃな顔してる。




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